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第3話 ー 海 に 来 た 理 由 ー
「ねぇ、りうらくんが海に来た理由聞いても良いかな?」
貴方は俺の背中を優しく撫でてくれた。
「逃げたかっただけ、です」
俺はなぜか素っ気ない態度をとってしまった。
それでも貴方は俺を離そうとしない。
波音が俺と貴方を包み込むようにゆっくりと泳ぐせいか、時の流れが遅く感じた。
「俺が海に来た理由も聞いてくれる?」
「はい、」
「俺、消えたかったから海に溺れようとしたんだ。大切なあの子の元へ逝きたかったから」
「…大切なあの子?」
「ネットの友達なんだけどさ、余命宣告された次の日に消えちゃって」
「…ないこさんの逃げ場?」
「うん。唯一その子だけが俺の救いだったの」
「その人のために逝こうと思えるのは凄いと思いますよ。」
「俺は早く逝きたいのに、周りが止めてくる。」
「…、ごめんなさい」
「りうらくんは大丈夫だよ」
貴方は俺を元の体制に戻し、空を見上げる。
昨日のように。
今、俺の目に映る世界には海と空、貴方と俺しか存在しないように思えた。
暫く無言の時間が続いたが、気まずくはなかった。
「ないこさん、明日の夜は海じゃないところで会いませんか?」
「え~、俺とりうらくんが会うのは海だけで良いよ」
「どうして、」
「特別感あるし、海落ち着くから」
「特別…」
俺にとって特別は大切な人にしか使わない言葉。
ないこさんはどんな思いで特別と言ったのだろう。
「俺が特別って使うのはさ、宝物みたいな時間だからなんだよね」
「…っ、俺もこの時間が宝物なんです、」
同じだったんだ、貴方も時間が特別だったんだ。
胸の辺りが少し暖かい。
波音に耳を澄ませて一人で居る時みたいに深呼吸をしてみる。
肺に溜まる空気を少しずつ吐き出してまた話しかける。
「この時間が俺とないこさんにとって特別なら、これからも海で会いましょう」
「約束だよ」
そう言って小指を差し出す貴方。
その表情は今にも消えそうで儚かった。
「約束です、」
俺はふふ、と微笑みながら小指を絡める。
約三時間程、俺と貴方は海の前で世間話やお互いの過去を話した。
第4話 ー 夙 夜 夢 寐 ー