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2 - 寄り道

♥

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2025年11月07日

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「寄り道」












校門を出た瞬間、ふたりの間に涼しい風が吹き抜けた。秋の夜気は思ったより冷たく、若井は


「おい、寒くね?」


とつぶやいて上着のチャックを引き上げる。

元貴はその横で、そっと両手を制服のポケットに押し込みながらうなずいた。


「ねぇ、若井。コンビニ寄っていい? 飲み物買いたい」




「おっけー。……でも大丈夫か? さっきけっこう限界っぽかったけど」




「なっ……! そんなこと言わないでよ!」




元貴は頬を赤く染め、慌てて周囲を見回した。

誰もいないとはいえ、そういう話を堂々とされるのは恥ずかしい。

けれど若井は気にした様子もなく、悪戯っぽく笑う。






「いいじゃん、誰も聞いてねぇし」




「もう……ほんと、若井はそういうとこ!」




「ははっ。まぁ、かわいいからつい言いたくなんだよな」




「……それ、フォローになってない」




顔を逸らしながら、元貴は小さくため息をつく。

けれど若井の笑い声を聞くと、どうしても心がほぐれる。

最初は怖かった若井の笑顔が、今では一番安心できる顔になっていた。


やがてふたりは並んで歩き出す。

通学路の脇にあるコンビニが見えてきたところで、若井のスマホが震えた。






「……あ、バイクの部品、届いたって連絡。ちょっと寄っていいか?」




「うん、いいよ」




その店はコンビニの向かいの小さなバイク屋だ。

元貴は店先のベンチに座り、若井が店の奥へ消えるのを見送った。

夕暮れの残光が空から消え、街灯がひとつ、またひとつ灯る。




……トイレ、行きたいな




コンビニに入れば済む話なのに、なぜか足が動かない。

若井が戻るまで待とう、そう思った。

でも、時間が経つにつれ、じわじわと我慢がきつくなっていく。






ベンチに腰を下ろしたまま、元貴は膝をぎゅっと閉じた。

心の中で、(あとちょっと、あと少し)と唱える。

そんなとき——




「おまたせ、元貴」






若井が戻ってきた。

その手には小さな紙袋がひとつ。






「これ、ついでに買っといた。好きだろ? あのカフェオレ」




「あ……ありがと」




「どうした? なんか顔赤くね?」




「べ、別に!」




若井の視線から逃げるように、元貴は缶を開けて一口飲んだ。

けれど体の中の落ち着かなさは、むしろ増していく。

若井の視線が優しすぎて、隠していた焦りが余計にくすぐられた。




「……行くか」




「う、うん」






二人は再び並んで歩き出す。

コンビニの明かりが遠ざかるにつれて、周囲はだんだん暗くなる。

道の両側には田んぼと住宅が続き、しんとした静けさが漂っていた。






「なぁ、元貴」




「なに?」




「おまえって、我慢強いよな。勉強も仕事も、あと……そういうとこも」




「なっ……!」






あまりに唐突で、元貴は思わず足を止めた。

若井は笑って、彼の頬に触れる。






「そういうとこ、好きだよ。真面目で、でもちゃんと自分で耐えて……すげぇ偉い」




「や、やめて……変な褒め方しないでよ……!」




元貴は照れ隠しのように前を向いたが、心の奥では少しだけうれしかった。

若井が本気で言ってくれているのがわかったから。






「でも、無理すんなよ?」




その言葉は、意外なほど優しい声だった。

ヤンキーらしくない穏やかなトーンに、元貴は目を瞬かせる。




「若井って、ほんとに優しいときあるよね」




「“あるよね”ってなんだよ、“いつも”だろ」




「ふふっ、そうだね」






二人は顔を見合わせ、笑った。

その瞬間、遠くで雷のような音が響いた。

空を見ると、灰色の雲がゆっくりと広がっている。






「……やば、降るかも」




「走ろっか!」




次の瞬間、ぽつ、ぽつ、と冷たい雨が落ちてきた。

ふたりは慌てて近くの公園の東屋へ駆け込む。

屋根の下に入り、若井が息を整えながら笑う。






「はぁ……急に降りやがって」




「ほんとだよ……びしょびしょ……」






元貴は制服の袖を軽く絞り、若井は自分の上着を脱いで彼の肩にかけた。






「風邪ひくなよ」




「……ありがと」






雨音が、静かに二人の間を包む。

外はもうすっかり暗くなっていた。

若井が隣で笑うたび、胸の奥があたたかくなる。

でも、その一方で——。






……まだ、我慢しなきゃ






元貴の心の中では、もうひとつの波が静かに押し寄せていた。









𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝  ♡20

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