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「……で」
仁人がふいに真顔になった。
「風呂、どうする?」
数秒。
完全な沈黙。
「……え?」
「いや、普通に」
「普通に聞くな!!」
勇斗が勢いよく立ち上がる。
仁人が吹き出した。
「なんでそんな驚くの」
「驚くだろ!!」
「お風呂だよ?」
「それが問題なんだよ!」
仁人はソファにもたれながら、楽しそうに勇斗を見上げる。
絶対面白がってる。
「一緒に入る?って言ってるわけじゃないのに」
「っ……!!」
図星だった。
「勇斗、意識しすぎ」
「仁人がさせてんだろ!!」
「ごめんって」
全然悪びれてない。
勇斗は顔を真っ赤にしたまま、その場をうろうろする。
落ち着かない。
さっきキスしたばっかだし。
しかも今、完全に恋人の家でお泊まりしてる空気になってる。
無理だ。
心臓がもたない。
「……勇斗」
「な、何」
「ほんとに一緒に入らないから安心して」
「安心したような、してないような!!」
仁人がまた笑う。
「先入る?」
「……仁人先でいい」
「なんで」
「落ち着く時間ほしい」
「はは、正直」
仁人は立ち上がると、勇斗の前まで来た。
そして不意に、ぽん、と頭を撫でる。
「ちゃんと待ってるから」
「……っ」
「逃げないでね」
「逃げないわ!!」
でも声は少し裏返った。
仁人は満足そうに笑って、そのまま洗面所へ向かう。
しばらくして、シャワーの音が聞こえ始めた。
「…………」
勇斗は静かにソファへ沈み込んだ。
やばい。
音が。
妙に意識してしまう。
「……いやいやいや」
頭を抱える。
考えるな。
落ち着け。
でも無理だ。
好きな人が数メートル先で風呂入ってる状況、どう平常心でいろっていうんだ。
その時。
洗面所のドアが少し開いた。
「勇斗ー」
「っはい!?」
「そんな大声出さなくても聞こえる」
仁人が苦笑している。
髪だけ少し濡れていた。
「タオルそこにあるから使っていいよ」
「あ、おう……」
「あと歯ブラシ新しいの出しといた」
「……ありがと」
「ん」
仁人はまた自然に笑って、ドアを閉めた。
その笑顔が優しすぎて。
勇斗は顔を覆う。
「……好き」
ぽつりと漏れた本音。
その瞬間。
「聞こえてる」
洗面所から声が返ってきた。
「うわぁぁぁぁ!!」
勇斗はソファに突っ伏した。
最悪だ。
終わった。
絶対聞かれた。
数秒後、洗面所の向こうから笑い声が聞こえる。
「勇斗かわい……っ」
「笑うなってぇ……!!」
恥ずかしすぎる。
もう帰りたい。
でも帰りたくない。
感情が忙しい。
それからしばらくして、仁人が風呂から出てきた。
「お待たせ」
「っ……」
勇斗は固まる。
濡れた髪。
ラフな部屋着。
しかも風呂上がりでいつもより無防備。
破壊力がすごい。
「……何その顔」
「いや……」
「ん?」
「ビジュ良……」
仁人が一瞬止まる。
「……勇斗」
「な、何」
「それ今言う?」
「だってほんとだし……」
仁人が無言で顔を逸らした。
耳が赤い。
勇斗は目を瞬く。
「……照れてる?」
「照れてない」
「絶対照れてる」
「勇斗のせい」
「またそれ!」
仁人は小さく息を吐くと、ソファに座った。
そしてじっと勇斗を見る。
「……早く風呂入ってきて」
「え」
「そのままだと理性持たない」
「っ!?」
勇斗の顔が一気に熱くなる。
「り、理性!?」
「うん」
「そんなサラッと言う!?」
「本音だから」
「〜〜〜っ!!」
仁人が笑う。
でもその目は少し本気っぽくて、勇斗は余計に心臓がうるさくなる。
「……じゃ、行ってくる」
「いってらっしゃい」
洗面所へ逃げ込むように入る。
ドアを閉めた瞬間、勇斗はその場にしゃがみ込んだ。
「……無理だって」
鏡に映る自分の顔は真っ赤だった。
しかも。
ふと洗面台を見ると、新しい歯ブラシが置いてある。
それだけなのに。
泊まる準備してくれてたんだって分かって。
胸がぎゅっとなる。
「……好きすぎる」
今度は小声で呟いた。
すると外から。
「また聞こえてる」
「うわぁぁぁぁぁ!!」
仁人の笑い声が、ドア越しに響いた。
𝓉ℴ 𝒷ℯ 𝒸ℴ𝓃𝓉𝒾𝓃𝓊ℯ𝒹
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