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数日後。千歌はまた、放課後の校舎裏で歌っていた。
本当は誰にも聞かれたくないはずなのに、凪が現れるかもしれない、そんな期待を心のどこかでしてしまっていた。
「やっぱり歌ってた!」
その声に、千歌の声はぴたりと止まった。
振り返れば、案の定、笑顔の凪が立っている。
「先輩の歌、やっぱり好きだなぁ」
「……なんで、また来るの」
「そりゃ決まってるでしょ。先輩の歌を聞くため!」
そう言いながら、凪は差し出したはちみつレモンと書かれた缶ジュースを千歌に押し付けてきた。
「はちみつって喉にいいんでしょ?だからあげる!」
「……ありがと」
素直に受け取った自分に驚きながら、千歌は缶を開けそっと口をつける。
冷たい甘さが、強張っていた心を少しだけ和らげた。
「あのさ、今度さ……俺の前でちゃんと歌ってくれない?」
「ちゃんと……って」
「昨日は途中でやめちゃったからさ。俺、最後まで聞きたい」
真っ直ぐに向けられた瞳に、千歌は視線を落とした。
怖い。でも……聞いてほしい、という気持ちも確かにある。
「……少しだけ、なら」
その小さな声に、凪の顔がぱっと輝く。
その笑顔を見て、千歌の胸の奥がじんわりと熱くなった。
——どうして、こんなに嬉しいんだろう。