真斗君にずいぶん懐かれたその男性は、丁寧に頭を下げてそのまま帰っていった。
「嘘みたい! 何よ、あの超絶イケメン! 想像を遥かに超えてきたわ」
「ほんと! ちゃんと化粧してくればよかった~それにしても世の中にあんな綺麗な人っているんだね。 久しぶりに本物のイケメンを見たわ。まだドキドキしてる」
先生達はかなり興奮している。
いつもと違うただならぬ雰囲気に、理久先生が奥の部屋から出てきた。
「どうしたんですか? ずいぶんにぎやかですね。彩葉先生、顔色悪いみたいですけど大丈夫ですか?」
「えっ?」
私、そんなに顔色悪い?
「彩葉先生、もしかしてさっきのイケメンさんとお知り合いですか?」
突然の質問にドキッとした。
「あっ、え? ど、どうして?」
「……あ、いや、あの人が入ってきた時に、瞬間的に顔を背けた気がしました。見られたくないのかなって」
理久先生に大正解を出され、かなり困惑した。
透明な壁で仕切られた奥の部屋からは、私の怪しい行動が丸見えだったらしい。
「べ、別に何でもないよ。気のせいだから」
そうやって下手な芝居でごまかしてはみたけど、理久先生ってこういうのに敏感だから……嘘ついてるの、バレてるかな。
いつだって人の気持ちが良くわかる人だもんね。
理久先生は、本当にすごく優しい先生なんだ。
「スーツ姿があんなに似合うイケメン、なかなかいないですよね。あの雰囲気、男の僕からしても憧れます」
そうだよね……あんなカッコいい人、他にいない。
やっぱり、あの人は九条さん。
「九条 慶都」さんだよね。
どうしてこんなところにいるの?
ずっとずっと想い続けて、必死で忘れようとしても全然忘れられなくて、消したくても消えなくて。
それでも、ようやく少しずつ自分らしく前に進めるようになってきたのに……
こんな再会……有り得ないよ。
間違ってもあの人に自分だと気づかれては困る。
絶対に、彼に迷惑はかけられないから。
「ごめんね、理久先生。私、もう帰るね。お疲れ様」
突然の九条さんとの出会いで、情緒が不安定になってるのがわかる。
緊張の糸が途切れず、ずっと心臓がドキドキしたままで、さっきから全然元の自分に戻れない。
他の先生達の顔もまともに見れないし。
「お疲れ様です。お先に失礼します」
私は、入口近くにいた先生に頭を下げた。
「あっ、ねえ、彩葉先生。さっきのイケメンさん見た? すごく素敵な人だよね~」
「あっ、そ、そうですよね。すみません、じゃあ失礼します」
「彩葉先生? 大丈夫? どうかした?」
「い、いえ! 全然大丈夫です」
変な顔で無理やり苦笑い。
私って、自分の気持ちを隠すのがこんなに下手だったんだ。
あまりの衝撃から立ち直れないまま、とにかく保育園を急いで飛び出した。
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