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「ごめん、暑すぎて溶けそうだから先コンビニ行ってくる」
…普遍的な愛と欲と安心感。
いろんな人がこれを家族や恋人に求めている。
…求められる人がいるのならば、の話だが。
桃井ないこ、17歳。
双子の姉は面倒見が良く、今では国民的アイドルとなっている。
だが幼少期に生き別れ、それ以来生では会っていない。
それに…
「…次はもっと頑張ってね」
「あんたなんて産まなきゃよかった」
「ほら、もっといける」
「死ねばいいのに」
同じ人の豹変ぶりばかりみて、周りの人が信じられなくなった。
きっと今姉にあっても信じられるわけではないだろう。
だから俺は嘘をつく。
周りに俺を誤魔化す嘘を。
全てはこの心地良い、生温い混沌に存在する為に。
平な地面と細い紐が交わることはない。
それはコンクリートとポリエチレンでも同じようなものだと思いながら目の前で実験をする彼を眺める。
「しょーちゃん、帰ってゲームしようよ」
「しょにだ、今日こそは勝つ」
「ちょっと待ってやいむくんたち、上手いこと言ったら話のネタになんねん」
「めんどくさいな、僕先帰っていい?パピコ食べたかったらから一緒帰ろって言ったのに」
「待って僕も食べたい…しゃーないな、一緒帰ろ」
「俺は普通にガリガリ君食べよ」
桐谷ほとけ、16歳
兄と腹違いの妹がいる。
妹は今はアイドルをやっているようだが興味もないししばらく会っていない為声も顔も忘れてしまった。
みんな嘘をついて、それが愛になるならそれでいいと思った。
この心地良い空間を壊してまで世間一般の愛を手に入れたいとは思わなかった。
僕たちが二人でも集まれば、そこは生温い混沌と化して風が吹いた。
それで良い。
僕が何かをしでかして、この心地よい空間がなくなるのなら、もう僕はなにも成し遂げられない人でいいんだ。
コンクリートにポリエチレンを垂らす白髪を眺めていた。
横には弟。
少し先には旧友がいて、自分にとっての兄貴がいて。
みんなの弟もいた。
幸せなため息をつく。
桐谷威風、17歳
弟と腹違いの妹がいる。
妹は今、アイドルとしてとても有名だと聞いているがまず持って全然会っていないためなんという名前かすらも覚えていない。
一人、でも別に耐えられないことはなかったはずなのに。
いつしか一人でいることが怖くなった。
だから、俺はこの六人でいることを望む。
お互いに生産性などない、無意味な会話をして、生温い風が吹いて、暑いねなんて笑ったり。
関わって欲しいとは思わないけど、関わらないで欲しいとも思わない。
お互いに詮索はしない。
いつしかこの空間を守ることが、自分の使命だと思った。
ポリエチレンを地面に落とす。
思った通り絡まることはない。
…それくらいはわかっている。
わかっているくせに少し揶揄われて、コンビニでアイスを買って、六人で並んで食べた。
僕といむくんはいつも通りパピコを分け合って食べて、
まろちゃんはガリガリ君。
りうちゃんは何かお菓子を食べていて、
ないちゃんは売れ残っていたバニラアイス。
悠くんはいつも食べているレモンシャーベット。
夏のいつもの風景。
日野森初兎、16歳
小さい頃から幽閉されており、その時にたまたま通りすがった青い兄弟に助けを求めた。
家族構成は知らない。
知る必要もないと思う。
みんなとは、
これまでもずっと一緒にいたし、
これからもずっと、絶対一緒にいるけど。
それでもこの1秒1秒は大切にしたい。
僕が僕であるために、ここは必要不可欠。
欠けちゃいけない。でも満たされてもいけない。
ちょうど悪いくらいが、ちょうどいいんだ。
「ねぇ兄貴、これどっちがいいと思う?チョコと、くっきー」
「だったらチョコチップクッキーでええんとちゃう?」
「確かに、ニキ天才」
軽口を叩き合って、
笑って、
それがりうらの、りうらだけの、りうらのための幸せ。
それ以外いらないの。
「あ、エックスフライドポテトも買っていこ」
「ほんまポテト好きよな」
「うん、好き」
花里李羅。
自分の名前が嫌いで、でも全否定すると自分まで否定されているようで辛い。
だから名前を誤魔化して、性格も誤魔化し続けている。
孤児院育ち。
こういうのっぺりした空間が好き。
なにも特別なことはないけど、
なにも嫌なこともなんにもない。
こうやって六人でいる時間が好きで、
壊したくない。
だから自分を偽ることも構わない。
むしろ、六人でいる時のりうらは完全な自然体で、
これがりうらの普通で、
李羅なんて知らないの。
これがりうらの、幸せな当たり前。
「ねぇ兄貴、これどっちがいいと思う?チョコと…クッキー。」
「ん、だったらチョコチップクッキーでええんとちゃう?」
「確かに!ニキ天才」
弟のような存在と笑って。
いつも選ぶレモンシャーベットを手に取って。
慣れた手順でレジに向かう。
ほぼ毎日いるレジの満面の笑みのお姉さんに礼を言ってコンビニを出た。
空は雲。
笑顔で手を振りながらも既にミルクアイスに見えるものを齧り始めるないこに満面の笑みで返して、寒色たちがコンビニを出るのを待つ。
花里悠佑、17歳。
花里李羅とともに孤児院を出て、現在二人ぐらし。
よくわからないバイトに手を出しては自分で介抱したり李羅に手当てしてもらっていたらしいが、今はアミューズメントパークスタッフのバイトをしている。
レモンシャーベットはさっぱりしていて美味しい。
カラッとした空気は暑くて、でもべたつかずに、場所を移動しなければスッと離れていってしまう。
離れないように、でもべったりはなんか違う。
一夏の思い出にはさせない、できない、永遠に続く俺らの依存劇。