テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「「「「いただきます」」」」
歪な食卓が、今日も始まった。家族揃って囲む食卓。でもそこに、愛情とか、和やかと形容される雰囲気は無い。
朝比奈母「どうかしら?」
類「美味しいよ」
母の問に私と父さんは答えない。答えても答えなくても、同じだから。でも生きる為に、食事を口に含む。顔を顰めたくなった。不味いわけじゃない、ちゃんと美味しいから。美味しいと感じてしまうこの舌が、嫌だった。
母さんは気付いていないんでしょうね。類の姿勢の良さ、マナーの良さ。それらが完璧で、上品であると、そして、それが類の必死の防御なのだと。
囲まされた食卓が終わり、長針と短針が一緒に頂に上る時間。いつも通り私は自室に保管している檸檬味のエナジーゼリーを持って、類の部屋に訪れた。
勉強机に座る類の目は、依然として虚ろだ。それでもやはり、手は動いている。どれも、正解なのだろう。
私は類の机にエナジーゼリーを置いて、ベッドに座る。ルーティン。でも、固く冷たい勉強机に向かっている類と、柔らかく暖かい、でも人肌が無いとどこか冷たいベッドに座っている私。私達の関係そのものの様で、少し嫌だった。
類「姉さん、ありがとう」
まふゆ「ううん、いいの」
類はいつも、両親が寝静まった頃に夕飯の全てを吐き戻していた。そんな類の為に、私はいつからか毎日この時間に、類にエナジーゼリーを届けていた。類と2人きりの、唯一の時間。
類がエナジーゼリーを持って椅子から降り、私の隣に座った。そしてエナジーゼリーに口を付ける。
類「コレのお金も、いつか返すからね」
まふゆ「要らないよ。しょうがないじゃない、類はお小遣いも貰えないし、バイトもできないんだから」
類「姉さんは優しいね」
“類の方が優しいじゃない”。そう言おうとして、辞めた。
まふゆ「ごめんね、本当は私が代わってあげたいんだけど…」
類の方を向いて言うと、類もこちらを向いてくれた。
類「大丈夫だよ、僕は。だから、姉さんは好きな事をしてほしい。僕は、それで充分だから。」
小さく笑う類に嘘だ、とも糾弾できなかった。それは、類の本心だと知っているから。
誰も知らない、母さんへの細やかな反抗の時間。今日はそろそろ終わってしまう。
まふゆ視点終了。
学校帰りの下校、類はいつも通り歩いている。だけれど、どこかがおかしかった。足元がふらつく、目が回る、耳鳴りがする。気付けば、鈍い痛みと共に、地面がとても近く見えた。
?「おい!大丈夫か?!」
とても大きな声で類を助け起こしたのは、金髪の少年。制服的に、神高だろうか?
類「だ、れ…?」
?「俺?俺は天馬司だ!」
第一印象は一言、眩しいに尽きる人だった。
司「家はどこだ?オレが送って行こう!」
類「ぇ、」
焼けてしまいそうな光度を保ったまま、司は類に問いかけた。ほんの一瞬、類の瞳にハイライトが見えた気がするのは、司の光が反射したのか、それとも類自身のものか。今はまだ、きっと前者だ。それでも、類の気が迷う程の、光。
類「帰りたく、ない…」
司は少し考える。
司「ならば、家へ来い!」
類「ぇ、いや、流石に行けないよ…」
口ではそう言いつつも、手を差し出されれば思わずそれを取る。
司「大丈夫だ!」
何が大丈夫なのか、根拠は一つもない。司の親にも、類の母親にも許可を取っていない。それでも、自分の手を掴みどんどんと前に進んで行く司の背中を見ていると、些細なことに感じる。それでも、脳裏に過るのは、やはりまふゆだった。
そのままあれよあれよと言う間に、司宅の司の部屋に上げられた類。何より衝撃だったのは、司と司の母親の会話だった。
司「母さん!今日晩ご飯に友人を呼んでも良いだろうか?」
司母「良いわよ〜」
承諾までが軽い。
類「ねぇ、誰かご友人を呼ぶなら、僕は邪魔じゃないかい?」
司「その友人と言うのはお前の事だが?」
あまりに純粋に、きょとりと言うものだから─。
その時、類のスマホが震えた。類の数少ない連絡先、まふゆである。まふゆからは
『今日、東雲さんの家で夕飯頂く事になったんだけど、大丈夫?』
と来ていて、それに大丈夫だよ、と返すと母さんとのトーク画面を開いた。そして、一番刺激しず、尚且つ母さんが承諾しそうな理由を見つけるために頭を回す。類にとっては、初めての頭の使い方だった。
悩んだ末に類は
『学年1位の先輩に一対一で勉強を教えてもらえる事になって、そのまま夕飯も頂く事になりそうなんだけど、いいかな?』
と送信した。その後直ぐに、
『そうなのね、頑張ってらっしゃい』
と返ってきたので、どうやら成功したようだ。胸をなで下ろす類を、司は見ていた。
結局類は司の家の食卓にお邪魔していた。
司母「どうぞ食べて食べて〜」
咲希「類さんってお兄ちゃんと制服違うよね?どこで会ったの?」
司「ショーの練習帰りに倒れていたのでな、声をかけたんだ!」
家族団欒、とはこういう事を言うんだろうか。類には眩しいと言うことは分かるが、理想の家庭という概念すらも無いので言語化はそこで止まってしまう。
そしてこの場で一番の問題であるのは食事。この人達ならば食べられなくても怒らないかもしれない。そんな希望を抱きながら、類は家でやっている通り、食事を口に運んだ。音も立てずに上品に、男子高校生とは思えないマナーで食事をする類を、司はやはり見ていた。
夕飯の眩しい時間が過ぎ、類が帰る時間となった。光を見たあとの陰は、より一層濃く見えるものだ。送っていくぞ!と宣言する司を止め、類は1人で帰路に付いた。途中の公園の仮設トイレで夕飯を吐き戻してしまった時には、いつもとは違う罪悪感に苛まれた。
自宅の扉の前で、一瞬立ち止まる。震える手を抑えつけて、掠れる息を戻す。
類「ただいま…」
類が扉を開けると、母さんが直ぐ側に居た。
朝比奈母「あら、お帰りなさい。どうだった?」
類「とても勉強になったよ」
朝比奈母「それは良かったわね」
シャワーを浴びてから、母さんに促されるまま勉強机に勉強道具を広げる。そうしたら、脳味噌と手が勝手に動く。勝手に正解を、量産し続ける。
類はボーッと、長針と短針が重なる時を待っていた。今日は珍しく多く話してみようか、姉さんがご飯を食べに行った東雲家の話も聞けるといいな、司くんの話も、できるといいな。
果たして、頂の時間は来た。檸檬のエナジーゼリーを持って、類の部屋の扉を開ける。ノックはしない、バレては元も子もないから。あまり音を立てないように閉める、のを忘れた。
類が、ベットに座っていたから。扉が開かれた音を聞いて少し怯えたように肩を跳ねさせた類は、まふゆを見ると、嬉しそうに小さく微笑んだ。
それを見ると、自分より身長の高い男だろうが、愛おしく思える。そして同時に、“愛しい”と思う子にあんな思いをしてしまっている事に罪悪感が募る。でも今は、類にこんな表情を教えてくれた顔も、声も、性格も知らない誰かに感謝を。
まふゆも、ベットに座る。エナジーゼリーを差し出すか迷う。
類「…貰っても、いいかな」
まふゆ「…うん」
まだ、成長途中らしい。いつしか始まった反抗のルーティン。初めて、類に手渡した。
類がエナジーゼリーを口に含んだので、暫く沈黙が落ちた。エナジーゼリーを食べる類は、どこかいつもより暗く沈んでいるように見えた。
類「姉さん、どうだった?」
まふゆ「…分からない。でも、正解も警戒も無くて、荒っぽい所はあるけど本音で充満していて、眩しかった。」
類はその言葉を聞いて、目を緩める。檸檬色の瞳が溶けてしまいそうで、私は類の頬に手を添えた。
類「…?」
なんの行為かも分からず、動かない類。目を緩めるのは、私の番だった。
類は喋ろうとして、喋っても良いものかと悩んでいる。
まふゆ「類のも、聞きたいな」
その一言でパッと顔を綻ばせるこの弟は、正解以外の感情に関しては幼い子供であった。
類「あのね、気を遣わなくても良くて、みんな喋ってて、笑顔なの」
豊富な語彙がある筈なのに、私に報告するその姿は年齢がいくつか下がって見える。
類「…焼けてしまいそうだったんだ」
でも、最後の一言だけは年相応に苦しんでいた。
コメント
1件
第2話、読んだよ…。食卓の歪さから始まって、姉弟の秘密の時間がすごく丁寧に描かれてて、胸が締め付けられた。類くんが司くんの“眩しさ”に戸惑いながらも惹かれてく様子、そして最後にまた姉のもとへ戻る流れが切ない。特に「焼けてしまいそうだった」って言葉に、類くんの本音がぎゅっと詰まってて、じんときた。続きが気になる…
#暁山瑞希
ねる
460
475
黒 瀬 ↻
102
おもち
31