もともと雨はそこまで好きではなかった。
「長生きしろよ」
そういったあいつ、虎杖悠仁の顔がいやに浮かんで、夢にさえ出てくるほどだ。
それから俺は、雨の日に眠ることができなくなった。
「伏黒、おはよ!」
「おはよ」
こいつが本当に生きているのか、心臓の音が鳴っているのか、もしかしたらこれは俺の見ている夢なのではないのか。
「伏黒、隈スゲーよ?寝れてる?」
「遅くまで起きてたせいだ」
「寝不足は体に悪いからな~」
「寝れねぇ・・・」
雨粒の当たる窓ガラスを見つめると、あの時の光景がよみがえるようで。
胃から何かがせりあがってくる。
「ぅえっ・・・げほっ、げほっ」
洗面台にぶちまけたそれを見ると、さらに吐き気が増してくる。そんなことを考えていると、頭痛までしてきて、涙が出てきた。
駄目だ。泣くと余計つらくなる。
目元をティッシュで押さえる。
「伏黒?」
ドアが開いて、俺の目に入ったのは虎杖だった。
「あっ、ごめん・・・泣いてる?」
「っ出てけ!」
「・・・うん、ごめん」
最低だ。本当に俺は最低の男だ。気を使ってくれたそいつに対して、出てけ、だなんて、本当に最低だ。
あふれる涙をぬぐいながら、俺はベッドの上に座った。
すると、スマホの着信音が鳴った。
<もしもし、伏黒?>
「虎・・杖?」
<うん、さっきは俺が悪かったよ、ごめんな>
その声がいやに悲しげで。
「ちがう。俺が悪かった・・・」
<じゃあお互い様!うん、それでいいや>
「・・・」
<伏黒、最近寝不足みたいだから見に行ったんだ。でも余計なお世話だったみたいだな>
何があったのか知りたい、という虎杖をどうしても見放せなくて、少しずつ声に出す。
それを虎杖は、相槌を打ちながら聞いてくれている。
その安心感がどうしても振り払えなくて、また涙があふれていく。
「あの時のお前が、ずっと張り付いてるみたいで・・・夢に、出てくる」
<そっか>
ドアが開いた音がする。
思わずそちらを向くと、なぜか涙目になった虎杖。
「でも伏黒、俺」
生きてるよ、と。
虎杖はそういった。
「虎杖・・っ」
「おう、伏黒・・」
俺たちはしばらくお互いの体温が感じられるように抱きしめあっていた。
「なぁ、伏黒。俺と一緒に寝ない?そうすれば、俺だってわかるだろ」
この時俺は既に眠かったので、倒れ込むようにしてベッドで眠った。
こんなに気持ちよく目が覚めたのはいつぶりだろうか。
「おはよ!伏黒!」
「おはよ」
「うん!元気そうだな!合格!」
何が合格だよ、と突っ込むのを忘れず、二人で身支度を整えてから教室へ向かった。
fin.
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