「ねえねえ、イケメンってどんな人だろう? ドキドキしちゃう」
「西岡さんが言うには、かなりのイケメンだからすぐわかりますよって。あまりのイケメンぶりにびっくりしないで下さいねって」
「え~やだぁ~嘘でしょ? 私、イケメンに弱いのよ」
保育士の先輩達が楽しそうに話してる。
かくいう私も、飛び交う「イケメン」というワードについ耳が反応して。
どうやら園児のパパの体調が悪く、代わりにパパさんの友人が代理で迎えにくるらしい。
そして、その人がかなりのイケメンみたいで。
確かにそこまで言われたら気になっちゃう、いったいどんな人なんだろうって。
でも……
たとえどんなに素敵な人が現れたとしても、あの人を超える男性なんて1人もいない。
そう、私には「あの人」だけ。
それは、どんなことがあっても生涯変わらない。
お迎えの時間がやってくると、残っていた先生達がソワソワしだした。
まだ見ぬイケメンさんとのご対面に、少なからず緊張しているのがわかる。
「こんばんは、失礼します」
来た!!
その少し低めの素敵な声に、みんなが一斉に振り向く。
入口のドアを開けて颯爽と入ってきたその男性は、まばゆいばかりのオーラを放ち、そこにスっと立って微笑んでいた。
その瞬間、部屋の奥の方にいた私の体に衝撃が走った。
えっ……?
体中の全ての動きが止まる感覚。
どうして……
勢いよく心臓がバクバクして、心と体が震え出す。
私はすぐに向き直して体を縮め、できるだけ顔を見られないように慌てておもちゃを片付けるフリをした。
嘘でしょ、別人?
他人の空似?
「西岡 真斗(まさと)君のお迎えにきました。代理の者です」
声まで似てる……
ずっと長い間、頭から離れなかった、あの声。
ちゃんと覚えてる、忘れるはずない。
気づかれたくないのに、気になってチラチラとその人を確認したくなる自分がいる。
激しい動揺が私を襲い、動かそうとする手が言うことを聞かなかった。
「真斗(まさと)君! お迎えにきてくれたわよ、いらっしゃい」
「はーい!」
先生に呼ばれて、真斗君は遊ぶ手を止めて大きな声で返事をした。
そして、一目散にその男性へと走り寄り、長い足にしがみついた。
「慶都おじさん! 来てくれてありがとう」
「真斗、いっぱい遊んだ?」
チラッと見たら、その人はオシャレで高そうなスーツがシワになるのも気にせず、子どもの目線までしゃがんで話しかけている。
その男性のことを、真斗君は確かに「慶都」って呼んだ。
顔も、声も、名前も……同じ。
まさか、本当にあの人なの?
「うん。楽しかったよ! 早く一緒に帰ろう~」
「そうだな、パパのところに帰ろう。先生、ありがとうございました」
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