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この物語はフィクションである。
というか、この世の大抵のことはフィクションである。
捏造して誇張して都合の悪い部分はきれいに隠す。
ならば上手な嘘をついてほしいのがアイドルファンというものだ。
この世界《芸能界》において嘘は武器だ。
アイドルグループ「B子町」の絶対的エース。不動のセンター究極美少女の16歳
──アイ
「結成から4年。じわじわと人気を上げてきてメディアの露出も増えようやく世間に見つかったって感じ!?ここからだ、ここから彼女はスターダムへと─」
彼は医者のゴロー。メガネが似合っていて、まあイケメンの道中には入っていると思う。
「先生、なんで患者の病室でアイドルのDVD流してるんですか。常識に考えておかしいでしょう。」
ゴローの後輩看護師。まだ若い、髪をまとめた女性だ。
「美しいものを見ると健康に良い。それが医師としての見解だ。」はつらつと言い訳を続けている。
「あ、そういえばセンセ。さっきツイッターのトレンドに、、、、」
「えぇー!?アイの活動休止だとぉーーーーー!?」
「ロリコンですね」
「それだけは言うな。」
ゴローは見晴らしのいい展望台から空を見上げた。
「理由があんだよ。理由が。」
そのときあった一人の患者がゴローの人生を変えた。
「で、、、!この子がめいめい!ダンスが上手いの!歌はきゅんぱんとありぴゃんが良いんだけど、やっぱ私の推しは〜」
「アイ一択でしょ!」
楽しそうに推し語りをしているのは、天童寺さりな。12歳。赤外線治療で髪の毛が抜け落ちているため、可愛いニット帽を被っている。
「私と同い年なのに大人っぽくて歌もダンスもうまいの!何より顔が良い、、、生まれ変わったらこの顔が良い、、、」
何言ってんだよと呆れ顔のゴローに、さりなは夢がないねせんせ。とほっぺを膨らましている。
「もし芸能人の子供に生まれていたらと考えたことはない?」
雪景色の窓を眺めながらさりなは続ける。
「容姿やコネクションを生まれたときから持ち合わせていたらって。」
「ない」
「やっぱり夢がないなぁ」
ゴローは思った。確かにこの先、死を待ち続ける立場の人間でしかない。でもやっぱりそんなこと言ってほしくなかった。
「さりなちゃんも十分かわいいじゃん?生まれ変わる必要なんてない。」
照れ隠しだろうか。少しそっけない顔をしている。
「退院したらアイドルにでもなれば良い。そしたら俺が推してやるよ。」
さりなの顔がぱっと明るくなる。途端にゴローに抱きついた。
「せんせ好き!結婚して!」
社会的に死んじゃうから勘弁してなどというが、振りほどこうとはしなかった。さりながいつもこうしてくるのは、さみしいからとわかっていた。
「残念だったな。16歳になったら真面目に考えてやるよ。」
「、、、、16かぁ。」
目をキラキラさせた。でもさりなもわかっていた。そんなに長くは生きられないって。
せんせ、いじわるだね
現実的なプランだろ
「退形成性星細胞腫《たいけいせいせいせいさいぼうしゅ》。まだ12歳だった。今でも生きていたらアイと同じ16歳。彼女が好きだったアイドルとさりなちゃんを重ねてみてたんだろうな。彼女が夢見た道を歩く、、、、。その姿を見届けたいだけなんだよ。」
「結果ロリコンって事ですね」
「話聞いてた!?結構感動的なエピソードだったよねだったよね!?」
ゴローは慌てふためいた。が、後輩看護師は冷静に物事をばしばしと発言する。
「でもそのアイって子が付き合ってっていってきたら付き合うんでしょ?」
ゴローは答えることができなかった。
「さて昼休みも終わりだ。仕事に戻ろっと。」
中に戻っていくゴローの背後で、どうなんです先生。さりなちゃんの名に賭けてどうなんです?としつこくきいている。
ゴローが仕事に戻ると部屋でお客さんが待っていた。サングラスの中年くらいの怖そうな男性と、うるつやロングの帽子を深く被った少女。
「はいおまたせしましたっと。」
ゴローは椅子に腰掛け、質問をする。
「えっと、、、、星野さんは初めてですね。」
はいと少女が答えた。
お腹の具合はだいたい20週って所か、、、初診察にしては大分遅いタイミングだな。資料を見て考える。年齢は16。なるほどわけあり。誰にも相談できないままここまできたパターンか。
「あなたは親御さん?」
すこしどもりながら、中年の男性が答えた。
「まぁ戸籍上は、、、彼女は施設育ちなもので。実質、後継人というか、身元引受人というか、、、。」
落ち着いた様子でなるほどと答える。16歳施設育ち。どこかできいたことのあるはなしだ。まるでアイドルの──
彼女が帽子をすっと外すと、ゴローは息を呑んだ。紫味がかかったうるつやロング。吸い込まれるような天性の瞳、、、。
「準備がありますのでお待ち下さい。」と部屋を出る。
ちょいちょいちょいちょい!?えっ本物!?アイのそっくりさん!?いや長年のファンの俺が見間違えるハズがない!!
そう、彼女はB子町の絶対的エース。不動のセンター究極美少女の、「星野アイ」だった!
じゃねえ!!推しのアイドルが妊娠しとる!!
ゴローはショックのあまり地面に頭をぶつけた。でもいまはそんなの知ったこっちゃない。
ショックすぎてゲボ吐きそうなんですけど!!
「アイ、、、、本当にどうしてこうなった。」
ドアの隙間から聞き耳を立てているゴローは、ほんとそれだよ!!と思った。
「どうして社長である俺に相談しなかった。相手の男は誰なんだ、、、、」
「それは、、、」
恐る恐る耳を傾ける。
「えへへ内緒!」
といって弾ける笑顔でピースサインを作った。
内緒かーーーーー!じゃあ仕方ないけどーーーー!!
いろいろな検査を終え、3人は部屋に戻った。
「検査結果、20週の双子ですね。」
双子、、、とアイは目を輝かせた。
「アイ、本気で産む気なのか?16歳で妊娠出産だなんて世に知られたら、お前もウチの事務所も終わりだぞ。」
アイは少し考えた。それから、、、「先生はどう思う?」
最終的な決定権は君にある。よく考えて決めるんだ。医者としてはそうとしか言えないな。
屋上に出て考える。
──男と子供がいるアイドルを推せる?君に好きな男がいても俺は君を応援し続ける。でも君が子供を産めばより高みに羽ばたいていく姿を見ることはできなくなるんだろう。
ファンの意見てのは身勝手だよな。そう思うだろさりなちゃん。スマホの待受画面のなかのさりなに問いかける。
途端、ドアがきいっとあいた。アイだ。
「あ、センセ。」
「星野さん、夜風が体に障りますよ。」
「厚着してるからだいじょぶ!」
無邪気に答えた。
「社長の勧めでここを選んだんだけど良い所♪夕暮れでも星がよく見える、、、東京じゃこうはいかないなぁ」
ゴローは冷静に質問する。
「わざわざこんな田舎に来たのは東京だと人目につくから?」
ここは宮崎県高千穂町。神秘的な神話が残る山の中だ。
私仕事の話したっけ?と可愛げに首を傾げる。
「昔、患者に君のファンがいたんだよ。」
「あちゃーここならバレないと思ったけど、、、」
決めポーズをした。
「やっぱ溢れて出るオーラは隠せないね☆こまったこまった。」
「君は、、、アイドルを辞めるのか?」
「なんで?やめないよ?」
でもそれは、、、とゴローが発言しようとすると、アイが口を開いた。
「私、家族っていないから家族に憧れあったんだ。、、、お腹にいるの双子なんでしょ?産んだらきっと賑やかで楽しい家族になるよね!」
愛おしそうに膨れ上がったお腹を撫でた。
「子供は産む、アイドルも続ける。それはつまり、、、、」
「そ、、、!公表しない」
悪巧みを考えるような表情を浮かべた。だが憎めない。
「アイドルは偶像だよ?嘘という魔法で輝く生き物。」
くるっとターンした。
「嘘はとびきりの愛なんだよ?」
両手を広げ楽しそうに語る。
「子供の一人や二人、隠し通してこそ一流のアイドル。どんなに辛いことがあってもステージの上で幸せそうに歌う楽しいお仕事!」
でもちょっとさみしそうに言った。
「でも、幸せってところだけはほんとでいたいよね。みんな気づいてないけど私達にも心と身体があるし。母としての幸せも、アイドルとしての幸せ。普通は片方かもしれないけど、、、」
笑顔でさらりと言ってのける。
「どっちもほしい!星野アイは、欲張りなんだ!」
後ろでひときわきれいに輝く星とアイがマッチしている。星たちは、アイの目といっしょにキラキラと瞬いている。
アイというアイドルは、思っていたより図太く、強く、一番星のように眩しかった。
「和解した。」
えっ?と戸惑っている。
君の幸せがそれだって言うなら従おう。だって君はどうしようもないほどアイドルで、僕はどうしようもないほど君のファンだ。
病院では偽名を使う。外の身内に気づかれたらまずいからだ。日はどんどん進んでいき、やがて、、、40週。予定日がやってきた。
少し苦しそうな顔をしながら言った。
「せんせおつかれさま。でも呼んだらすぐ来てよ?」
これが終わったらアイのつながりもなくなり、ただのアイドルとファンに戻る。ちょっと裏の面も見えたけど、彼女のカラッとした性格をむしろ好きになった感すらある。彼女の幸せを心の底から応援──
「あんた星野アイの担当医?」
街頭がともる暗い公園で、黒いパーカーを着た不審な男に話しかけられた。
「彼女が受診する際は偽名を使ってる。なんで公表されていない彼女の名字を知っている?関係者?名前を聞いていいか?」
ゴローが詰め寄ると、黒いパーカーの男は逃げ出した。ゴローは追いかける。山の中に入っていき見失ってしまったがスマホのライトで男を追いかけ続ける。
「どこ行った?」
そうつぶやくゴローの背後には、黒い人影が。
、、、、、んー、、、、、あーびっくりした
急に頭真っ白になるから、、、、なんか足すべらせたみたいだ
あっ携帯、、、、、
もしかしてアイが産気づいたか?
どこだ携帯、、、、暗くてわからん ていうか体が動かねえ、、、
早くいかなきゃ 約束したからな 元気な子供産ませるって、、、
早く起きて あの子の子供を、、、、、
ゴローは絶命した。男に崖から突き落とされたのだろう。
もし芸能人の子供に生まれたらと考えたことはある?
容姿やコネクションを生まれたときから持ち合わせていたらって
俺は真面目に考えたことはなかった
だってそうだろう
──自分の話とは思わなかったんだから