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「旅の疲れ」
赤子と共に帰宅したエリザは、暗い台所にろうそくを置き、肩から下げていた荷物の中から、町の中心部の市場で手に入れた薬や干した果物、ミルクなどを棚にてきぱきとしまっていった。さて、最後は…。
台所の机の上に、既に起きてしまった赤子が座っている。きょとんとした顔でこちらを見ている。
「どうしたものか…。」
エリザは、ろくに赤子の世話などしたことがないのだ。困っていると、「ドンドン」とドアを叩く音がした。この音は。
ドアを開けると、そこにはニコニコしながら立っている女性がいた。
「やあ!おかえり、エリザ!さっき帰ったんだろう?うちで採れた野菜あげるからさ!手伝わせて頂戴!!」
カネラか。彼女はエリザの家から1キロ程離れたお隣さんだ。私のことを第2の娘のように思っているそうだ。私の方がゆうに年上だが、人間の頃のようで悪くない。
「ただいまカネラ。どうぞ入って。」
「長旅ご苦労様!あんた疲れてるだろ?お風呂でも入ってきたらどうだい?」
「ああぅ…」
突然、赤子も会話に入りたいかのように、声を出した。
「…え!?」
初めてテーブルの上の赤子の存在に気付いたカネラは、目を見開いている。
「…そうしたいんだが、この子をどうしたら良いか分からなくてな…。」
「…あ、あ、あた…あんた…っ!まさかっ!この子あんたの子ど」
「いや、違うぞ」
何を勘違いしているのか、カネラの顔は少し青ざめていた。否定するとホッと安心したように胸を撫で下ろした。
「いやぁね~もう!どこの馬の骨が可愛い娘を孕ませたのか突き止めてやるって興奮しちゃったじゃない~。」
「…。」
娘のように思ってくれているのは嬉しいが、カネラはよく早とちりして、勝手に慌てふためくところがある。まあ、驚くのは仕方がないだろう。私のような魔女が子連れなどとは。
「…とりあえず!赤ん坊は見ておくから、あんたは風呂に行っておいで!」
カネラは素早く切り替え、赤子に話しかけながら、夕飯とミルクの支度をし始めた。私は難しく考えるのをやめ、素直に風呂へと向かった。
ピチョンッ…ザザァーー………チャプン…
旅の間は宿の浴場を使っていたが、やはり我が家の風呂が一番落ち着けて良い。
「ウフフホント可愛いわぁ~!」
カネラの声が聞こえる。赤子の世話をしてくれているのだろう。
「…後で色々と教えてもらおう…。」
エリザは旅の疲れが溜まっていた。
眠るとのぼせてしまうので、少し体勢を変え、鼻歌を歌ってみる。
白い背中には、無数の傷痕が浮かんでいた。