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#sxxn
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#いるなつ
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すちにひまちゃんと呼ばれ始めてから数週間。
なつは相変わらずその呼び名に慣れなかったが、わざわざ訂正するのも面倒になり、呼ばれれば短く応えるようになっていた。
常に一緒に過ごしているわけでもないし、すちと「友達」になったのか、なつには分からなかった。
ただ、放課後の昇降口や、自動販売機の前で、ふとした時に「あ、ひまちゃん」と現れて、隣に並んでくる。
「……ひまちゃんまたこれ飲んでんの」
自販機の前で、なつがいつも買うミルクティーを指さして、すちが苦笑いした。
「いいだろ。別に」
「飽きない?」
すちが自分の買った冷たいペットボトルを、なつの頬にぴたっと当てる。
「……冷たっ。何すんだよ」
「あはは。そうやって怒るのも、ひまちゃんらしいね。」
すちはそれ以上しつこく絡むことはせず、自分の分の飲み物を一口飲むと、「じゃ、また明日」と軽く手を振って帰っていく。
その、付かず離れずの距離感が、なつにとっては意外と居心地が悪くなかった。
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ある日の放課後、なつは一人で図書室の隅で、出しそびれたプリントを埋めていた。
そこへ、本の整理をしていたすちが通りかかる。
「……また、一人?」
「……別に、先に友達帰っただけ。」
なつがぶっきらぼうに答えると、すちは「ふーん」とだけ言って、なつの斜め向かいの席に静かに座った。
教えるわけでも、話しかけるわけでもない。
すちはただ、持っていた本を黙々と読み始めた。
窓の外からは部活の声が遠くに聞こえ、部屋の中にはページを捲る音だけが響く。
(……こいつ、何なんだよ)
なつは手元のペンを動かしながら、ちらりとすちを見た。
すちはなつの視線に気づいているのかいないのか、穏やかな表情で自分の世界に没頭している。
誰かと一緒にいて、これほどまで黙っていても気まずくない相手は、なつにとって初めてだった。
30分ほど経った頃、すちがふと顔を上げた。
「終わった?」
「……あぁ」
「じゃあ、一緒に帰らない?別に話さなくてもいいからさ。」
なつは少しだけ肩の力を抜き、鞄を肩にかけた。
「……お前といると、なんか調子狂うわ」
「ふふ、 最高の褒め言葉だよ」
夕暮れ時の廊下を、二人の足音が重なりながら響いていった。
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7月に入り、夏の暑さが増してきた頃、なつは放課後、人混みを避けて学校の裏手にある古びたベンチに座っていた。
そこは涼しく、あまり人が来ない、なつのお気に入りの場所だった。
蝉の鳴き声が響く校舎を眺めていると、横からふいにお菓子の袋が差
し出された。
「ひまちゃん、なーにしてんの?」
見上げなくても、その声でわかる。すちだ。
すちはいつの間にか、なつの隣に、当然のような顔をして座っていた。
「これあげる。期間限定のやつ」
「……あ。これ、美味いやつ」
なつが受け取ると、すちは満足そうに笑った。
「でしょ? 買い溜めしちゃった。」
二人で分け合うお菓子の甘い匂いと、少し蒸し暑い風。
いつのまにか、すちと過ごす時間はなつの日常の一部になっていた。
「……にしてもここ、ほんとに静かだね」
隣でぼやいたすちが、手櫛でぐいっと前髪を左右に分けた。
蒸し暑さで少し湿った髪が、そのままセンター分けの形でおさまる。
ふと横を向いたなつは、その顔をまじまじと見た。
普段の柔らかい印象と違って、額が出ると急に顔立ちの良さが際立って見える。
「……なぁ、すち」
「んー?」
「お前、センター分け……似合ってんな」
なつがぼそっと、独り言のように呟く。
すちは一瞬、きょとんとした顔をしたが、すぐに嬉しそうに笑った。
「ありがと。ひまちゃんに褒められるなんて、明日は雪でも降るかな。」
「……うるせーな。変なこと言わなきゃよかったわ。」
なつは顔を背けてお菓子を口に放り込んだ。
すちは髪を揺らしながら、肩が触れそうな距離で声をたてて笑った。
「ねぇ、ひまちゃん。……夏休み、一緒にどっか行かない?」
「……は?」
「なんか。友達とどっかいきたいなって」
友達。なつは正面から真っ直ぐ言われたことに驚いたが、すちの落ち着いた雰囲気はどこかなつを安心させた。
なつは、オレンジ色に染まり始めた空を見上げ、少しだけ間を置いてから答えた。
「……混んでるとこじゃなかったら、別にいいけど。」
「わかってる。ひまちゃんが落ち着ける場所、俺が探しとくね。」
二人の影が地面に長く伸びている。
その影は、ほんの少しだけ重なっているように見えた。
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夏休みに入り、約束の日、なつは少し早めに待ち合わせ場所の駅に着いた。
しばらくしてやってきたすちは、いつもの穏やかな笑みを浮かべていた。
「お待たせ、ひまちゃん。……そのジャケット似合ってるね。」
「……いいから行くぞ。どこ行くんだよ。」
「ふふ、内緒。歩いて15分くらいかな。」
連れて行かれたのは、観光地からも外れた、地元の人しかいないような静かな海岸沿いの公園だった。
砂浜にはまばらに流木が転がり、寄せ返す波の音だけが響いている。
「……ここなら、静かでしょ?」
「……あぁ。お前、よくこんなとこ知ってたな。」
「中学の頃、一人になりたい時によく来てたんだ。ひまちゃんなら、気に入ると思って。」
二人は防波堤に腰を下ろした。
目の前には、空を映して、少し濃い青色をした海が広がっている。
すちは持ってきたカバンから、飲み物を二つ取り出した。
「はい、ひまちゃん。これ、この前言ってたやつ」
「……ありがと。」
なつはペットボトルの冷たさを手のひらで感じながら、隣に座るすちを見た。
学校ではいつも誰かに囲まれているすちが、ここでは少しだけ、幼い子供のような、無防備な顔をしていた。
しばらくの間、二人は何も話さなかった。
ただ波の音を聞き、時折通り過ぎる海鳥の声を追いかける。
沈黙が流れても、なつは不思議と焦ることも、気まずくなることもなかった。
「……なぁ、すち。」
なつが海を見つめたまま口を開く。
「お前、学校にいる時と、……なんか雰囲気違うな」
すちはペットボトルを口から離し、少し意外そうに首を傾げた。
「そう? ……でも、ひまちゃんの隣にいる時が、一番素の自分に近いかも。」
すちは、空いている方の手を、なつの隣にそっと置いた。
触れるか触れないかの距離。なつはそれを避けることもせず、ただ潮風を吸い込んだ。
「ひまちゃんは、俺といる時、疲れない?」
「……疲れるなら、ここまで来ねーよ。」
なつがぶっきらぼうに答えると、すちは一瞬驚いたような顔をしてから、今度は「あはは!」と声を上げて笑った。
「何笑ってんだよ」
「いや、ひまちゃんがそんな風に言ってくれると思ってなくて。……あー、嬉しいな。じゃあさ、これあげる」
すちは、カバンから飴を取り出して、なつの口元にぐいっと突き出した。
「……いらねーよ。なんかマズそうだし」
「いいじゃん、 ほら、美味しいよ」
「は……? ちょ、待っ……んぐっ」
無理やり口に放り込まれた瞬間、強烈な刺激がなつを襲った。
「……っっっ! すっぱっ!! お前、何食わせてんだよ!」
「あはは!!ちょ、顔!ひまちゃん、面白すぎ」
「ふざけんな、お前……!ちょ、飲み物返せ!」
さっきまでのしっとりした雰囲気はどこへやら。なつはすちの手から強引にペットボトルを奪い取ると、勢いよく飲み干した。
「……はぁー、死ぬかと思ったわ」と肩を上下させるなつの横で、すちはお腹を抱えて笑っている。
「……お前、意外とガキだよな。」
「ひまちゃんが素っ気ないから、反応が欲しくなっちゃうんだよ」
「知るか。……ほら、仕返し。」
なつは砂浜に落ちていた、小さくて変な形の貝殻を拾うと、すちのシャツのポケットにねじ込んだ。
「……何これ?」
「お土産だよ。大事に持って帰れよ」
「えー、呪いのアイテムじゃないよね?」
「かもな。明日、不幸になっても知らねーぞ。」
そんな下らないやり取りをしながら、二人は公園を後にした。
駅までの帰り道、どちらからともなく今日の感想を言い合う。
「次はさ、ひまちゃんのオススメの場所教えてよ。絶対だよ?」
「……気が向いたらな。」
「『気が向いたら』は、ひまちゃん語で『いいよ』でしょ?」
「うるせー、勝手に解釈すんな。」
口では文句を言いながらも、二人の足取りは学校の時よりもずっと軽かった。
コメント
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読み終わりました。第3話、すちとひまちゃんの距離の縮まり方がすごく繊細で素敵でした。特に「付かず離れずの距離感が、なつにとって意外と居心地が悪くなかった」という一文に、作者さんの優しい視点が表れているなと思いました。図書室の黙読のシーン、海辺で「素の自分に近い」ってすちが言うところ、最後のはしゃぎ合い……どれも等身大の二人が描かれていて、読んでいて温かい気持ちになりました。次も楽しみにしていますね🌷