テラーノベル
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謳
7,082
白羽もく
133
#まだ、初めてなので、そんなに上手くありませんが見てくれると嬉しいです。
天月
83
「夏美ちゃん、今日の放課後はここに行きたいっ」
教室に入って自分の机に鞄を置いたとき。
待ってましたと言わんばかりに髪を揺らして桃乃があたしの前に来た。
桃乃はかわいらしいピンクのうさぎ柄のスマホをあたしに向ける。
「タルトタタン専門の店?」
「そうそう!最近インスタでも流行ってて、夏美ちゃんと行きたい!」
桃乃はそう無邪気に笑う。
この顔があたしの弱点で、こんな顔されたらなんでも許しちゃう。
「ん、いいよ。でもさ、インスタで人気なら予約取れないんじゃない?」
「その点ならだいじょーぶ!私が何か月も前からとってたからね。」
何か月も前に取った、この言葉に胸が締め付けられ、高鳴る。
桃乃はあたしと行きたくてそんな前から予約を取った。
その一言だけで充分だった。
「もしあたしがその日いけなかったらどうするのよ?もっと計画性をもちなよ」
心の中を悟られないように、この思いがばれないように。
あたしはいつものように親友として軽口をたたく。
「大事な用事なら仕方ないけど、夏美ちゃんなら、私のこと優先してくれるでしょ?」
わかりきったようにいうあなたが、あたしはキライ。
放課後。いつもより少し早く学校を出て、目的地へ向かう。
隣にいる桃乃はツインテールを揺らして、鞄を回して、今から行く場所への楽しさが隠しきれていなかった。
その危なっかしい姿をを車道側であたしは静かに見守る。
この姿を特等席で見られるんだから案外悪くないかも、と自分に言い聞かせる、それがあたしの日常。
「わー、きれい!すごいよ!夏美ちゃん」
「そだね、桃乃。」
店内に入るとそこは人でごった返してた。人気店というのもうなずける。
おしゃれできれいな店内を見渡しながら名前を呼ばれるまでソファーに座って待つ。
隣に座る桃乃は目をキラキラさせながら念願のお店に興奮している。
その姿を可愛いな、愛おしいなと思うあたしはなにかおかしいのだろうか。
「ん?夏美ちゃんずっと見つめてどうしたの?私の顔、なんかついてる?」
桃乃に顔をのぞき込まれてドキッとする。
至近距離で見る桃乃は男の子の告白が絶えないという噂もあってるぐらいかわいい。自分の煩悩を払うように頭をぶんぶん振った。
「ううん。大丈夫。ただ喜んでてかわいいなって……」
次第に声が小さくなる。あれ?これって自爆では?*OUT*では?
「うん、だって夏美ちゃんと行けてうれしいもん!」
屈託のない笑顔で言われてどうしようかと迷っているとき、救いの声が聞こえた。
「二名で予約の川瀬さん。お席にご案内します。」
「あ、はーい」
店員さんについていった桃乃の後を追った。
案内されたのは二人掛けのテーブルで、太陽がいい感じに差し込んでいる。
「ごゆっくりお過ごしくださいませ」
メニュー表を渡して店員さんは笑顔で去っていく。
メニュー表を渡された桃乃は何食べよっかなー、とウキウキでページをめくってる。
太陽に照らされて輝く黒い髪に、透き通るきれいな肌。かわいらしい笑顔。揺れる桃色の瞳。
そんなとこばっかに目が行くんだからあたしは、やっぱり___。
「夏美ちゃんは何にする?私はこれにしようと思ってて。あ、いやでもこっちも……」
「桃乃はこれ頼んだら?あたしはもう片っぽにするから、ね?」
「え?いいの?」
「うん。半分こにしよ。」
「うん!!」
注文して少し経った頃。
「そ、でね、あの男の子が……」
桃乃の好きな男の子の話が始まった。いわゆる恋バナ。
同じ学校で先輩のある男の子に惚れてるそうだ。
名前は恥ずかしいから、という理由で教えてもらってないけど。
出会ったのは一か月前だということだ。話を聞いてても、あたしの方がもっと長くにいるのになーとかそんな男よりあたしの方が桃乃のことが好きだし、と思ってしまう。
「でその、こ……あ、えっと男の子が、恋人居るかもしれなくて」
ほら、やっぱり。桃乃にはそんな男似合わないよ。
喉まででかかった言葉を飲み込み、反応に困っていると、
「ご注文の品を持ってきました」
と店員さんがやってきた。おぼんの上にはおいしそうなタルトタタンが二つ。
「お間違えないでしょうか?」
「はい」
「では、ごゆっくり」
店員さんがまた笑顔で去っていく。いただきます、と手を合わせフォークを手に取る。
「ん、おいしー」
「うん、絶品だね」
「これならいくらでも食べれるよ~!」
「それは太るからやめな。ただでさえ甘いもの食べ過ぎてるんだから」
あたしは軽く笑ってタルトタタンを一口頂く。
「ちょっと、現実を見せないで!まだ男の子のことで病んでるんだから…..」
「まだそのこと?」
「一大事だよ!夏美ちゃんはかわいいから大丈夫だろうけどさ、」
「…っ、」
ずるい。ずるいなぁ。ほんと。
あたしは遠慮してかわいいなんて言ってないのに。言わないのに。
軽々と桃乃は言うんだもん。対して接点もない男の子のために病んで。
あたしが目の前にいるのに。ほんとにそういうところが、ずるいなぁ。
「ん?夏美ちゃん?どうかした?」
「ううん、まーねって思って。」
「ほら!モテる女の余裕!」
「そんなことないよ~」
「謙遜!」
「はいはい、落ち着いて。ほら、こっち食べたいんでしょ。あーん、」
「あーん」
そっちがその気なら、こっちも親友としての距離を保ちながらもやらせてもらうから。
差し出されたフォークを、桃乃が何の疑いもなく食む。
その柔らかそうな唇が、一瞬だけ自分の使ったフォークに触れる。
「ん、こっちもおいしー。やっぱ甘やかしてくれる夏美ちゃんしかないよー」
無邪気に笑う桃乃を見ながら、あたしは自分の心臓の音が店内の喧騒より大きく響いていることに絶望する。
「はいはい」
高鳴る胸を隠しながら軽くあしらう。
「ほんと、夏美ちゃんが男の子だったらよかった」
うん、あたしも。あたしが男の子だったらってどんだけ考えたことか。
けど別に男になりたいわけじゃない。
桃乃を守れる特別な存在として、親友とは違う特別な存在としてそばにいたいだけ。
「夏美ちゃん。今日は付き合ってくれてありがとう」
「うん。もちろん。明日もどっか行く?」
「うん、明日はね、新作のコスメ買いたいし~、」
「しょうがないから付き合ってあげるよ。」
「うん、夏美ちゃん、大好き!ずっと親友でいようね。」
「うん。あたしも桃乃のこと好きだよ。ずっと親友でいよ。」
チクリと痛む胸を隠して。今日もあなたの一番の親友で居る。
これがあたしの幸せ。
親友とは違う特別な存在になれないなら、ここで我慢することにする。
せめて、この席がだれからも奪われないように。
~end~
コメント
1件
ああ、もう…胸がぎゅっとなりました。 夏美ちゃんの「親友とは違う特別な存在になりたい」っていう気持ち、すごく伝わってきました。桃乃の無邪気な「ずっと親友でいようね」が、めちゃくちゃ刺さるんですよね…。あの明るい笑顔の裏で、自分の気持ちを隠して「親友」でいる選択をする姿が切なくて、でも尊くて。 タルトタタンのシーンも、あーんのやりとりも、一つひとつの描写が丁寧で、読んでいてドキドキしました。続きがすごく気になります…!