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#魔法
東屋 朧
200
12
兎束作哉
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夜も更けた頃。
昼間の賑わいが嘘のように静まり返ったコテージ前に、いつものメンバーは集まっていた。
『恋エグ』夏合宿最大の恋愛イベント、肝だめしが始まろうとしている。
サクラちゃんと攻略対象の距離が一気に縮まり、シナリオ分岐にも関わる重要なイベントだ。
「ルールは簡単です。」
チェック係を担当する絢が、静かな声で説明する。
「ここから遊歩道を進み、山中の祠に置かれたお札を回収して戻ってきてください。」
ペアは話し合いの結果――
冴と烈。律とサクラ。豪と玲。
絢は、チェックポイントの祠で待機をすることになった。
ちらりと、私は律とサクラへ視線を向ける。
サクラは少し緊張した様子で、胸の前で手を握っていた。
(うんうん。頑張ってね、二人とも。ここで恋を育んでね!)
シナリオでは――
サクラが足を捻る。そして、ペアの攻略対象におんぶされることで好感度が大幅上昇する。
まさに恋愛イベントの王道。
(律のツンデレおんぶイベント、好きだったなぁ……。)
さっそく、肝だめしがスタートした。
最初は、冴と烈のペアだ。
「なんで俺がこいつと……。」
烈が露骨に顔をしかめた。
「……私も同感だ。」
冴が淡々と返す。
同学年、前生徒会のメンバーでもある二人は、仲自体は悪くない。
「昔から無茶ばかりするお前を止める役目は私だったな。」
「へっ。世話焼きなんだよ、お前。」
「誰のせいだと思っている。」
不満を口にしながらも、どこか気安い空気を纏っている。
「行くぞ。」
「はいはい。」
二人は暗い遊歩道へ消えていった。
二組目――
「サクラ。」
「は、はいっ!」
「……危ないから、離れないでよね。」
律はそっぽを向いたまま呟いた。
「え?」
「転んだりしたら面倒だから。」
「……っ!」
サクラは嬉しそうに微笑む。
「ありがとうございますっ!」
「別に。」
頬を赤く染めながら視線を逸らす律。
「じゃ、行こう。」
「はいっ!」
二人も遊歩道へと歩き出した。
(頑張れ〜!!)
私は心の中で全力のエールを送った。
「それじゃあ、俺たちも行くか。」
「うん!」
最後に私と豪が並んで歩き出す。
夜道は思った以上に暗かった。
「今日、楽しかったな。」
「うん!」
「ビーチバレーも。」
「豪のおかげだよ!」
「いや、最後決めたのは如月だろ。」
「でも繋いでくれたじゃん。」
「……そっか。」
豪は照れたように笑った。
「ありがとな。」
「こちらこそ! 豪のこと、頼りにしてる!」
「……俺も。如月のこと、頼りにしてる。」
夜風が頬を撫でた。なんだか心地いい。
木々の向こうに小さな祠が見えた。
「あっ、祠あった!」
私は駆け出した。
「おい、如月! 危ないって!」
「へーきへーき!」
「絢〜! いる〜?」
返事がない。
祠の前には――誰もいない。
不安になって後ろを振り返る。
「豪、絢がいないんだけど……。」
「…………。」
「……あれ? 豪?」
そこにいるはずの豪の姿が――ない。
胸がざわつく。
「豪? どこ!?」
ガサッ。祠の裏に人影が見えた。
「なーんだ……。そこにいたの? 脅かさないでよ……。」
私はホッと息を吐くとその人影に近づいた。
ゆらり、人影が動いた。顔は見えない。
ぞくり――
(……違う。豪でも絢でもない。)
「やっと……二人きりになれた。」
「……え?」
「お前は――」
どんっ。肩を押される感覚。
低い声が聞こえたと思った時には、すでに身体は後ろへ傾いていた。足元が消える。
「あ……。」
祠の横は崖だった。身体が宙に浮く。
(なに、これ? こんなイベント聞いてない――。)
暗闇へ落ちながら、私の意識は途切れた。
目を開けた。周囲は暗闇に包まれている。
木々のざわめき。虫の声。湿った土の匂い。
(ここ、どこだっけ?)
立ち上がろうとした途端、足首に鋭い痛みが走る。
「痛っ……足……捻った……?」
息が詰まる。
(なんで? ……私が?)
本来ならサクラが怪我をして、攻略対象に助けられるはずなのに。
知らないイベント。
知らない人物。
あの人は誰で、何を言おうとしたのか……。
何も分からない。分からないからこそ怖かった。
胸が苦しい。暗闇が押し寄せてくる――。
「……っ。」
涙が滲んだ。
その時――
ガサッ!! 音がした。
次の瞬間、腕を掴まれる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「俺だよ俺! 如月!!」
「……え?」
そこには豪が、息を切らして立っていた。
「豪……!!」
「探したんだ! チェックポイントにもゴールにもいなくて……。俺、お前に何かあったらって心配で……。」
豪は震える声で言った。
「本当に……良かった!」
豪の声を聞いた途端、私の張り詰めていたものが切れた。
ポロポロポロ――。
突然泣き出した私を見て、豪が慌てふためく。
「え? わっ!? ご、ごめ……。」
「怖かった……。」
涙が止まらない。
「知らないことばっかりで、どうしたらいいか分からなくて……。」
言葉に詰まる私を、豪はそっと抱き寄せた。
「もう大丈夫……俺がいる。大丈夫だから。」
「――いた! 玲!!」
程なくして、同じように私を探してくれていた四人が駆け寄ってきた。
そして、豪の腕の中で目を赤く腫らしている私を見て、四者四用の声をかけた。
「なーに会長泣かしてんだよ。」
「お前は玲に何をした……。」
「玲! 危ないよ! こっち来て!」
「玲……僕が付いていなかったばっかりに……。」
「違う違う!!」
豪が慌てる。
「まだなんもしてないって!!」
(……まだ?)
私は涙を拭いながら首を傾げた。
あれだけ不安だったはずなのに、みんなの顔を見た途端自然と笑みが戻る。
「ありがとう! みんな。もう大丈夫! サクラちゃんの所に帰ろう!」
コテージへ戻るとサクラが駆け寄った。
「玲会長っ!!」
安堵したように微笑む。
「無事で良かったです!!」
「サクラちゃん、心配かけてごめんね。サクラちゃんは怪我してないんだね……良かった。」
「会長……?」
不思議そうに首を傾げるサクラ。
こうして、一泊二日の夏合宿は幕を閉じた。
カレー作りやビーチでの楽しい思い出が蘇る。
けれど――
開発者の私が知らないイベント、知らない会話、知らない人物。
胸の奥に残る違和感。
『やっと……二人きりになれた。お前は――。』
あの声が、何度も頭の中で反響する。
『恋エグ』は、私の知っているゲームではなくなり始めていた。
――私はまだ知らない。
この夜の出来事が、誰かの恋では終わらない『恋エグ』そのものを揺るがす事件の始まりだったことを――。
◇◇◇◇◇
▶恋エグメモ
【神城 豪】=【66/100】
(玲を失うかもしれない恐怖を知り、放っておけない特別な存在になっている。)
【白砂 律】=【63/100】
(玲の異変に誰よりも動揺。無自覚のまま、玲を最優先に考えるようになっている。)
【千早 絢】=【61/100】
(玲を守れなかったことを悔やみ、静かな執着を深めている。)
【鬼塚 烈】=【58/100】
(軽口の裏で、支えになりたい気持ちが大きくなっている。)
【黒崎 冴】=【57/100】
(玲を失う可能性に直面し、特別な存在としての自覚が芽生え始めた。)
【サクラ】=【50/100】
(憧れは少しずつ別の感情へ変わり始めている。)
コメント
1件
うわっ、今回めっちゃ怖かった!! 肝だめしで玲ちゃんが知らないシナリオに巻き込まれて崖から落ちるとか、完全に想定外すぎるでしょ。「やっと…二人きりになれた」ってあの不気味な声、いったい誰なの…? 豪が駆けつけて抱きしめてくれたところでちょっと胸熱になったけど、それよりも開発者の私が知らないイベントが起きてるって設定がすでにホラー方面に振れてて、続きが気になりすぎる!!🔥