コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「帰宅」
「ーッ!?」
エリザは目を覚ました。嫌な夢を見た。額に汗が滲んでいる。魘されていたのだろうか。腕に微かな吐息を感じ、見ると赤子がふくふくと眠っている。
小さな指が、白い頬にかかる私の髪を掴んでいた。なるほど。この赤子が私を悪夢から解放してくれたのだな。「ありがとう。」エリザは小さく声に出す。赤子を起こさないように。
「お客さん、もうすぐ着きますよ。」馬車を走らせる男が、こちらを向きながら言った。目の前には、美しい野原や畑が広がる、のどかな田舎の風景が広がっている。「もうすぐだ。」赤子をそっと抱き直し、自分の荷物を肩に下げる。
馬車を降りると、男は軽く会釈をして来た道を戻って行った。外に出た瞬間、柔らかな暖かい日差しが2人を包み込む。ああ、この村はいい。町と違って光が届く。エリザはしみじみと感じながら、家まで歩き出す。
この村に住むのはほとんどが人間だ。私のような魔女がいるのは珍しいだろう。普通、人間は悪魔と同様に魔力を持つ魔女を毛嫌いするのだが、この村の人間は違った。少なくともエリザに対しては。これには色々と事情があったのだが、今はもうどうでもよい。エリザは、安心して身を隠せるこの村を気に入っていた。
エリザの家は、山の麓にあり、目の前には自分で耕した野菜畑や花壇がある。
馬車を降りて歩くこと20分、エリザの家に着いた。ドアを開ける。ギイイと古い金具が軋む音がして、暗い台所に光が差し込む。実に、一週間ぶりの帰宅であった。