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――エルドアーク宮殿――
※戦略広間 第一会議室
「第三軍団を殲滅した特異点は、俄然このエルドアーク宮殿に向けて進行中です」
ハルは第三軍団のサーモの状況を元に、予測しうる現状を口にした。
この戦略広間内にはルヅキ、ハル、ユーリと三人の直属のみ。
軍団長以下全軍は、江戸へ進行中である。
「江戸は軍団に任せておけば、いずれ落ちるだろう。問題は特異点。間もなく此処へ来るか……。ノクティス様はどうなされている?」
ルヅキにとって問題は、江戸攻略より特異点。そしてこのエルドアーク宮殿が、完全に手薄になってしまった冥王の真意にある。
“一体何を考えているのか?”
勿論その真意は、直属にさえ分からない。
「ノクティス様は、相変わらず王の間で伏せておられます。特異点が此処に来るのを、ずっと待っているかの様に……」
「そうか……」
ルヅキとハルは複雑であった。
これ即ち直属の役目とは特異点を倒す事では無く、特異点を冥王の下へ案内する事にも等しいからだ。
「ボクは納得出来ないよ!」
複雑な心境の広間内に、ユーリの荒ぶる声が響いた。
「特異点が狂座入りする訳無いじゃん! 仮に仲間になったとしても、仲良くなんて絶対出来っこ無いよ……」
「ユーリ……」
それはルヅキとて同じ心境だった。
“冥王の意思は絶対”
それは決して覆してはならない絶対不変の真理とはいえ、相容れぬものがある事もまた確か。
真理と私事。その二つにルヅキの心は揺れ動いていた。
「でも特異点なんかに構うより、先にやる事あるじゃん! アザミを生き返らせる方が先なのにっ!」
ユーリはそう声を荒げる。
冥王は死者を甦らせる力を持つ事は、狂座の者なら誰もが周知の事実。第一、第二軍団長の両名はその典型だろう。
“何故それをしないのか?”
「忘れたのですか?」
そんなユーリの疑問に答える様に、腕組したままのハルが口を開く。
「我々狂座はノクティス様の力により、悠久の刻を生きる権利を与えられています。その対価として死した時、それは即ち肉体の死では無く魂の死。それが悠久に生きる我等の業である刻の盟約……」
「あっ……」
ハルの言葉に、ユーリは思い出したかの様に口を紡ぐ。
狂座に属する者は不老の存在であり、己が最も強い時期のまま、悠久の刻を生き続けている。
その為、進化する事はあっても、退化する事は有り得ない。
だが不老であっても、不死では無い。
肉体損傷等で普通に死を迎える。それは常人、いや生物と変わる事は無い摂理。
“死は新たな再生”
“魂は不滅の存在”
だが悠久の刻を生きる対価により、狂座にとっての“死”とは、本当の意味での“無”である事。
誰もが不老を望み、その願いが叶う狂座に歓喜する者は多い。
だが、この本当の意味を理解している者は少ない。
「その通りだ。我々は、あの御方に従う他は無い」
ルヅキがそう何処か、遠くを見ているかの様に。
「分かってる……でもっ!」
ユーリの次の声を遮るかの様に、ルヅキがユーリの頭にそっと手を添える。
愛しむかの様な瞳で見詰めて、それはまるでーー
“その気持ちだけでも嬉しい”ーーと。
言葉は無くとも、心意気は確かに伝わっているかの様に、ユーリもそれ以上の言葉は出さず、その包まれる掌になすがまま。
「…………」
ハルも口を挟む事は無い。
“この想いは永久(とわ)に変わる事は無い”
「それに……」
ルヅキが沈黙した広間内の刻を動かす。
これまでの言動から冥王は特異点、ユキを狂座に引き込むつもりなのは間違い無い。
「奴が……特異点が狂座に入る事は、決して有り得ない」
“――何故なら……”
「ルヅキ?」
断言とも取れるルヅキの一言に、ユーリは首を傾げる。
勿論直属以下、軍団員の誰もが特異点の狂座入りを望まぬだろう。
それでもそれが冥王の望みであれば、何があっても従う他に選択の余地は無い。
「う……うん」
ルヅキの紅い瞳に宿る、確かな決意に近いもの。それは筆頭としての意地なのか。
それともーー
「ボクも……そう思うよ」
その瞳に当てられたかの様に、ユーリはその真意の追及の言葉を出す事は出来なかった。