テラーノベル
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その日の夜、ベッドに入ってからナーシャは考えていた。怒涛というに相応しいほど、今日のナーシャには沢山の出来事があった。 前途洋々、オリジエル侯爵家の門を出たあと、ジェストに再会して、そのまま結婚。そして知らなかった沢山の事実を聞かされる。
疲れたのは体だけじゃなかった。
頭の中が整理がつかないうちに、色んな事実を詰め込まれた。体よりも脳が疲弊していて、そのせいなのか、考えたくなくても考えすぎて寝られなくなってしまっていた。
何度か寝返りを打つうちに、ナーシャはセリナも寝られずにいる事に気付く。
「セリナ、起きてる?」
「はい、申し訳ありません。起こしてしまいましたか?」
寝られずにベッドの中で、身動いでいたからナーシャを起こしてしまったのかと、焦ったセリナの返事に、ナーシャは自分も寝られなかったと返答した。
「お茶でも飲まれますか?」
「そうね、そうしましょう」
ナーシャが起き上がると、セリナもベッドから出て、夜着のままお茶の仕度を始める。
それをぼんやりと眺めながら、ナーシャはポツリと呟いた。
「お祖母様のお手紙⋯」
祖母がセリナに預けていた手紙には、ナーシャに貴族でなくてもいいと書かれていた。あの手紙が、ナーシャの迷う背中を押してくれたのだが⋯。
あの手紙を祖母がどんな気持ちで書いたのか、父とセシルの実母の事を聞かされたナーシャには、祖母の悲痛な思いが込められているように思えてならなかった。
「大奥様のお気持ちは、とても複雑でしたでしょうね」
「そうよね、それとお父様」
「旦那様ですか?」
「うん、お母様のこと恨んでいたのかしら?」
ナーシャは、父親から可愛がられた記憶があまりない。それでもあからさまに嫌われていると感じたのは、リリアが養女になってからだった。それまでは、セシルと接している父の様子から、少し距離が遠いと感じても最低限娘として見てくれていたように思っていた。
だがリリアが来てからは、完全に一線、しかも特大に太い線が引かれたように感じた。
それをナーシャは、ジェストとの婚約を白紙にと言われた際に、抗った事で完全に嫌われたのだと思っていたけれど、もしそうではなかったら?
そんな事を悶々と考えて寝られなくなっていたのだ。祖母を慕っていたからという理由よりも、もっと根本的に《《あの母》》の娘だからと考えたら⋯。だがそうするとリリアの件が説明がつかなくなるから、やはりナーシャ自体が嫌いなのか?と悩みの迷宮に嵌ってしまっていた。
「ナーシャ様、差し出がましいようですが、もう考えなくてもいいのでは?」
セリナの言葉は、その通りだとそれが正解だと頭ではナーシャは分かっていた。
もう考えない!
考える必要はない!
もう関係ない人だから。
考えなくていい理由はいくらでも思い付ける。それなのに気付くと考えているのだ。
「はぁ」
セリナの淹れてくれたお茶は、宿に常備されているものではなく、セリナがナーシャの為に、常から用意してくれていた物だった。飲み慣れたお茶でひと息ついても、ナーシャはいつまでもうじうじと思考の闇に囚われていた。
◇◇◇
デリス子爵領へは、それからも強硬軍で進み、単騎で4日掛かる行程を、馬車で、しかも女性が二人同行しているにも関わらず5日という短さで到着した。
普通に進めば8日は掛かっていただろうと思われた。それほどに子爵領は王都から遠かった。子爵領からなら辺境伯領を通るだけだから、隣国に向かう方が近いと言える。
ナーシャは、|デリス領《ここ》に到着した時、こんなにも遠くから、ジェストはオリジエル侯爵家に兄の従者として来てくれていたのだと感動していた。
そして、ジェストが兄の従者になったのは、セシルと実母の関係を完全に断ち切らないための、ミゼラの配慮だと感じられる。その配慮を知らぬこととはいえ、無碍にしたのは当の本人であるセシルであったけれど。
子爵領は、林業と農業の盛んな地だとナーシャは勉強していた。何れこの地をジェストと治めると思っていたから、子爵領の事をナーシャは子供の頃から学んでいたのだ。
領地に入ってから左手の方には山が広がっていて、それは地図を見て隣の領地を山で挟んでいるのは分かっていたのだが、実際に見るとその広大さにたじろいでしまう。
「大きい!」
ナーシャの声にジェストが頷きながら、登山口がある場所や、山で取れる山菜や薬草、果物などの話しを聞かせてくれて、そのどれもにナーシャは興味深く耳を傾けた。
子爵家は、想像していたよりも大きかった。
この家に、3世代5家族が暮らしているのだと聞かされて、ナーシャは目を丸くした。
敷地内の少し離れたところにも大きな家があり、そこは使用人用の住まいで、殆どの使用人が家族共々住んでいると、ジェストが説明してくれて、ナーシャは驚く。
今までナーシャがいた、王都のオリジエル侯爵家のタウンハウスが、たった3人しか住まないのに無駄に広く寒々しい場所だったと、尚更感じられる。
そして、ナーシャは何故ジェストがレミィの話しを、包み隠さず伝えたのかやっと理解が追いついた。
初めて会ったレミィは、セシルがそのまま女装したように、セシルと顔が瓜ふたつだった。
コメント
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第24話、読み終わりました。ナーシャの心の揺れがとても丁寧に描かれていて、特に「もう考えなくていい理由はいくらでも思い付けるのに、気付くと考えている」という一文にぐっときました。頭では分かっていても感情が追いつかないもどかしさ、すごく共感できます。デリス領の広大な景色や、ジェストの説明で初めて実感が伴う感じも、地図と現実のギャップがリアルで良かったです。そしてラストのレミィ登場、まさかの瓜二つ…これはもう続きが気になって仕方ないです!