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彼女の父親はレスリングの元選手。彼女の弟も同じ道に進みたかったが、中学にレスリング部がなかったから父親からレスリングを教わりながら、学校では柔道部の主将。
それを聞いたのは彼女の家を訪問したあとのこと。そういう大事なことは行く前に教えてほしかった。知ってたら行かなかったのに。行かなければ気絶させられることもなかったし、失禁させられることもなかった。彼女にパンツを脱がされて失禁した汚れを後始末してもらう、なんて生き恥をさらすことも当然なかった。
口にこそ出さなかったが、僕の苛立ちは彼女にも通じたらしい。彼女は謝りこそしなかったけど、僕を家まで送ってくるあいだ、今までのように一方的に自分だけしゃべるのでなく、僕が傷ついてないか心配してるからと僕にもいろいろ話をさせようとしていた。
七月間近の梅雨のあいまの珍しく晴れた蒸し暑い日。例によって彼女は僕の家の近くまでついてきた。
その日、僕は珍しく彼女ととことんまで話してみたい気になった。僕の家の近所の公園に彼女を誘うと、えっと戸惑いの声をあげながらもついてきた。
いくつかの遊具と公衆トイレがあるだけの小さな公園。ベンチも木製の青い色がはげかかったものが一つあるだけ。そこに並んで腰かけた。
「心配してるというのは嘘で、僕に何か言わせたいだけなんじゃないの?」
「心配はしてる。ボクは夏梅に嫌われたくないんだ」
それ、自分の心配してるだけじゃん。
「ボクたちは恋人だろう? 恋人なら好きだとか愛してるとかもっと言うべきだとボクは思う」
「でも君は僕に好きとは言ってくれないよね」
「ボクはリクのことがトラウマになってるから言いたくても言えないんだ」
「トラウマ?」
「あいつはボクにさんざん好きだの愛してるだのと言わせながらボクを弄んだんだ。そのことを思い出すうちは言えない。でも童貞の夏梅にはそんなトラウマはないだろう? 言えるなら言うべきだ」
「確かに童貞の僕にはそんな生々しいトラウマはないけど、童貞童貞って君に言われ続けることが僕のトラウマになりそうなんだけど」
「心配するな。いつか必ずボクが夏梅の童貞を卒業させてやるから。でも一度でもボク以外の女とキス以上のことをしたら、夏梅を殺してボクも死ぬからな」
自分はさんざんリクという男とセックスしてきたくせに、僕はたった一度ほかの誰かとキスしただけでも命を失うのか? 理不尽なことこの上ないが、言い返しても口で勝てる相手ではないし、冗談でなく本気で言っていることだから黙っているしかない。