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味のしないガムのような、つまらない一日だった。


放課後、軽いカバンだけ持って帰ろうとした俺の前に無表情の女奴隷二人が現れた。二人とも左手の親指にファランジリングを付けている。


「ついてこい。青井 魂日(あおい たまひ)」


「はぁ~~ダル」


生徒会ナンバー3。書記の『二川 愛蘭(ふたかわ あいる) 』に呼び出された。冷酷な女で、自分の思い通りにならない輩は強制的に処刑か、運が良くて国外追放処分。つまり、人の心など「何、ソレ?」な機械人間。


初めて生徒会室の重厚な扉を開けて、中に入った。校長室より数倍広く、豪華。ここが高校の中だと言うことを忘れてしまいそうな異質な空間だった。


部屋の中央に設置された長テーブルの端に腰掛け、俺を見つめる長髪女。背も高く、モデルのように無駄がない洗練された体つき。思わず見惚れてしまい、目が不自然に泳いだ。


「一分の遅刻だ。私の貴重な時間を奪った罪人の君を本来なら、この場で半殺しにするところだけど……。今回だけは見逃そう」


「ありがとうございます」


愛蘭に促され、席に座った。


「今日来てもらったのは、お前とある取引をしたかったからなんだ」


「取引?」


わざとらしく優しく微笑み、俺に近寄る女。


「お前さぁ……会長の秘密を知ってるよな? 」


心臓が、小さく跳ねた。この動揺を相手に悟られないようにする。


「俺みたいな平生徒が、会長様の秘密を知ってるわけないだろ。話したこともほとんどないのに」


愛蘭は、上着の内ポケットから何かを取り出し、テーブル上にばらまいた。

それは、俺と七美が密会している写真だった。中には部屋内部の写真もあり、盗撮されていたのが分かった。


「私の知り合いに特殊なカメラマンがいてね、何日も何日もお前達を尾行してもらってた。でも驚いたなぁ……会長が女だったなんて」


「俺にどうしろと?」


「正直、こんな証拠がいくらあっても会長の家、神華の前ではすぐに揉み消されてしまう。最悪、私まで消されかねないし。お前に頼みたいのは一つだけ。会長の座っている椅子を私に譲るように頼んでほしいんだ」


「ふ~ん。あんたが会長になって、この学校を支配するってこと? まさに地獄の始まりだな」


「地獄? ハハ…心外だなぁ……。私は、これ以上あの嘘つきに学園を任せることは出来ないって思っただけだよ。それにお前にとっても悪い条件じゃないはず。秘密はバレないから、お前達は今まで通り、恋人ごっこ出来るしな」


「七美を説得して、会長を辞退させる。もし俺がこの取引を断ったり、七美を説得出来なかったらどうなるんだ?」


「そうだなぁ。その時は、当然お前を殺す。利用価値がなくなるわけだし、ゴミは早めに処分しないといけないから」


最悪な答え。やっぱり、コイツは人の気持ちなど理解出来ないし、理解しようともしない。


機械人間ーーー。



こんな狂った女を生徒会長にするには、あまりにも危険過ぎる。コイツの機嫌次第で死傷者が出るのは、間違いないし。



じゃあ、どうする?



俺は、七美に電話をかけた。

校内で電話をするのは、これが初めて。

電話が繋がると、俺は早口で話した。


『七美。お前は、これからもこの学校を守ってくれ。愛蘭なんかには絶対に屈するな、何があっても。コイツは、危険過ぎる』


『………………』


『じゃあな、七美。愛してるよ』


それだけ言って、一方的に電話を切った。


愛蘭は、先ほどまでなかった拳銃を手に持って、俺の頭に標準を合わせていた。


「はぁ~~スッキリした。さっさと殺れよ、クソ女」


中指を立てた。


「………やっぱり、お前は何の価値もないゴミ。癌。生きてるだけで、悪。さっさと私の前から消えろ」




バンッ!!



銃声の後、静寂に包まれた白い部屋。

焦げ臭い……。そこに混じる濃い血のーーーー。


床を赤黒く染め、血を流して倒れているのは俺ではなく愛蘭。


今も命を流し続ける左手を握りしめ、苦痛に顔を歪ませている。


「なんで………」


その疑問は、俺も同じだった。答えは、愛蘭の後ろにあった。出窓のガラスに小さな穴が空いており、外で手の平サイズの小型ドローンが空中に浮かんでいた。

羽虫のような機械音。

ドローンの下部には、銃口のような物が二つ付いており、白煙がユラユラ揺れていた。


あのドローンが、愛蘭の手を撃ったのか………。



突然、生徒会室のドアが開き、愛蘭が今一番会いたくない人物が姿を現した。


「………少し遊び過ぎじゃないか? 二川、ここは幼稚園じゃないよ」


この学園の光と闇。生徒会長『神華 七美』の登場。


「うるさいッ! 偉そうに……。女の癖に男の振りなんかしやがって。虫酸が走るんだよ、色ボケ野郎。私は、お前なんかには絶対に負けない! その地位から蹴落とす。地獄に叩き落とす。必ず………」


会長は、呆然と立ち尽くす俺を素通りし、まだ倒れている愛蘭の横でゆっくりと腰を屈めた。俺を殺す為のベレッタを拾い上げ、愛蘭の口元に銃口を近づける。


「小さくて、プックリしてて……可愛い唇だね。でも二川……お前は喋りすぎだ」


七美は、本気で撃つ。愛蘭を殺す。


「やめろっ! もう、十分だ。だから、これ以上はやめてくれ!!」


「キミは、甘すぎる。二川……彼女は今殺さないと将来必ず厄介な敵になる。死神として僕達の前に現れるよ」


「それでも、コイツを殺さないでくれ。確かに最低最悪な奴だけど、殺すのは違う。コイツにだって、人間として生きるチャンスを与えてやってくれ!」


倒れている愛蘭が、信じられないというような、ひどく驚いた顔で俺を見ていた。


「そんなんだから、今だに最下層から抜け出せないんだよ。青井君……。僕が念のために配置した軍事用ドローンがなかったら今頃、脳ミソ撒き散らして死んでいるんだよ? 自分を殺そうとした相手に情けをかけるなんて間違ってる」


「…………誰かの不幸の上に成り立つ正解は無い。甘いかもしれないけどさ、俺はそう信じて毎日を生きてるよ。だから……やっぱりコイツを助けてくれ。頼むよ、七美」


「………………………」



会長は、外で待機していたメイドにテキパキと指示を出して愛蘭を病院まで搬送させた。


……………………………。

………………………。

…………………。


しばらくして、俺と会長だけになった生徒会室。割れた窓から、ひぐらしが鳴く音がやけに大きく聞こえていた。


懐かしいような、少し悲しい気分になった。


「会長……。いや、七美。ありがとう、彼女を助けてくれて。………じゃあ、そろそろ帰るよ」


ガチャガチャ。


あれ?


ガチャガチャ、ガチャガチャ。


あれれ?


ガチャガチャ、ガチャガチャ、ガチャガチャ、ガチャガチャ、ガチャガチャ。


「ん、開かないんだけど? え、なんで? どうなってんだ、この扉」


会長は、部屋の一番奥にある机に優雅に座りながら、人差し指で空中に絵を描いていた。


「その扉は電子錠だから、僕の指紋認証と網膜スキャンをしないと絶対に内側から開かないよ。もちろん、外からも開けられない。つまりね、この場所は密室ってこと」


「いや、密室にする理由が分からない。俺は、帰りたいだけだよ。だから、早く解除しろ」


「会長である僕にそんな無礼な口を聞けるのは、学園の中で青井君だけだよ」


俺は、会長に近づくと間近でその顔を凝視した。一度、チラッとこっちを見た会長は、慌てて目線をそらした。


「それにしても、すごいイケメンだよな……会長って。女子が騒ぐ気持ちも分かる。でも、さすがにこんな顔は俺しか知らないよな」


会長の頬に触れ、軽く摘まんでみる。マシュマロ頬っぺ。すんごく柔らかい。


「やめ…ほ……」


「やめてほしいなら、ドアの鍵を開けて?」


「……ぅ……」


なぜか、泣いてしまった。やり過ぎたと思い、何度も謝ってから会長を抱き寄せる。首筋にキスをした。


「ん……みゅ…………。っもう! 絶対に許さないから!! 会長権限により、キミを退学処分にす」


強引にキスをした。乱暴に上着を脱がせる。


「神聖な生徒会室でこんなことしてさ、七美は会長失格だな」


「……………タマちゃん……嫌ぃ……」


男の仮面を外し、弱々しい女の姿になった七美は、やっぱり世界で一番可愛いと思った。




冷やし上手な彼女

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