風鈴高校、朝の教室。
1年1組の扉が開くなり、教室の空気が一気に張りつめる。
「チッ、うるせーガヤだな。……どけよ、ジャマなんだよ。」
背が小さく、まだ声変わりも終わってないような少年――
それが、桜 遥(さくら はるか)。
見た目は子ども、態度は猛獣。
白と黒の髪が目立つ彼は、小柄な体でありながら喧嘩無敗の“最年少番長”として知られていた。
「おい、また桜が誰かシバいてたってよ。」「今朝は3年相手にやりあってたって……」
ヒソヒソと交わされる噂を、本人は涼しい顔で聞き流す。
「なに見てんだよ、ゴラァ!!」
ぎゃっ、とビビったのは2年の不良。
――その瞬間、また勝者のオーラが桜からにじみ出る。
だけど。
「……へえ。お前が“噂の”桜か。ちっちゃくて可愛いな。」
その声だけが、彼の心をざらつかせた。
振り向くと、教室の後ろにいたのは、風鈴高校の顔とも言われる3年生――梅宮 一(うめみや はじめ)。
白髪に無骨な傷、包み込むような笑顔。
けど、彼の瞳には、桜の強さが、そして何より――
その小さな背中に抱える孤独が、ちゃんと映っていた。
「なッ……!? 誰が可愛いって言ったんだよ!!ぶっ飛ばすぞ!!」
「はは、こえーこえー。ま、落ち着けって桜。お前、めっちゃ面白いな。」
「……っ!や、やめろよその顔ッ!ヘラヘラ笑いやがって……っ!!」
真っ赤になって睨みつける桜。
なのに梅宮は、その姿を「可愛い」とでも言いたげに目を細める。
それが、ふたりの出会いだった。
まだ名前も、信頼も、知らないまま。
でも確かに、梅宮の優しさが、桜の硬い心に一瞬だけ触れた。
「オレは、てめぇなんかに懐かねぇし、ぜってぇ認めねぇ!!」
――それが、照れ隠しであることに気づいたのは、ずっとあと。
でも今は、ただひとつ。
梅宮の言葉が、胸に残っていた。
「可愛いな、お前。」
「……うるせぇ……っっ!!!」(耳まで真っ赤)
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