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一人目
匿い屋。
その名の通り匿ってくれる店。犯罪者など、誰でも匿ってくれる。ただ条件があるらしい。だが今の俺には関係ない。今すぐにでも匿い屋を見つけなければ。
1週間前。自分は妻を殺した。金の事で揉め、その場の勢いに任せてやってしまった。
もちろん警察に追われている。充電の少ないスマホで匿い屋を調べた結果、高知県の××山の中にあるらしい。嘘か本当かはわからない。普通の人はこんな馬鹿げた話信じないだろう。俺もこんな都合のいい話は信じていなかった。
しかしこんな目の前にどーんと「匿い屋」と看板があったら信じるだろう。現実か疑った。頬を叩いた。痛い。現実だ。中に入ってみる。暖簾をくぐり、中を見ると路地裏のような場所があった。本当に店なのか?そう思いながら藁に縋り付く思いで路地裏の中に入って行った。
「いらっしゃいませ」
低めの声。部屋の掃除をしていた男が言った。サングラスをかけているとても長身の男だ。
「驚きましたでしょう?路地裏の中に店があるなんて」
少し訛りのある言葉だった。
「あぁ…そうですね…」
「それで?いつまでお客様を匿えばよろしいんでしょう?」
男は少し考えた。逃げる事で精一杯だったからだ。しかし自分は殺しをやっている。匿ってもらえるのか?そう考えた男はこう言った。
「俺の時効が終わるまでなんて出来るのか?」
無茶振りだ。そんなの分かっている。
「はい!もちろんですとも!ただ…」
「ただ?」
「殺人罪については、刑の時効も刑法改正によって、2010年4月27日以降に廃止されています。」
そうだ。昔そんなニュースを見た気がする。男は焦った。すると長身の男は口を開いた。
「しかし提案があります。世間の皆様から記憶が消えるまで。というのはどうでしょう?」
「なるほど…」
「少々時間はかかりますが、それでもよろしいのならば。」
男はホッとした。時間はかかってもいい。何年でもいい。
「分かった。よろしく頼む」
すると男は紙を出してきた。
「これは?」
「契約書です。万が一ここで貴方が亡くなったりしたら、墓に埋められない、貴方のご先祖様のお墓に入れないというものです。その他諸々書いてありますので」
そういうと長身の男はペンを出してきた。これで書けということだろう。
男はこれで捕まらずに済むならと無我夢中で書き出した。
「あ、せやお客様のお名前聞いてもよろしいですか?」
「え?あぁ、羽崎コウキだ。あなたは?」
「私は秀(しゅう)と申します」
苗字は、と思ったが何か事情でもあったら気まずいだろうし聞くのはやめにした。
契約書を書いた後、羽崎は部屋に案内された。
「なんでもあるな…」
一人で十分生活できるような部屋。
「ここで生活してもらいます。お金もそこのタンスの中に入っとりますんで。では」
羽崎はまずシャワーを浴びた。その後は着替えてスマホを充電しながらスマホをいじっているとノックされた。羽崎がドアを開けると秀だった。
「言い忘れた事があります。羽崎はんも知ってはりますやろ?ここにいる為の条件」
「あー…あったなぁ。なんなんだ?条件って」
羽咲は金などと思い準備しようと思っていた。
「羽崎はんの寿命と死因をお伝えします」
意味が分からなかった。
「どういう事なんだ?」
何故か冷や汗がじんわり出てきた。
「そのまんまです。貴方の寿命と死因。条件はこれだけです。今からお伝えしてもええんならここで言います」
なんだ。ただそれだけか。羽崎はそう思い
「分かった言ってくれ」
すると秀はとんでもなく厚い本を片手で持ってきた。数十秒ペラペラとめくると
「貴方の死因は事故死ですね。頭蓋骨と神経を損傷。寿命は35歳までです。」
冷や汗が頬をつたってきた。自分は今35歳。まさかこいつにと思い秀に聞いてみた。
「それはいつ何時何分にとか分かるのか?分かるのなら教えてくれ!」
秀はにっこりした顔で
「ええ勿論!」
今までに聞いたことのない声だった。子供のような無邪気な声。
「午前2時31分22秒です」
羽崎は時計をみた。午前2時14分。自分はコイツに殺される。逃げないと。そう思った羽崎は、秀の事を払い除けて走って逃げた。靴も履かず。暖簾をくぐり、走って。
秀が追ってくる様子もない。安心した羽崎はコンビニに寄ろうと横断歩道を渡った。きっと羽咲は安心し切っていたのだろう。それが赤信号だとも見ずに横断歩道を渡った。
午前2時31分22秒
羽崎 コウキ
35歳 男
トラックに跳ねられ頭蓋骨と神経を損傷し死亡。