シンデレラは、確か12時の鐘の音の中、魔法が解けきる前に逃げ出して、片方の靴を落として探し出されていた。それをアレンジした告白が今学校で流行っているという話だ。
1、好きな相手に上履きの片方をぶつける。
2、ぶつけられた方はぶつけた奴を探し出す。
3、見付けられたら告る。
以上。言葉にすると単純だ。
そして、俺はさっき上履きを頭に食らった。割と強め。イテかった。それは良いとして、誰かに告白の為に呼ばれたって事だ。
友達が振られた現場での事だったが、この際気にしてられん。
上履きにはクラスと名前が書いてあった。
1の5 鈴原。
今すぐ来いって事だよな。
俺は友達を置いて1の5へと向かった。
クラスの前には、慌てた感じの一年女子が2人いた。俺は声を掛ける。
「鈴原ってどっち?」
「あ、あのー、神野先輩、そのー・・・」
1人が答えるがハッキリしない。
恥ずかしいのかな?と思って、俺は人差し指で2人を交互に指しながら順調に目を合わせる。すると、2人はお互いに目を合わせて、同時に俯いて教室の中を指差す。もう1人中にいるって事か。よく見れば2人共両足に上履きを履いていた。
俺は、2人に手を挙げて礼をし、教室のドアを開ける。
中には女子が1人。ドアの音にビクッと肩を震わせる。恐る恐るこっちに顔を向けた。可愛い。合格。
「鈴原ちゃん?」
持っている上履きの踵に指を掛け、相手に見えるようにして聞いた。
彼女、鈴原ちゃんは頷いてそのまま下を向いた。恥ずかしがり屋さんなのかな。
そう思いながら俺は彼女に近づいた。
「ルールとかよく知らないんだけどさ、コレ履かせてあげたら成立するの?」
彼女の前でしゃがんで、スリッパの片足に上履きを履かせようとした時。
「あ、あの、違うんです!」
急に声を上げて一歩下がる鈴原ちゃん。
「あ、違った?渡すだけだった?」
「えっと、そうじゃなくて。ルールはそれでokなんですけど、その・・・」
凄く言いにくそうな彼女の様子に、俺は嫌な予感がした。もしかしたら違うのは・・・
鈴原ちゃんは急にバッと頭を下げた。
「ゴメンなさい!私が上履きを投げたのは神野先輩にじゃなかったんです!間違って神野先輩の頭に当たってしまって」
あー、やっぱりね。
俺は苦笑いしながら天井を見上げて溜息を吐く。
「痛かったですよね、思い切り投げたから。本当ゴメンなさい!」
顔を戻すと、手をぎゅっと握りしめて顔を赤くし、目を潤ませながら謝る鈴原ちゃんがいた。可愛い。惜しいな。でもしょうがないか。
「謝んなくていいよ。気にしないから」
痛かったけど。
言いながら俺は、キツく握られた彼女の手を解いて上履きを持たせ、頭を撫でた。ツヤツヤの髪は柔らかくて良い匂いがする。
「次は間違えないように気を付けてね」
バイバイしながら教室を出た。残念だなー。
「友也、昨日のシンデレラどうだったん?」
翌日友達のコジに聞かれた。
「人違いだってさ」
「マジか、ダサっ」
言われて俺は奴の頭を殴った。相変わらず空気の読めない奴だ。
コジは、頭を摩りながら教室の後ろのドアを見る。釣られてみると、超絶可愛いくなった一年のリンちゃんが、彼氏であるサッカー部こと荒山に会いに来た所だった。
ああ、成功したんだな、告白。
リンちゃんは俺の友達のナオの元カノだ。ナオの下から巣立ち、荒山の所に行った。良かったような、何とも言えないような。
何気なくナオを見ると、リンちゃんをガン見していた。俺は椅子から半分ずり落ちる。
「未練半端ないな」
「うるせー」
知り合ってからずっと彼女のいない時期が無かったナオだが、リンちゃんロスが酷いようで次に踏み出せないらしい。
「だから私にしなよ」
横から綺麗な声が響く。クラス1、いや学校1かも知れない。高レベル女子、クラスメートの香奈だ。
香奈はずっとナオにアプローチしているが、残念ながらナオは元から綺麗な女は興味の対象外らしく、断り続けている。勿体ない。
「リンがいい・・・」
はぁ、溜息しか出ない。
リンちゃんが荒山と一緒に居なくなると、ナオは亡霊の様に何処かに行った。
「どうしたら私を見てくれるのか」
こちらも溜息をつきながら香奈が言う。
香奈は美人だ。センスも良いし、バツの付け所が見つからない。
「香奈は凄いと思うよ、俺。ナオの趣味に合わせようとしないで自分らしいままでぶつかり続けてさ。カッコイイよ」
俺がそう言うと、香奈は笑って「有難う」と言う。
「いつか想いが届くと良いね」
「友也は優しいなー」
「惚れた?」
「あはは、無い無い」
即否定。わかってるけど痛いよ。
その時、背中から視線を感じた。振り返ると、前のドアからサッと逃げるように身を隠す1年女子の影が見えた。
鈴原ちゃん?
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