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sm side
あれからしばらくした頃、
葉の擦り合う音がよく響く季節。
彼は無理をしすぎないようになった。
彼の話を聞いて以来、俺は彼に会うと「あの日」のことを思い出してしまう。
「スマイル?」
「……え、?」
「もー、ずっと呼んでたんだけど?」
「…ごめん、」
「ぇ、あ、いや…、そんな強く言ったつもりじゃ、」
「…分かってる。」
…気持ち悪い。
「…ちょっとトイレ、」
「ぁ、はーい…」
寂しそうな彼を横目に、人気の少ない所へ向かう。
俺は個室へ入り、ふつふつと湧き上がってくるそれを吐き出した。
「ぅッ…おぇ…っ、」
最近はろくに食べることもしていない。
その影響か、嘔吐物はほとんど出てこなかった。
「っはぁッ…はぁ…」
はたして、俺の人生は価値のあるものだっただろうか。
俺は、小さい頃から親に虐待を受けていた。
毎日勉強しろと怒鳴られ、勉強をしなければ殴られた。
『お母さんッ…痛いっ…、ひぐッ…』
『痛いならちゃんとやりなさい。』
『あなたは将来頭のいい子になるのよ?』
『そんなんじゃ全然だめよ!』
父は当然のように助けてはくれず、いつも母の味方だった。
中学生になっても、親の虐待は無くならなかった。
もはや、昔よりも厳しくなった。
勉強をしていなければ叩かれるのはもちろん、友達さえつくることを拒まれた。
最低限の生活に必要なものは用意してくれたが、それ以外は全く興味を示してくれなかった。
テストでは学年3位以内に入っていなければ、夕食は抜かれる。
「うッ…はぁ…はぁッ…おぇッ…、」
しかも、夫婦仲は非常に悪く、いつも家では怒鳴り声が部屋中に響いていた。
唯一、俺に優しくしてくれた兄は、ある日突然姿を消した。
母や父はそのことを気にも止めなかった。
でもある日、学校から帰ると、そこには床に倒れた父と天井に縄を結び付け、首を吊っている母がいた。
あんな虐待を受けていたけれど、やはり親というのは俺にとって不可欠な存在であったことを知らされた。
『お母さん……?お父さん……?』
俺は目の前が真っ暗になった。
足がすくんで動けない。
なんで、俺を置いていったの、
俺は、疑問と絶望と悲しさで押しつぶされそうになった。
人間はこんなに簡単に死んでしまうものなのか。
「っ…、」
思い出したくない。
こんな、こんな価値のない過去なんて。
あの後、家には警察がやってきて、事情聴取をされた。
警察官の人たちには、まだ幼いのにしっかりした子だと言われ、少しの間引き取ってもらえた。
しばらくして、俺は祖父母に引き取ってもらえることになった。
そこでの生活は悪くはなかった。
でもその数週間後、
祖父は老いて亡くなり、祖母はその後を追って逝ってしまった。
一人取り残された俺はこっそりバイトをし、高校生から一人暮らしをしている。
学生1人ですべての費用を払うのは不可能に近い。
母、父、祖母、祖父の貯めていたお金を借りて、なんとか最低限の生活はできている。
だが、俺はその頃から人を信じられなかった。
なぜ人は他人を愛し、愛されようとするのか、
俺にはわけが分からなかった。
俺はなんとか体を起こして、個室から出た。
教室へ戻ると、寂しそうな顔をして俺の席に座っている彼がいた。
彼に初めて会った時、また誰かを失うのが怖かった。
だから、なるべく興味を持たないように意識していた。
でも、関係を断ち切れずに、ずるずるとこんな日まで引きずってしまった。
「…なかむ、ごめん、」
「…!」
「スマイル…!」
また、心配をかけてしまった。
なかむのことは大切にしたい。
失いたくない。
だからこそ、こんな俺なんかより、別の人と仲良くなってほしい。
「っ…、」
怖い。
また大切な人を失いたくない。
また独りになんかなりたくない。
また、またあの絶望を経験したくない。
「スマイル…?」
視界が歪む。
何も見えなくて、目の前にいるはずの彼に手を伸ばした。
…はずだった。
でも、その手は彼に届くことはなく、俺は意識を手放した。