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第二章:首輪のはじまりは、優しさのフリだった
宇野と俺の関係は、ある日突然始まったわけじゃない。
ただ、きっかけは確かに“あの日”だった。
⸻
半年前、俺は偶然――
校舎裏で宇野が先輩三人に囲まれてるのを見た。
「金、今月まだ払ってねぇだろ」
「てめぇ、調子乗ってんじゃねーよ。弱いくせに吠えんな」
宇野は拳を握りしめてたけど、あの時の目は、すでに折れかけていた。
誰かに助けてほしい。
でも誰にも助けを求められない。
そんな孤独な犬みたいな目。
俺はその時、初めて知ったんだ。
あいつの“暴れてる”姿は、全部、虚勢だったってこと。
だから――俺は入っていった。
「先輩、教師呼びますよ。あと、これ録音してます」
スマホを掲げて、俺は静かに言った。
先輩たちは罵声を残して逃げていった。
残された宇野は、俯いたまま動かなかった。
「…助けたつもりか?」
「助けたつもりじゃない。――拾っただけだよ、お前を」
⸻
それから、宇野は俺の命令に従うようになった。
喧嘩も減った。授業も出るようになった。
でも、それは自由の代償だった。
⸻
「なぁ、三谷。俺って何なんだ?」
放課後、また例の教室で宇野が呟いた。
「俺は…ただの犬か?」
「犬なら吠えるなよ。黙って尻尾振ってろ」
俺のその言葉に、宇野はふっと笑った。
「そういうとこ、マジで性格悪ぃよな。俺、たぶん昔のお前だったら殴ってた」
「じゃあ、今のお前は?」
「今の俺は…」
ゆっくり顔を近づけてくる宇野。
「殴るより…キスしたいって思ってる」
目が合った瞬間、息が止まった。
俺の手が、自然と宇野の首筋に触れていた。
「なら、してみろよ。逃げないから」
宇野の唇が触れたのは、一瞬だった。
でも、その一瞬で俺の中の何かが確かに溶けた。
「…俺、もう戻れねぇわ。お前の全部が、俺の中に染みついてる」