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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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玄関先で抱きついて…和臣とのことを全部話した。

「はぁ…なんで自分より弱い女にそういう恐怖を与えられるのかね…」


女には優しくしてなんぼだろ…と付け加える嶽丸。


…どれくらいそうしてもらってただろう。


嶽丸は足の間に私を挟み込むように抱きしめ、ずっと頭を撫でながら髪を触ってた。


…嶽丸の本音には気づいてる。さっきから密着した私のお腹ににいろいろ当たってるから。


それなのに、余裕。

ちゅっ…とこめかみにキスが落ちてくるくらいに。



「タマ…どっかでご飯もらったのかにゃ?」


「まだ…もらってないニャン…」



タマ呼ばわりされてノッてみれば、瞬間、吹き出す嶽丸。



「…じゃあ、ポチくん特製の美味しいご飯を食べますか?」



自分でポチを認めたのがおかしくて…思わずその顔を見て笑ってしまう。


ニヤリと笑った嶽丸は、整った顔立ちが、本当に綺麗。


裸も、顔も、綺麗な人なんだよね。

だからモテる…って思ってたけど、実は嶽丸って、余裕と包容力が一番の魅力なんじゃない?



「おいで。…望むならあーんして、食べさせてやるぞ?」


「ベタ甘だね…どしたの?」


リビングなんてすぐなのに、ちゃんと手をつないでくれる嶽丸。


私の正面に立って、頬を両手で包んだ。


「だって、傷ついて帰ってきたんだろ?」


「…え」


「毎日外で頑張って仕事して、愚痴ひとつ言わないで朝早くから出勤して…」


嶽丸はそのまま私を抱きしめて、また安心できる胸に閉じ込めてくれた。


「ここんとこ、休んでないだろ?もぅ…家では全部俺に任せてればいいから」


休みが取れないこと…気づいてくれてたんだ。

美容室では、私が毎日いることは当たり前で、何かあれば対応するのが当然だと思われてきた。


店長だから、それが役割って思ってきたけど…



「ホントは、しんどかった…」



ポロっと涙が溢れてくる。



「あ〜ぁ…美亜ちゃん、泣いちゃいまちたね…うんうん…可愛いそうでちゅねぇ…」



低い声で赤ちゃん言葉を話すから、泣きながら笑っちゃう…!


ぎゅうっと抱きしめて、クルッと一回転してパッと緩めて…なんだか本当にあやされてるみたい。


嶽丸は泣き止んだ私をダイニングに座らせると、横に座って本当に食べさせようとしてきた。



「…ちょ、さすがにそれは甘やかしすぎ!…私なんにもできなくなるよ?」


「…本望!」



ニカッと笑う嶽丸。


…ったく、どこまで本気で言ってるんだか。


でもおかげで、和臣とのことを忘れてる私がいた。


癒される…私のポチくん。



………


「いいって。先に寝てな」


泣いてしまったことで、私にはまだ自分の癒しが必要だと力説され、誘われるまま嶽丸の部屋で一緒に眠ることになった。


まだ嶽丸のパソコンは電源が落ちてないみたい。


「仕事終わってなかったの?」


「俺の仕事は24時間365日。急ぎの案件にもなるべく対応する。…ってことで、月2〜3回の出社で済んでるんだよ」


「…出社することもあるんだ…?」


「当然。ちゃんとスーツ着て、満員電車に乗るわけ」


「うわ…スーツ似合わなそ…」



ウソ…。ラフな服装しか見てないから、想像がつかないだけ。

嶽丸みたいな細身の長身なら、どれほどスーツが似合うだろう。



ちょっと片付ける…と言ってパソコンに向かった嶽丸。


そしたらすごかった!


カタカタ…どころじゃないスピードでキーボードを打つ。

もう…シュタタタタタ…くらい。


嶽丸の真剣な顔なんて初めて見る…

つい、珍しいものを見るような気持ちでじっと見ていると、次々に画面に謎の記号がダーっと現れ、目にも止まらぬ早さで処理をしていく。


なにこれカッコいい…。


私なんていまだに人差し指でキーボードをちょんちょん打ってるし、フリーズなんてしちゃったら、爆発の前触れかと不安になってしまうのに。


初めて見る嶽丸の姿に、ちょっとキュン…



「よし!終了!」


デスクから離れた嶽丸が、私がいるベッドにゴロンと横になった。


2人で仰向けになって…ふと横を向いた嶽丸が私を見る。



「こういうの、なんていうか知ってる?」


「ん?」


「俺たちみたいな2人のこと」


「…セフレ?」


「まだヤッてない」


「あ…」


「…ソフレって言うんだって。添い寝するフレンドの略な」


「…」


「なに?」


「…キスは、したよ?」


「…あ…」



体ごと私に向いて、嶽丸はじっと視線を注ぐ。


「また、したい?」


何を?…なんて聞いたら野暮?

ちょっと見上げた嶽丸の視線が熱い、なんて思っていたら…



瞬間、唇が重なった。


すぐに深いキスになって、嶽丸の舌が私の唇をくすぐるように侵入してくる。


熱く舌を絡めるキスは音がするほど…私を抱き寄せる腕に、今までにないほどの力がこもった。


一瞬…このままどうなってもいいって思った。

嶽丸に抱かれたいって思ったのは、嘘みたいな本当の話。


…それなのに、キスが次第に優しくなって、それが終わろうとしているのがわかる。


「明日、仕事だろ?」


チュウ…っと長めに押し付けられた唇が離れて、嶽丸に聞かれた。


「うん…」


「じゃあ…寝ないとツライな」


喋ってても、唇が動くたび触れる距離。

自分からもう一度重ねてしまいそうだ…


「安心しな。これ以上はしない」



嶽丸にはそういう相手がたくさんいて、別に困ってるわけじゃないから、わざわざ私に手を出す必要もないってことかな…




その時、嶽丸の携帯が振動した。

着信したのはメッセージだったみたい。



「あー…明日の夜、俺出かけるわ」



携帯を操作しながら言う嶽丸。



…またこの前の女の子かな。それとも別の子?


…茶化しながら聞いてしまえばいいのに、喉の奥に言葉が詰まって出てこない。


これ以上しないのは…明日の約束があるからかも…


なんとなく唇がとんがる…この気持ちはいったいなに?



「楽しんでおいで」



それだけ言って、服越しに嶽丸の胸にキスをする。

そしてその胸にピッタリくっついて、私は静かに目を閉じた。


…………


…翌朝、目の前に壁があって驚いた。

いつの間にか嶽丸に背を向けて寝ていたみたいだ。


でも…ウエストにがっちり腕が絡みついてて、ピクリとも動けない。


背中越しに嶽丸の熱が伝わって…朝からそれが、とても心地よいと思った。


…とはいえ、このままボーッとしていられない。昨日の今日で、ケンゾーと和臣はどんな話をしたのか気になる。


「…それよりなにより…仕事だっちゅーの」


絡みつく重い腕をそっとほどいてスルリと抜け出し、向き直って嶽丸の寝顔を見た。


長い睫毛…そして鼻が高い。

唇は少しだけ開いている…


この唇と、昨日…キスをした。




「そして今日は別の女の子とキスをする…っと」



戒めるように言ってみれば、なんだかストン…と腑に落ちた。


昨日は嫉妬みたいなものを感じたけど、今日はいつもみたいにちょっと俯瞰して見れる自分がいる。


嶽丸にだけ感じる安心感や心地よさは、昨日いろいろあって弱ってたからそう感じただけ。


私はそう結論付けて、嶽丸の部屋を出た。


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