テラーノベル
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いつも白い天井ばかり見ていた。
ここに香るのが芝生の香りならいいのに。
何度そう思ったのかわからない。
ツンと刺さる消毒の香りに嫌気が差しながら今日も目を覚ます。
そんな生活でさえ 今は恋しい。
あの日から何かが変わってしまったから。
サッカーが好きだった。
病院の窓から聞こえるボールを蹴る音が、追いかける声が羨ましくて仕方がなかった。
いつかあの中に入れる。
きっといつか皆と同じように学校に行ける。
そう信じて疑わなかった。
青 えっ…?
先生 君がサッカーが好きだってことはよく知っている。
でもね。
次の手術を受けると、君は歩くことさえままならない体になってしまうかもしれない。
青 そっか。
手術しないと良くならないもんね。
先生俺のこといっぱい知ってるから
きっといっぱいいっぱい悩んで、考えてくれたんだよね。
自分に言い聞かせるように呟く声は震えていて。
俺は先生に顔を見れなくて。
視界はぼんやりと滲んでいた。
まるで夢を諦めろと未来が見えなくなってしまったように。
でも。
それでも俺は。
諦めたくなかった。
青 先生。
俺ね、昨日の夜沢山考えたの。
正直、怖い。
歩けなくなるかもしれないって言われて、すごく怖かった。
でも、それでも。
それでも俺は、生きてたい。
サッカーは本当はしたいけど。
外に出て風に当たって。
それで、いつか。
いつか未来に向かって歩ければいいから。
だから。
だから俺のこと、手術して。
生きたかった。
生きていればきっと未来は明るい。
そう信じていた。
あの日を迎えるまでのカウントダウンが始まっていたことなど知らずに。
コンコンッ
いつも通り布団に潜って目を閉じていると
いつもとは違う音が聞こえた。
そっと布団から顔を出して音のする方を見ると
白 こんばんは。
純白な服に見を纏い、大きな白い翼が生えている何かがこちらに話しかけていた。
青 え…?
白 一旦中に入れてくれへん?
外寒いねん。
学校に見合わない関西特有の喋り方に違和感を覚えながら窓を開ける。
白 はぁ…寒っ。
青 あの…誰ですか?
なんで俺の病室の前に…
ここ3階ですよ…?
白 僕な…天使やねん。
青 て…天使?
ハロウィン終わりましたよ。
白 いやいや…ほんまやって!
白い翼が証明や。
そう言いながら翼を動かす彼。
青 ほんとに天使?
俺のこと迎えにきたとか?
白 迎え?
なんの話や。
青 いや…俺病気で…
もうすぐ手術受けるから。
天使が来たって事は…俺…死んじゃうのかな。
白 あぁ…えっと。
いや…こんな空気の中で話すのも恥ずかしいんやけど…
僕天界から人間界を覗くのが好きなんやけど
見てた時にそのまま落っこちてもうて…
その…迎えとかやないんよ。
少し恥ずかしそうに話す天使。
天使とはこんなものなのか。
彼がただ間抜けなだけなのか。
予想とは全く違う回答に拍子抜けする。
白 っていうか君病気なん?
青 うん…
サッカーが好きなんだけど…手術したら…
歩くこともできなくなるかもって…
声に出すと現実の恐怖がまた押し寄せる
俺は少し俯いた。
白 手術いつ受けるん?
青 …一週間後。
白 僕まだ見習いやから大したことはできへんけど…君は僕を助けてくれたし。
なんかして欲しいこととかない?
まぁ…そんな事言っても話聞くくらいしか出来へんかもやけど…。
青 …青。
白 え…?
青 俺の名前。
青って呼んで。
白 ふふっ。
分かったわ。
僕は白。
よろしくな青ちゃん。
青 よろしく白。
あともう1つお願い。
白 なんや?
青 俺と友達になって。
白 あったりまえやん。
毎日会いに来るわ。
青 うん。
学校にもまともに通ったことのない俺にとって、友達という存在は本当に嬉しくて。
頬が勝手に緩んでいた。
ともだち。
この言葉の響きだけで少し心が救われた気がした。
白 青ちゃん!
今日なっ…お花屋さんでお花買ってきたんよ。
青 綺麗だね。
白が持つと青が綺麗に映えてる。
白 花瓶の中に入れとくな!
青 ありがとうな。
花瓶のなかで揺れる色とその香りが
思い出となっているのが嬉しかった。
白 青ちゃん!
今日は満月やで!
月綺麗やな。
青 うん。
満月は白の翼を輝かせる。
青 すっごく綺麗。
白 綺麗なのは月やろ。
なんでこっち見てんねん。
そう言いながら月のもとで笑う白。
俺の心はすっかり彼に絆されていた。
白 青ちゃん…
青 俺な。
暖かい陽の下でみんなと一緒に学校に行くのが夢なんだ。
白 大丈夫。
絶対叶うよ。
だって手術したら良くなるんやろ。
手術を受ける前にもしかしたら…なんて
考えたくもない現実を彼の笑顔はいつもかき消してくれる。
青 俺の手術が終わったら、
白と一緒に外を歩きたいなぁ。
それからね。
白のお話ももっともっと聞きたい。
そう言って彼の頭を撫でてやる。
青 何回も手術を乗り越えてきたんだもん。
今回だって絶対大丈夫。
いつもより荒い呼吸の中
暖かさと幸せに包まれながら眠る。
白 おやすみ。青ちゃん。
幸せそうに眠る青ちゃんの顔を覗く。
白 青ちゃんのこと元気づけてあげたいなぁ。
なにか僕にできることないんかな。
綺麗な場所見たら青ちゃん元気になるかな。
ふと母親との会話が頭によぎる。
母 白は人間界を観るのが好きねぇ。
白 うん!
賑やかで楽しそうだもん。
もちろん天界の景色も大好きやけど。
人間界の景色も大好きやねん。
母 そっか。
いつか人間のお友達ができるといいわね。
白 うんっ!そしたらいっぱい遊ぶんだ
母 人間界に降りるにはまずは一人前の天使にならないとね。
白 僕頑張る!
母 でも1つ。
絶対に守らなくちゃいけないお約束があるの。
白 お約束?
母 生きている人間をここへ連れてきてはダメよ。
ここにつれてきたら白は堕天して天使ではいられなくなっちゃうわ。
それに人間は…
白 人間は…?
母 いや…これはまだ白には早いお話ね。
とにかくここへ連れてこないようにね。
白 うん!分かった。
白 お母さんやって青ちゃんのこと知ったらきっと連れて行っても分かってくれる。
綺麗な天界の景色を見たら、元気出るやろなぁ。
白 青ちゃんっ!
今日もきたでっ
青 …。
白 青ちゃん?
青 手術明日になった。
白 えっ…?
1週間後って…。
青 俺の体のことを考えると早めないといけないって先生が。
白 …。
そっか。
青 そ…そんな暗い顔しなくても。
大丈夫。
手術成功してまたいっぱい話そ!
そう元気に振る舞う彼の手は震えていた。
白 あんな…。
ほんまはお母さんに許可取ってから手術の前の日に連れて行こうと思ってたんやけど…。
青 ん?
白 天界に行ってみんか?
綺麗な場所に行ったり景色を見たら青ちゃんのこと元気づけられるかなって思って。
青ちゃんに何かしてあげたいと思ってて。
青 天界…?
白 すっごく綺麗な場所なんやで!
キラキラしてて。
みんなすっごく優しいし。
絶対青ちゃんも気に入ると思うんよ。
どう…かな。
そっと俺の手を握ってくれる彼。
俺の手はいつの間にか彼よりも白くなっていて。
ほんの少しわがままになってもいいだろうと思った。
青 …行ってみたいかも。
白 ほんまっ!
目を輝かせて俺の目を見る彼。
青 白とそこいったら手術も成功する気がするわ。
白 ほな…今から行こっ!
明日手術ならはよ行かな!
青 でもどうやって…
白 ちゃんと捕まっててな…
そう言うと彼は白く大きな翼を羽ばたかせながら
俺を抱き上げ空へ舞い上がった。
青 飛んでる…
上から見る景色は本当に綺麗で。
手術の怖さなんていつの間にかなくなっていて。
天界はもっと綺麗な場所なのかななんて胸が高鳴る。
白 もうちょっとで着くでっ!
青 わぁっ…。
天界って素敵な場所なんやなぁ。
息を呑むほどの美しさに見惚れた。
白。
俺さ、 手術が終わったらーー
俺は白の翼が黒く染まったことに気づけないまま。
母 青っ…
規則正しい電子音だけが残っていた。
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コメント
5件

更新ありがとうございます😽 白さんと青さんがもつ、お2人にしかない優しさ、あどけなさが丁寧に書かれてあって、でもそれが綺麗すぎて、残酷さを増していて、零さんの表現力をたっぷりあびれました😭💖 もしやシリーズ作品ですか⁉️次回の作品もたのしみにしてます💘
お久しぶりです。 お互いに何も悪気などなくて、お互いの白さが混ざって残酷な誰もが望まない結果となってしまいました。 どこから間違っていたのでしょうか。