泣き疲れたのか、腕の中で眠ってしまった四季凪に掛かっている眼鏡をそっと取り、机に置いた。
長い間泣いていたから、少し目元が赤くなっている。
俺が来るまでに多分、擦っちゃったのかな。
瞼を優しく撫でるともぞもぞと身体が動く、芋虫みたいだ。
別に悪口じゃないよ、芋虫だって綺麗な蝶になる、凪ちゃんはその蝶だよ。
この世界にはユリシスっていう綺麗な青色の蝶が存在して、見ると幸せが訪れるらしい。
俺からすればその青い蝶は凪ちゃんだよ。
凪ちゃんが居るから今の俺は幸せなんだよ。
そう言ったら、君は喜んでくれるかな。
コン、と数回扉のノックオンが聞こえた。
黄色と白が特徴の男がひとり、赤紫と黒が特徴的な男がひとり。
見慣れた仲間だ、手を振って入っていいと合図を送ればドアノブが回される。
人差し指を口元に寄せ、静かにとサインを送れば彼らはゆっくりとこちらに近付いた。
「もしかして寝てる?」
「さっき寝たところ、泣いて疲れたんだと思う」
「セラ夫ごめん、今日のは完全に俺が悪かった」
しゅんと悲しそうな顔をして雲雀は四季凪の髪を撫でた。
別に雲雀と奏斗が悪いわけじゃないし、勿論凪ちゃんが悪い訳でもない。
話の内容が、今の凪ちゃんに合わなかっただけだ。
きっと数日後に困ったように笑って、ぽつぽつと話してくれる。
実際最近の四季凪の体調が不安定だったのもある。
身体的には勿論、精神面的に疲れが見えていた事は前々から少し分かっていた。
事務作業やダンスレッスン、事務所の依頼に案件等が重なって多忙だったのも関係しているのだろう。
誰でも疲れてたり苦しんでいる時に辛い過去の話を聞くのは嫌になる。
人間誰しも、幸せな思い出しか無いことなんて無いから。
「アキラがあんな顔するなんて思わなかったよ」
少し笑っているけれど、心配しているような表情で奏斗が言った。
学生時代から面識はあったものの、諜報員として、暗殺者として俺達は素性を隠していたから雲雀と奏斗は俺達が昔何をしていたのかはあまり知らなかった。
別に俺達が暗殺者です諜報員ですとあの頃話してもあーはいそうですか、で特に何も聞かずすぐに受け入れてくれたからだ。
「明日からもうちょっと優しくしよっと」
「明日お願いされたこと何でも聞くしかない」
「ひばそれはやばいよ、アキラ何頼むか分かんないよ」
「それくらいさっきの顔はマジで心に来たんやって!」
「確かに、セラもごめんアキラの事任せちゃって」
「いや、むしろ凪ちゃんにちゃんと教えられたから助かった」
甘えてもいいんだって事を教えてあげないと、四季凪アキラはすぐに溜め込んで体調崩しちゃうから。
抱き枕を抱きしめるみたいに、服の袖を柔く握られた。
起きた時にうんと甘やかしてあげないと。
「アキラが起きたら謝んないとね、雲雀」
「いやもうめっちゃ謝る、土下座する」
「アキラの寝てる顔みたら安心して腹空いちった、コンビニ行ってくるけど何かいる?」
「あ、んじゃ俺もKNTに着いてくわ!」
「んじゃ凪ちゃんが食べれそうなものと、飲み物。後サンドイッチ」
「おっけい!んじゃアキラの事よろしくねセラフ」
「いってきま!」
「いってらっしゃい」
2人きりにされたのはあいつらの優しさなのだろうか。
ぷにぷにと四季凪の頬を触りながら寝顔を見つめる。
過去の事なんて思い出せないくらい幸せにしてあげるよ。
だからもう泣かないで欲しい。
好きな人に泣かれるのが1番辛いからね。
起きたら笑って、一緒に飯食べて話そうよ。
仕事は今日はもう終わり、みんなで休もう。
だから早く起きて
頭を撫で、吸い寄られるように唇にキスをした。
凪ちゃんが起きるまであと______。
コメント
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毎回思うけどちゃんとサムネイル作ってやってるのすごいですよね…