テラーノベル
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「……まじか。俺の傘、ねーんだけど」
誰かが間違えて持っていったのか、そこにあるはずの自分の傘が消えていた。
仕方なく、濡れて帰る覚悟を決めて一歩踏み出そうとした時、横からスッと一本のビニール傘が差し出された。
「これ、使って。」
驚いて顔を上げると、そこには、碧海すちが立っていた。
「あ、いや。いいよ、お前に悪いし。」
「いいから。俺は予備持ってるし。」
すちは強引に傘を俺の手に握らせると、自分は鞄から折りたたみ傘を取り出して、ふわりと笑った。
「明日、返してくれればいいから。……じゃあね。」
「あ、おい! ……!」
呼びかけようとしたが、すちはそのまま雨の中へと消えていった。
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翌日。
(碧海、か、)
(まじで話したことねぇんだよな。)
整った顔立ちの奥にどこか神秘的な影を潜めているすちは、なつにとって近寄りづらい人物だった。
しかし借りを作ったままでいるわけにもいかないため、なつは重い腰を上げて彼に声を掛けた。
「なぁ、碧海」
「ん?あ、昨日の!」
「おう、ありがとな。まじで助かったわ。これ、昨日のお礼」
なつが、購買で買ってきた飲み物を差し出すと、すちは少し意外そうに目を見開いた。
「抹茶ミルク、? えー、ありがと~。 ……えっと、暇くん、?」
「……ん、そ。暇なつ。」
「あー、ごめんね。俺、人の名前覚えんの苦手でさ。」
すちは飲み物を受け取りながら、じっとなつの顔を見つめる。
「……ねぇ、ひまちゃんって呼んでもいい?」
「はぁ?なんでだよ。」
「だっていとまってひまって字でしょ?語呂もいいし。」
「⋯⋯そんなあだ名つけられたことねぇ。」
「えー、そう?」
そう言ってすちは、昨日見せたあの顔で笑った。
「……お前は、碧海すち、だよな?」
「あ、うん、そうだよ。」
「じゃあすちって呼ぶわ。」
「ふふ、あだ名はつけないんだ?」
「別にいいだろ。じゃあな。」
「ん、じゃあね。」
なつは、最後まで調子が狂う相手だったな、と小さく息を吐いた。
あの時のなつは、これが二人の日常の始まりになるとは、微塵も思っていなかった。
コメント
1件
おおっ、雨の日の傘貸しって最高の出会いの形じゃん!すちの「予備あるから」ってさらっと言って押し付ける感じ、カッコよすぎでしょ。次の日の抹茶ミルクのお礼もいいし、「ひまちゃん」って呼び方めっちゃ可愛いな〜。すち、見た目ミステリアスだけど結構フレンドリーなんだな。この二人、もっと仲良くなる感じなのかな?続き気になるわ!
茜音
不过我 不喜欢它 ↺