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ある秋の日の事だ。
私の様な国達や政府の重要な役人が集まり、舞踏会が行われた。
『おいおいどうした?まさか見惚れてんのか〜?』
軽快な男の声のせいで現実に引き戻された様な感覚が戻ってきた。
「・・・さぁ」
『何だよ〜、不機嫌か?』
くっくっと喉を鳴らしたように笑う男、スペインは私のライバルで仮の友人。とはいっても、バチバチするときもある。
「はぁ・・・、貴様、その性格どうにかならないのか?」
『おいおいおい、俺様はスペイン帝国だぜ?エスパニョールはこうでなくては』
エスパニョールだかベッロだか何でも良いんだが、相変わらずの態度だ。
「あのな・・・、貴様は一応国家だろう?」
『おう』
「もう少ししっかりしたらどうなんだ」
軽く睨みつけながら威圧を込める。私はこのヘラヘラした男が癪だ。
『ハッ!無理だね~。この俺様に限っては。・・・おい見ろよ。お前さんがさっきまで見蕩れてたベッラドンナだぜ。とんだ別嬪だなありゃ!作法も完璧だ!』
手元のワインを飲み干しながら言う。この男の口から彼女の事が出るだけで、自分の中のナニかが沸々と煮えたぎる。初めてのよくわからない感情だ。
「はぁ・・・。私は、かの偉大なる大英帝国だ。女なんぞどうでもいい。」
『嘘つけ〜、・・・あ、じゃあ俺様が口説きに行っても文句はねぇよなぁ?』
ダンッ!!!
思い切りテーブルに怒りをぶつけてやった。ワインは大理石の床へ静かに沈んで行った。幸い、ベランダだった為騒ぎにはならなかった。
相も変わらぬ面をこちらへ向ける。
「もういい。中へ入る」
『へいへい〜』
【嗚呼。待ってくれ天使様。この哀れな私に光をくれないかい?】
「あら。ごめんなさい。神様にキツく言いつけられているのよ。天使のキスを安売りするな、ってね。」
【そこのお嬢さん。今夜の月は霞んで見えますね。きっと、貴女が美しすぎるからだ。】
「そうかしら?私は月の儚さに照らされてこそ輝けるのよ。霞んでなんていないわ」
「はぁ・・・」
「(うざったらしいったらないわこの男共。よくもこんな思ってもいない事スラスラ出てくるわね!どうせ視線は私の胸と腰に絡みついているんでしょ?下心丸見えなのよ。もう少し考えなさい。)」
そう思いながら、グラスのワインを飲み干す。こんな気分のせいか、ワインの味はよく分からなくなっていた。今日も同じく、大した男はいない。どの男も”アレ,,ばかり頭にしかない。
皆、キスとハグを欲しがるだけ。
『そこのレディ。お時間よろしいですか?』
見知らぬ男に声をかけられた。無駄に小綺麗な装飾品は身に着けず、至ってシンプルな貴族風の男だった。ただ、立ち振る舞いや息遣い、足先の動きまでにも洗練されたものを感じた。
「こんばんわ、紳士様。どうか致しましたか?」
まだまだ時間はある。少しばかり、楽しませてもらうことにした。
『いえ・・・、ただ、貴女の様な淑女に惹かれただけです。金にしか目がない他の女性とは違う貴女に、魅力を感じただけの話ですよ。御無礼をお許しください。』
胸の奥がぐわっと熱くなった。
初めての感覚だった。男に、初めて内面を褒められた気がした。
『貴女は気高く美しい。常に自分の誇りを掲げている。貴女の様な方は、中々いませんよ。』
「・・・ふふ、お上手ですわね?紳士様は」
初めて、初めて男の前で気楽に笑えた。
『失礼、名前を述べていませんでしたね。私は大英帝国、ヨーロッパ北部に位置する島国です。』
「(大英帝国・・・!)」
あの圧倒的な力を持つ大英帝国だった。特に海軍が世界最強だとかなんだとか聞くような国。
「こちらこそ名前を述べていませんでしたわ。私はフランス帝国。愛と芸術の国ですの。」
お互いに軽く自己紹介をしたあと、他愛もない話ばかりした。私達、意外と気が合うのか、話題には困らなかった。男性とここまで会話が弾むことはなかった私は、少し初々しい女だったと思う。
『よろしければ・・・一曲、どうですか?』
私に微笑みながら彼はそう言った。朗らかさの奥にドス黒い彼の本性が垣間見えそうなその微笑みに、従ってしまった。
「えぇ、喜んで」
男性とのダンスで、こんなに緊張したのはこれが初めてだった。彼の視線が、私だけを見つめているというだけでも、心臓がうるさくて仕方なかった。
【お、おい見ろよ・・・】
【あの気難しいフランスを・・・!?】
【にしてもあの女、とんでもない美人だぞ】
【女の形をした国の化身ってだけでも珍しいのに・・・】
あんな男共の声なんてどうでもいい。今はただ、彼とのひとときを味わいたい。
【にしても・・・なぁ?】
【あぁ・・・あのスタイルは・・・な?】
そんな声が聞こえてきた途端。彼の眉間に皺が出来るのが分かった。
「(あら・・・?なんで怒ってるのかしら?まさか、私どこかで間違えたの!?うそ、ありえない。今までしっかり練習してきたのよ!?)」
そして曲が終わる。私は少し、焦っていた。もし嫌われたらどうしようって
バァンッッッッッッッッッッ!!
ピストルの音。銃口からの苦い香り。気づけば私は彼の腕の中に居た。
『貴様・・・誰の女に対しての発言だ・・・?』
彼がピストルを撃っていた。腰にホルダーを付けていたのだろう。銃を抜いてから撃つのは早かった。案外、ピストルの弾はあの男二人の頭上を撃ち抜いていた。
【ひ、ひぃ・・・】
『教えてもらおうか。誰の女に対しての発言だ?』
【こ、これは・・・】
『言え。蜂の巣になる前に』
初めて見た。父以外で私の為に本気で怒る人を。彼を止めないといけない筈なのに、止めたくなかった。何故かはよくわからない。
気づけば、彼のピストルは弾切れしてしまった。
「・・・いつの話ですか、それ」
『何よ〜!これで私達恋仲になったんじゃない!』
珍しく妻と昔の話をした。正直に言おう、私はあの頃の話は好ましくない。現代とは違い、負の歴史や数多くの対立を生み出してしまった時代だからだ。
「はぁ・・・、」
溜息交じりに妻の話を聞いた。女性というものは皆こうなのだろうか。なぜこんなにも話題を持っているのだろう。
『あら、私の事はお嫌いなのかしら?紳士様は』
そう問いかける妻には、出会ったばかりの頃の面影があった。あの誇り高き淑女の面影だ。
「いいえ・・・」
貴女に墜ちていますよ、とは言わなかった。