テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「へえ、ここが新しい『消去対象』のクソ世界か」
バグったノイズを全身に纏い、空間を引き裂いて現れたのはエラーサンズだった。彼の目的は一つ。この歪んだタイムラインを「デリート」し、無に帰すこと。
その禍々しいオーラは、空間そのものを恐怖で震え上がらせるに十分だった。……ただ一人、その空間に佇む「19歳の青年」を除いて。
「……はぁ。いらっしゃいませー。」
カウンターの奥から響いたのは、完全に魂の抜けた、それでいて酷くドスの利いた声。
ファーストフード店『Mettaton’s』の制服を着たバーガーパンツは、突如現れた異形を前に、眉一つ動かさずにレジを叩いていた。
エラーサンズは不敵に笑い、青い糸を指先から這わせる。
「ハッ、怯えもしないか。安心しろ、お前のその無意味な人生も、この世界ごと今すぐ『無』にしてやる。お前らに残された時間はゼロだ」
「は? ゼロ?」
バガパンの額に青筋が浮かんだ。
「あのさぁ、お前が誰だか知らねえし、その全身のデジタルモザイクも中二病全開で痛々しいんだけど……『時間がゼロ』って言葉、俺の前で二度と使うなよ」
「……何だと?」
「俺の残業代が出ないサービス残業の時間に比べたら、世界の終わりなんて一種の有給休暇みたいなもんなんだよ!!」
バガパンはカウンターを激しく叩きつけた。その顔は、エラーサンズのバグノイズよりも遥かに恐ろしい「本物の絶望」に満ちていた。
「いいか、よく聞けよ空間ブレイカーさんよ。お前は『世界を消す』とか大層なこと言ってるけどさ、それって要するに『現場の都合を無視した突然の仕様変更』だろ!?」
「仕様……変更?」
「そうだよ! 俺が昨日、あのクソロボット社長に『明日までに新商品のグリッシーニを1万本作れ。出来なきゃ給料泥棒ね』って言われて、徹夜で油まみれになりながら揚げたこのフライドポテトとバーガーを、お前は一瞬で無に帰すって言うんだろ!?」
バガパンは自分の胸ぐらを掴むようにして叫ぶ。
「お前にとってはただのデリートかもしれない! でもな、現場で働いてる人間にとっては、『上が勝手に決めたプロジェクトの白紙撤回』なんだよ! どんだけ現場の労働力を軽視してんだよお前は! 経営陣の回し者か!? ああん!?」
「お、おい、俺は別に経営陣じゃなくて、エラー……」
「地獄に連れてくだと!? 笑わせんな! 何言ってんの? 俺にとってはここが既に地獄なんだよッッ!!!」
バガパンの目が、完全に据わっていた。19歳にして、すでに何周も人生を絶望しきった男の眼光。それは、無数の修羅場をくぐり抜けてきたエラーサンズすらも一歩退かせた。
「お前さ、世界を消す前に『引き継ぎ』の準備はしたの? 監査は通したの? 消去した後の有形資産の償却はどうすんの? 誰も責任取らないまま勝手にシャットダウンして、後で苦情が来たら誰が対応すると思ってんだよ! 全部俺たち平社員に回ってくるんだよ!!」
「いや、俺はすべてを破壊する存在で……」
「破壊するだけならフリスクとかいうニンゲンでもできるんだよ! 『壊した後の始末書』を書いたことがあんのかって聞いてんだよ!!」
ゴゴゴゴ……と、バガパンの後ろに「社畜の怨念」が具現化していく。
「お前みたいな『突然降ってきた納期クラッシャー』のせいで、俺のなけなしの睡眠時間が削られるのはもう御免なんだわ。それらができないなら…」
バガパンは笑顔を作った。接客業の、恐ろしく張り付いた、目が一切笑っていないプロの笑顔。
「……業務妨害で今そこにいるインク呼ぶから。嫌ならさっさとそのバグった糸片付けて帰れ。」
「…………」
#ネタ
#挿絵
KEY-STU
26,528
1,686
桃 瀬 蒴
55
エラーサンズは、静かに指先の糸を収めた。
数々の世界を滅ぼしてきた彼だったが、「労働基準法」と「現場の怨念」という、概念の異なる圧倒的な重圧に完全に気圧されていた。ここで世界を消したら、この青年に化けて出られ、永遠に始末書の催促をされかねない――そんな本能的な恐怖すら感じていた。
「……チッ、労働環境の悪いタイムラインは、放っておいても自滅する。わざわざ手を下すまでもない」
エラーサンズはそう吐き捨てると、そそくさと空間の裂け目へと消えていった。
「……ふぅ。ったく、変な客」
静まり返った店内で、バガパンは大きくため息をつき、再びレジに向き合う。
世界は救われた。19歳の青年の、限界を超えた社畜精神によって。
「あーあ、早く家帰って寝てぇ……。あ、俺、今日24時間シフトだったわ……ハハ……」
完。
(自分でも何書いてるのかよくわからなかった)
コメント
3件
「社畜の恐ろしさ」、めっちゃ笑ったw バガパンの「世界の終わりよりサービス残業の方がヤバい」理論、わかる気がする……。エラーサンズが引き継ぎ面倒くさがって逃げたの、クスッときた。19歳の絶望くん、今日もお疲れ様です🥀次回も読みたいです!