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※某メーカーの軽自動車に出てくる俳優Tさん、ふたたび登場!?の巻
※この物語はフィクションであり、登場する人物・団体等は実在のものといっさい関係ありません。と一応明記しておく!
橋本と同じドライバーを職業としているが、運ぶものが違うため、宮本とは休みがまったく合わなかった。それでも一緒に過ごせる時間を互いに見繕っては、どちらかの家でふたりきりで濃密に過ごすことが、ご褒美になっていたりする。
「たまにテレビを見ると、この間まで頻繁に出ていた芸人がいなくなっていて、新しいヤツが出ているというローテーションが、思ったより短くなってる気がするんだけど、雅輝に聞くだけ無駄か」
橋本の自宅にて並んでソファに座り、目の前にあるテレビをなんとはなしに眺めていた。自分よりも細身の肩に頭を乗せつつ、橋本の左手を恋人繋ぎでぎゅっと握りしめる。
ベッドの中で過ごしてしまうと、際限なく求めてしまうので、テレビを見ることを自ら提案したのだった。
こうして他愛のない会話をするのも、結構面白かったりするけれど、内容によっては無駄な争いに発展してしまうこともあった。
「アニメ以外、見ていなくてすみませんね。陽さんがせっかく、話題を提供してくれたというのに!」
宮本が拗ねても、橋本にはまったく通用しない。宥めるように頭を撫でられるだけで、簡単に機嫌が直ってしまう自分の単純さに呆れ果てた。
賑やかなバラエティ番組が切り替わり、軽自動車のCMがふたりの目に留まる。そこに登場している俳優は、以前ダブルデートしたときに、車内で橋本が真似た人物だった。
「陽さん、この人――」
「よく気がついたな」
「あのあと、ここのディーラーのホームページを調べて、実際のものを見てみたんです。陽さんってば、セリフをほとんどを丸暗記していたんですね。いつか使うつもりで、覚えていたんですか?」
肩に乗せている頭をほんのちょっとだけ上げて、宮本は橋本の顔をまじまじと見つめた。
「ああいうのが好きな客もいるんだよ。ハイヤー運転手として、俺ってば優秀だろ?」
視線を合わせてにっこり微笑まれただけで、宮本の胸の奥が痛むくらいに疼いた。
(サービス精神旺盛な陽さんとしては、ああいうことをしてお客を喜ばせているだろうけど、ドキドキしている人は絶対にいるはずなんだ。甘いマスクで見つめられながら、耳が孕みそうになる美声で『僕が傍にいれば大丈夫。君がアクセルを勢いよく踏み込んで、誰かのところに行ってしまわないように、僕がブレーキになって止めてあげます』なんて言われたら、誰だって陽さんに向かって、アクセル全開で踏み込むっちゅーの)
※不器用なふたり本編【4WD】参照
「何だよ、その顔。雅輝はああいうのは嫌いなのか?」
「嫌いじゃないですよ。陽さんの演技、すっごくうまかったですし」
「優男教官と俺様教官、どっちが好みだった?」
ニヤニヤしながら究極の質問をしてくる橋本の視線を、ぷいっと逸らしてやった。だけど肩に乗せた頭は、そのままにする。
「ま~さ~き、どうして機嫌が悪くなるんだよ」
「俺に難しい質問をしてくるからです。しかもふざけた感じで訊ねるから、余計に答えにくくなる」
「ふざけてねぇって。大真面目に聞いてるぞ」
「その顔の、どこが大真面目なんですか」
空いてる手で橋本の頬を、むにゅっとつねってやった。
「イテテ。意地悪すんなって」
橋本はつねっている宮本の手を素早く握り込み、甲にチュッとキスを落とした。
その場の雰囲気が悪くなっても、持ち前のテクニックでやり過ごしてしまう年上の恋人に、宮本はまったくなすすべがない。頬を染めながらキスされた手を使って、橋本の手を握りしめるのが精いっぱいだった。
「それで雅輝としては、どっちが良かった? なぁ教えてくれよ」
「どっちかなんて選べません。甲乙つけがたいですもん」
わざと耳元で甘やかに囁く橋本の言葉に、促されるようにやっと答えた。