テラーノベル
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#ストグラ
鮭
20
イケ
188
『でも、それでも私……っ、 』
『祐介さんのこと、愛し続けてますから…っ』
『あぁ……ありがとう』
「お涙頂戴ってああいうことを言うんかね?」
話題の映画のエンドロールの途中、夕コは興味無さそうに呟いた
「さあねぇ…そうなんじゃない?」
「ふーん」
答えになっていないが、彼女は少し考えて納得したようにみえた。
「こういうのって大体泣かせにくるじゃん」
「まー別に、お涙頂戴では泣かんけどね」
エンドロールが終わったところでリモコンに手を伸ばし、ポチポチ画面を変えていく。その一連の流れの中で言ったそれは実に彼女らしいものだった。
「夕コさんにはお気に召さなかったかー」
「いい暇つぶしではあったよ」
「…何」
「別に〜」
画面を眺める整った横顔にすっかり見入ってしまっていた。少しむっとした顔を笑うと、眉間にシワを寄らせて不満気に表情を変えた。コロコロと変わるのが面白くてからかいたくなるが、俺はいい歳した大人だ。年下の女の子だという事実がぐっと気持ちを抑える。
俺は彼女に恋している。だが、年齢という大きな決して縮まることのない差が壁となり俺を制す。まあ相手があれなら好都合だ。人望も能力も持ち合わせたド美人。俺なんかと釣り合う訳がない。変に拗らせずに心の中に閉まっておくのが1番賢い。
「ま、結ばれるのが1番いいんだけどね」
「なに、さっきの映画の話?」
「んー?こっちの話」
「あーーむりだ、レダー送って」
「えぇー??いいけど。どこ?」
めんどくさい。それだけの理由で人間の体はこうも言うこと聞かなくなるものか。なんてったってこれから知らない女の子との食事。何がどうなってこうなったかなんてよく分からない。こんな日は好きな人の隣に座って中和するのがベストなのだ。
ちらっと横顔を覗く。どこか緊張したような凛々しい顔つきが、すぐ隣に居るという事実を一層際立たせ、胸を弾ませる。
気分が浮かない日はこうして運転してもらっている。毎回はいはいとすんなり承諾されていて、嫌がる素振りも見せられたことがない。 少し申し訳ない気持ちもありながら、今の丁度いい立場に甘えきってしまっている。
まぁ、今の俺は完全に都合のいい女という訳だ。
「ありがとう」
「ん、また連絡して」
迎えも恒例となっている。返事をしてからドアノブに手をかけ、店の中へ入る。
「こんばんは〜」
「こんばんは」
窓の外を眺めていた彼女に、表面だけの笑みで会釈する。
めんどくさいのはあちらも変わらないようだ。本当に、どうしてこうなった。
「そういえば夕コさん、車に誰かいました?」
会話のネタが無くなってきた頃に彼女が言った。
「あー、レダーです。ただの送迎で」
『2人きりで』との事で集まっているので、一応、念の為の説明も付け加えて答えた。
今頃あいつが何をしているか想像するだけで心が穏やかになる。いつの間にか自分でも気づかないうちに、相当好きになっていたようだ。
フォークで少し冷めた肉を頬張る。冷たくなっていても味は美味しい。このままいけばなんだかんだすんなり終わりそうで、そっと胸を撫で下ろす
「あぁ、レダーさん」
しばらく考えるような素振りを見せたと思えば、下手な演技でもしているかのように呟いた
「レダーが何か?」
「いえ、そうではないんですが」
「……レダーさんって、…悪気ないんでしょうけど、期待させるの上手ですよねぇ」
少し笑いを含んだ声色で言った。
「手練と言いますか、女の子にはああして優しくしてあげてるんですよ、レダーさん」
「つい先日だって、よく会ってた私の友人が告白したらあっけなく振られたみたいで。無自覚なんでしょうね、本人は」
「……へぇ」
まるで、レダーのことを知り尽くしたような話しぶりだった。
とはいえ、所詮他人の女。気にする事でもない。
「許してやって下さい。何せノンデリなもので」
「ふふ、別に怒っちゃいないですよ」
「夕コさんも、お気をつけて」
「…ありがとうございます」
にっこり笑ってみせた。レダーはそんなやつじゃない。俺だから言えることだ。本当かも分からないような噂、増してや人の話に惑わされるような俺じゃないんだ
「今日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。夕コさんのお話も、いつか聞かせてくださいね」
あの後、何度か俺とレダーの関係を探るような動きがあった。気付かないふりで流していたが、バレていたようだ。
そんなことを知って何になるんだ。俺とレダーの関係なんて他人にこれっぽっちも関係ないだろう。
「…はぁ」
モテる男も大変だな。
店から少し歩いたところにあるベンチに座ってレダーを待つ。
はやく会いたい。
「_やめてください!」
数メートル先の路地裏から女の子の声が聞こえた。ハンドガンの準備をして路地裏を覗く。
「何回言ったらわかるんですか!」
「えぇ〜。いや、ちょっとでいいからさあ」
「嫌ですよ!もう間に合ってるんです!」
間延びした、穏やかな男の声。身長もそこそこあって、いい体つきをしている。
いや、あれはレダーだ。
「ちょっとでいいんだよ?お願い!」
「レダーさんしつこいですよ!」
「……はあ?」
何してるんだ。女の子嫌がってるだろ。
あんなこと普段しないのに、なんで
「………あぁ」
なんだ、そういうこと。
それなら言ってくれたら良かったのに。同じギャングのよしみだろ。全く、あいつはいつも隠したがる。悪い癖だな。
邪魔しちゃ悪い。先に歩いて帰ろう。
あー、あいつは本当にだめなノンデリ男だ。あんな詰め寄ってちゃ女の子に気なんて持って貰えないぞ。みんなに平等に優しく、気の使える男で、かつ好きな子だけには特別にしなきゃ。他愛もない、しょうもない話で盛り上がって笑って、会っていくうちに話していくうちに好きになる。
そういうもんだろ。
ドアを開けて中に入る。よかった、誰もいない
和やかな声。柔らかな笑み。
周りの女の子達より、俺は大切にされている自信があった。俺のわがままにも文句を言いながら笑って付き合ってくれて、俺が危ない目にあっていたとわかると声を荒らげて叱ってきた。 少なくとも、俺はそう思っていた。
…でも、そうじゃなかった。
おれじゃなかった。
「……お涙頂戴か。だっさいな、おれ」
あいつのいちばんになりたかった。
心から、愛していた。
叶わない叶わないと謳っていた恋は、本当に叶わないものになってしまった。
「…はは」
そう、小さく笑った。
題名「お涙頂戴」
コメント
1件
読み終わりました。なるほど……これは「お涙頂戴」ですね。映画の感想を装った自己憐憫の物語。レダーが夕コに恋してる自覚はあるのに、年下の別の女の子に優しくしてる姿を目撃して「自分だけじゃなかった」と気づくラスト——冒頭の「結ばれるのが1番いいんだけどね」の台詞が、あとから重く響いてきます。レダーが自分を「都合のいい女」と位置づけていたのに、実はもっと軽く扱われていたという構造が切ない。最後の「だっさいな、おれ」の自嘲が、本当に胸に刺さりました。