テラーノベル
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世界でも有数の財閥。
神華(しんか)財閥のご令嬢である七美(ななみ)は、実は俺の恋人。
許されるはずのない二人の関係。もしバレたら処刑不可避。だから、この事実は一部のメイドしか知らない。
元々、親の借金を彼女に肩代わりしてもらった負い目がある俺は、基本的に彼女の言いなり(ペット)になっている。彼女は、危険を冒して毎日俺のボロアパートに入り浸っていた。
「あのさぁ、そろそろ帰った方がいいよ? もう九時過ぎたし」
「イヤ……。もっと、タマちゃんと一緒にいたい」
「七美が帰らないと、この関係がバレて俺が殺されるんだよ」
本当は、ずっと一緒にいたかった。
綺麗な顔。滑らかな肌。
服を脱ぎ、産まれたままの姿の彼女。
彼女の胸に顔を埋め、その白い肌にキスをした。
「んっ……」
もし、こんなことをしているのがバレたらリアルな死が待っている。彼女の家が、裏社会も牛耳っていることは情報に疎い俺ですら知っている事実。
だけど今は。
今だけはーーーーー。
「もう一回したい」
「う…ん………」
十時過ぎ、七美は迎えの車に乗り、帰っていった。
次の日。朝早く。
俺は、通い慣れた高校で未だに慣れない全校集会に強制参加していた。
長時間のハゲ校長のツマラナイ演説に目眩がしてきた頃。
やっと終わったと思って油断してたら、最後に生徒会長からの挨拶が残っていた。
壇上に立ち、生徒八百人と先生を見下ろす生徒会長。神華 七美。女子生徒の黄色い歓声が聞こえた。
「七美様……。はぁあ~~、かっこ良いぃぃ」
「だよね~。七美様見るために、この学校通ってるみたいなもんだし」
七美は 『男子生徒のブレザー』を着て今も俺達に偉そうに演説している。
男装した彼女は、俺以外には女と言うことを隠して学園生活を送っていた。可愛い娘を異常なまでに愛する両親が、彼女に男のフリをさせ、害虫(七美に言い寄る男共)を少しでも遠ざけたい思惑があるらしい。
当然、最初は七美を女子高に行かせようとしたらしいが、彼女の猛烈な反対&自殺未遂により断念したらしい。
後になって知ったことだが、七美はどうしても俺と同じ高校に行きたかったみたいだ。もし、この真実が露呈したら俺は明日にでも海に沈められ、魚の餌になっているだろう。
「…………」
「…………っ」
一瞬、七美と目があった。少しだけ照れた感じを出してしまった七美に、また女子生徒の歓声が上がった。
「えぇ!? 今の何、なに。何が起きたの? 可愛いぃ~」
「あんな表情するの、もう反則だよ~~」
反則?
何言ってんだ、コイツら。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
数年前。男の姿をした七美に彼女の別邸で行われた怪しいパーティーで初めて会った。
まぁ、その時は親の借金のこともあり、俺は素直に七美にお礼を言いたかった。
タキシードを華麗に着こなした姿を見て、七美が女だなんて夢にも思っていなかった。
「あっ…招待して頂きまして、ありがとうございます……」
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。なかなか似合ってるね、その服。サイズもぴったりだし」
「う~ん……そうかな……。堅苦しくて、腹もキツイんだよなぁ、これ」
「ハハハ、やっぱり君って面白いなぁ。向こうにさ、秘密の場所があるんだよ。こっち、こっち!」
俺の右手を掴み、子供のように無邪気に笑う七美。俺達は、罰を覚悟でパーティー会場を抜け出した。
この時から俺はさ、すでにお前に魅了されていたんだと思うよ。
『高天明学園(こてんめいがくえん)』
俺達が通う高校は少し変わっていて、生徒会長には、生徒を越えた特権がいくつも与えられていた。校長ですら、生徒会長には逆らえない。
常に生徒会役員に指名された雇われ生徒(奴隷)が、会長の身の回りの世話や護衛を任されていた。俺達、平の生徒は会長の姿を確認したら、まず脇に退いて通りすぎるまで直立不動が鉄則だった。
「おい、青井。会長が来たぞ」
天然バカの前河と廊下で話していたら、前方から会長様ご一行が歩いてきた。前河と同じように俺も壁によけた。
会長は前だけを向き、俺達には一切興味を示さない。空気のような扱い。
通りすぎようとした、その時。長身の奴隷の一人が前河を指差し、
「なんだぁ? その寝癖だらけの髪は。そんな身なりだから、お前らはいつまで経っても最下層のクズなんだよ!」
この学校に存在するカースト制度。下になればなるほど学校での立場も弱く、虐げられることも多くなる。
ってか、まだしつこく前河につっかかっている。終いには、頭をグリグリと拳で押していた。前河は、ハハ…ハとただ笑っているだけ。
「やめろ…。やり過ぎだ」
男の手を掴み、睨んだ。
「おいおい。今、やめろって言ったのか? お前、誰に言ってるか分かってるのか?」
「あぁ……。分かってるよ。お前は、ただの会長の捨て駒。それなのに強大な権力を持ってると勘違いしているバカ。俺達と大差ないよ、お前なんて」
顔を真っ赤にした奴隷に胸ぐらを掴まれた。一、二発殴られるのは覚悟していた。舌を噛まないように口を閉じた。
「やめろ、大庭」
「会長……コイツが悪いので…だから…」
「君は、僕に口答えするの? 役員でもないただの奴隷の君が。彼の言う通り、少し勘違いしてるみたいだね。頭を冷やした方がいいよ」
この場で、一週間の停学処分にされた大庭と言う男。項垂れて、俺達の前から消えた。
「ごめんね。彼がした無礼の数々、謝るよ」
会長の指示で、緊張で汗だくになっている前河に奴隷の一人が札束を手渡す。
「でも、その寝癖は確かに良くないなぁ。そういうところから心は乱れていくしね。気を付けて」
「はっ、はい! 会長様。あり、あり、ありがとうございます!!」
会長達がいなくなると、やっと重苦しい空気も消えた。
……………………………。
…………………。
……………。
学校から急いでアパートに帰り、軽くパンだけかじって、バイトに行った。バイト先の工場で、機械部品の検品と仕分け作業。地味な作業の連続だが、あまり頭も使わないし、周りのパートさんも優しいので気に入っていた。働きだして、もう三年になる。
日付が変わって、やっと今日のノルマを終えた俺は、アパートに帰った。一人暮らしなのに、部屋の電気が外に漏れている。…………理由は、容易に想像できた。
玄関のドアを開け中に入ると、可愛いウサギがプリントされたエプロン姿の七美が出迎えてくれた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
小さな食卓テーブルには、七美が用意してくれた夜食がすでに用意されていた。
俺は着替えだけ済ませると、いつものようにお笑い番組を見ながらそれを食べる。
「いつも、ありがとう。………でもさ、お前も忙しいだろうし。あまり無理しなくても良いから」
「私が好きでやってるんだから、いいの。タマちゃんが、こうやって食べてくれるの死ぬほど嬉しいし」
「し、死ぬほど? そうなんだ……。じゃあ、まぁ……いっかな 」
ご飯を食べた後、七美が猫のようにすり寄ってきた。
「少し汗くさい……。でも、この匂い好き……。頭が、クラクラする」
「匂いフェチのド変態だもんな、七美は」
「変態じゃないし……」
まだ言いかけていた唇を強引にキスで塞ぐと、二人で横になった。
「ご立派な生徒会長様が、こんなにエロい顔するって知ったら、みんな失神するだろうな~」
「そんなに、いじめないで……。あの……今日は、ごめんね。タマちゃんのお友達傷つけて………」
「いいよ、別に。アイツさ、結果的にあんな大金貰って、小躍りしてたよ。最新ゲーム機とアイドルのサイン本を買うとか言ってたなぁ。羨ましい」
「タマちゃんもお金欲しい?」
「金は死ぬほど欲しいけど、お前からは貰わない。苦しくても自分の手で稼ぐよ」
「なんで?」
「七美を銀行だと絶対に思いたくないから……。もし、そんな風に思ってしまったら自分を許せないし」
それを聞いた七美は、俺のズボンのベルトを外しながら、艶かしく呟いた。
「なんかね……ご奉仕したくなっちゃった……」
これが、彼女の照れ隠しなのはすぐに分かった。彼女の小さな頭を撫でながら、改めてその可愛さを実感した。
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