※嘔吐表現、過呼吸、悪夢(冬弥が彰人に酷いことを言う)etc.
東雲彰人side
「悪い、冬弥。今日のライブ…」
「誰でも不調はある、気にすることじゃない。顔を上げてくれ。」
オレは、ライブのハコから出て、すぐ近くの路地で冬弥に頭を下げる。
今日も、いつも通りライブに参加した。
だが、今回は二人でライブに出たのだ。杏とこはねはいない。
絶対成功させるつもりだったのに…オレのせいで。
今回のライブは最悪だった。
まず初めにオレがステップを踏み外し、慌ててしまってリズムすらも狂って、冬弥がフォローしてくれたにも関わらず、そのままリズムは狂ったままで、挙げ句の果てには冬弥に肩をぶつけてしまう始末だ。
そして、歌った後の拍手の勢いの無さが、オレの失敗を物語っていた。
こんな最悪のライブをしてしまった。しかも、冬弥を巻き込んで。
気持ちはまさに憂鬱、これが自分だけのミスならまだ笑い飛ばせた、でも、冬弥は成功してたのに…オレのせいで負けるとか…
このままではオレだけじゃなく、ビビバスの名も汚れるかもしれない。
現に、今回は冬弥を巻き込んで負けた。
なら…チームでのライブでオレがヘマして…それで負けたら…。
それは嫌だ。絶対に。
「悪かった、本当に…次はぜってぇ失敗しねぇから…!」
「あ、あぁ。だが、無理はするなよ。」
「あぁ、わかってる」
そのまま、今日は反省もなく各自帰った。
冬弥と解散して、オレは人のいない古びた公園のベンチに荷物を置く。
“わかってる”なんて言ったが、無理はして当然だ。
特に、オレみたいな奴が、冬弥たちみたいな才能がある奴と同じ練習量で上手くなれるわけがない。
冬弥たちの数倍…いや、数十倍、数百倍…練習をしないと。
足を、引っ張る。
「ーーーーー!!!」
オレは、狂ったように踊って、馬鹿になったみたいに歌い続けた。
兎に角…今日みたいな失敗は、もう絶対したくない。
その一心で、オレは無理矢理に体を動かして、ライブでミスったところを重点的に練習した。
だが、ライブ後で疲れているオレの体は、上手く言うことを聞かない。
先程のライブよりも下手になったステップに、思わずため息が漏れる。
なんで…もっと上手くならなきゃなんねぇのに…足、動かねぇんだ…ッ!
思い通りにいかない足に、舌打ちをする。
冬弥たちに追いつくために…足を、引っ張らない為に…オレはもっと、もっと上手くならねぇと。
オレは、周りより衰えてるんだから…!
「っ…くっそ…ッ!…ッーーーーー!!!!」
オレは、喉を壊す勢いで歌った。
焦りと不安で冷や汗が止まらない。
冬弥の為に、頑張る。冬弥の為に…頑張らないと。
冬弥に、着いていく為に…。
冬弥の隣に…立つ為に…!!
「……っ、けほっ…」
朝起きてすぐに感じた違和感に、思わず顔を顰める。
マズイ、こりゃ…体調崩したな。
練習のことは…正直あまり覚えてない。
無意識のうちに家まで戻って、ご丁寧に部屋で寝たようだ。
だが、服は昨日のまま…
風呂には…入ってねぇんだ。ベッドで寝ていたのに?
ただ、ベッドで寝ていたはずなのに…なぜか寒い。
寒気がして、目の前が…くらくら、してる。
「ん…っ、はぁ…、けほっ、えほ…っ」
あ。…の、ど…痛いかも…。
まずい、今日の…練しゅ…が…。
オレは重い体に鞭を打つ。立て、立たないと。練習に行かないと。
昨日練習したからって、今日の練習休むと、意味がない。
冬弥たちより練習する為に昨日練習したんだ。今日しなかったら結局冬弥たちと同じ練習量…
それどころか、冬弥たちとは違って無茶苦茶に歌っただけの練習で上手くなれるなんて、到底思えない。
「げほッ…!…はっ、ぁ。」
咳…止まんねぇ…でも、練習。
しかも、 今日は午前練習だろ…はやく…行かないと…遅れる。
冬弥たちに…迷惑、かける。
オレはやっとの思いで立ち上がった。
だが、目の前がぐるぐると回って、また床にへたり込む。
あ、れ…立てね…っ…なんで…。
段々と頭も重くなって、オレは頭を下げる。
どう、しよ…練習行かなきゃ…なんねぇのに…。
床にへたり込んで、頭を下げて痛みに耐える。
練習、行く…行かないと遅れる…足、引っ張る…。
その時だった。スマホが音を鳴らす。 メールが入った音だ。もしかして…
オレはベッドの上に置いてあるスマホに手を伸ばして、怠い手でなんとかスマホを持ってくる。
すると、“冬弥”と言う名前と共にメールが入っていた。
『彰人、今日の練習一緒に行かないか?』
ふと時計を見ると、練習の集合時間に差し掛かっていた。
まずい、練習がもう始まっちまう…さっさと行かないと。
流石にこの調子だと遅れてしまうかもしれないと、オレは『今日は一緒に行けないんだ、用事の後に行くから』と送り返した。
そう送信したと同時に、オレの体は何事もなかったかのように動き始め、オレは素早く着替えて、一階に降りた。
「…げ、絵名。起きてたのかよ…」
「…何よ。起きてちゃ悪い?」
まさか…オレがリビングに降りると、ソファに座っている茶髪。
こんな日に限って、絵名が早い時間から起きていたようだ。
最悪だ…よりによってこんな、…体調隠さねぇと…バレるよな。
オレは、寒気がする手を絵名にバレないように握りしめた。
「…彰人、これから出かけるの?」
「…そうだよ。なんか文句あんのか?」
喧嘩腰で、少し冷たい声で質問をしてくる絵名に、キツく言い返してやる。
コイツはいっつもこんな感じだ。なんとかならないのか…。
「ふ〜ん…」
絵名は興味がなさそうな反応をする。
んだよ、めんどくせぇ…はやく家出るか…。
オレは、重い足をなんとか玄関へと向ける。そろそろ出るか、練習には遅れられねぇ。
そうして、オレは適当に支度を済ませ、玄関で靴を履く。
体、やっぱ重いな…でも、だからって止まれるほど余裕はねぇし…、行くか。
オレは玄関ドアに手をかける。… その時だ。
「ちょっと彰人。」
…はぁ、またか。
絵名が話しかけてきた。なんだ、パシリか、嫌味か、兎に角はやく終わらせてくれ。
「……体調が悪いんなら、無理しないでよね。」
「っ…!」
一瞬、心臓の鼓動が大きくなった。 冷や汗が頬を伝う。
バレた…バレた、バレちまった。
確かに、コイツは一応オレの姉だ。なんだかんだ側で見てきた。もっと入念に隠すべきだった。
どうする?…嫌だ、練習は行きたい、いや、行かないと…アイツらの足を…。
オレは、なんとか絵名に目を合わせる。
だが、絵名は怒っている目をしていなかった。
それどころか、少し呆れたような…どこか、優しくて、温かいような目をしている。
あれ、なんで…てっきり、体調不良を隠して出掛けに行こうとしていたことを叱られるのかと…。
「…っはぁぁ、休みなさい…って言っても、行くわよね。」
「…ぇ」
オレの反応を見て、少し口角を上げて手を口の前まで持っていき、恥ずかしそうに俯く。
そして絵名は、悲しそうに笑って言った。
「…行ってらっしゃい。」
…なんだ、ただのツンデレかよ。
内心ほっとしたような…少し、申し訳ないような気持ちになる。
…まぁ、ここはありがたく素直に喜んでおくか。
「…、あぁ、行ってきます…さんきゅ。」
そう言って、オレはドアを開ける。
玄関で、少し心配そうな表情を浮かべている絵名に見送られて、集合場所へと急いだ。
「わっ、わりぃッ…待たせた…!」
「も〜!遅いんだけど〜?」
いつも通りの公園に着けば、杏がやる気満々で声出しをしていた。
オレに気付けば、少しふざけた様子で話し出す。いつもと変わらないな。
「東雲くんが遅れるって、なんだか珍しいね!」
杏に続けてこはねも喋り出す。“珍しい”と、なんだか鋭いこはねに少し焦る。
そして、そのこはねの言葉にハッとした冬弥が、オレに鋭い視線を向ける。
「……あぁ、確かにそうだな。彰人、何かあったのか?」
その言葉に、ギクリと背中が強張った。 流石に…昨日あんなこと言ったら覚えてるよな…。
“次はぜってぇ失敗しねぇから…!”なんて、冬弥は人一倍心配症なんだから、
気にはしてくれてるよな。
冬弥は多分…もう勘付いてんだな。オレが夜に練習したこと。
「なんもねぇよ。ただCD聴いてて夜更かししちまっただけだ。ほら、さっさと歌うぞ。」
それらしい言い訳で誤魔化すか、と、オレは咄嗟に嘘をつく。
こはねと杏は納得したように頷いて、各自水を飲んだりスマホで音を確認したりと行動している。
…だが、冬弥だけ、少し不満そうな表情を浮かべ、オレの目を見つめる。
…こういう、気を遣ってくれるヤツが周りにいてくれているから、
オレは相棒の隣に立てているんだな。
申し訳ない。オレは…才能が無いのに、冬弥をストリートの世界へと深く引き摺り込んでしまって。
冬弥は、父親と上手くやれていなかったし。
オレは、結局迷惑かけることも多かった。冬弥を誘ったのはオレなのに。逆に支えられてる。
杏も、こはねも、勿論冬弥も、すげぇ才能があって、センスがあって…でも、オレは…。
そんな才能の持ち主達の中に紛れ込んで、邪魔して。
……ほんと、オレってヤツは。
「よーし!準備オッケー!!彰人、冬弥!はやく歌お!!」
そして、準備ができたと杏がオレ達を呼ぶ。
冬弥は、未だ納得ができていないような顔で、杏に“わかった”と返事を返す。
確かにオレが遅刻したせいで時間が押している。オレも、この気持ち悪い感情を押さえ込んで、
急いで杏達の所へと小走りで向かった。
「じゃあ、歌お!!次のライブもあるし、気合い入れていこー!!」
「うん!そうだね!!」
「あぁ、次のライブは大きな所だからな。いつもよりも気を引き締めよう。」
「ぁ…ッあぁ、そうだな。」
ま、ずい…頭…今になって痛くなってきた。
思考の外に追いやっていた体調不良が顔を出す。
体が怠い、寒い、頭が痛い、ふわふわする、目の前が歪んでる、ぐるぐるする。
…ッでも、っ…耐えろ…!
オレはなんもできない…追いつけてないんだ…!
追い込め…オレを追い込んで、前に進め…っ!
無理はして当然だ…体調は崩してなんぼだ。
この体調不良は、オレの体力の無さからくるもの。
そんな自業自得な話を…理由にしたくない。
…耐えろ…耐えて耐えて、耐えろ。オレ。
オレは…前に進みたいんだ…!!
「はぁっ…はっ、ぁ……はッ…」
「し、東雲くん。大丈夫?」
辛い体で、やっと一曲を歌い終えた。
もう、頭がふわふわしていて気持ち悪い。こんな体でいい歌が歌えるわけもなく、昨日より下手になった歌に、また舌打ちを鳴らす。
「ちょっと彰人。どうしたの、調子悪い?」
「……彰人、まさか昨日」
杏に続けて冬弥まで、オレを心配する声。
かと思えば、冬弥が確信したかのように口を開く。
流石に、あんな無茶苦茶な練習で体調を崩したなんて…バレたくない。
「なんでもねぇって…夜更かしのせいで集中できてねぇだけだ。ほら、さっさと次の曲…っ」
“始めるぞ。”と言おうとしたが、その言葉は声にならなかった。
突然頭が重くなって、ふらっ、と体がふらつく。
それを冬弥が、咄嗟に支えてくれた。
「…っ!あ、彰人。…っ本当に大丈夫か?」
「あ、わり…っ、大丈夫だって。ちょっと…寝不足で…」
オレは、頭が回らなくなってきたのだろう。
全ての言い訳を寝不足で終わらせてしまっている。これじゃあバレるのも時間の問題だ。
どうする…どうすれば、練習を続けられる?
「寝不足でそこまでなるものか?」
「確かに…寝不足だけでそんなふらつく?」
「東雲くん、何か隠してるの?」
やばい、どうしよう。言い訳、何か言い訳を…嘘を。
だが、体調不良の頭は使い物にならない。
言い訳を考えないと、と言う思考はあるが…肝心なその言い訳が出てこない。
「なぁ彰人。やはり今日の練習は…」
嫌だ…嫌だ。聞きたくない、休みたくない…サボりたくない。
遅れたくない、足を引っ張りたくない…荷物になんかになりたくない…。
「大丈夫だって言ってんだろうが!!オレを舐めんじゃねぇッ!!まだできる!歌えるっ!!」
オレは、体調不良でイラついていたんだろう。
体調不良なんて放り出して、オレは大声で叫んだ。
舐めるな、オレを舐めるな。まだ歌える…まだ歌いたい。追いつきたい。
「しっ、東雲くん?!」
「彰人どうしたの?!ちょっと落ち着いて!!」
「彰人…!そんなに声を出したら体に障るっ!」
うるさい…オレを心配するな、オレに優しくするな…そんなことされるから。
オレは…下手なままなんだ。
これこそが言い訳だと言うことはわかっている。
でも、オレに優しくしてほしくないと言うのは…本音でもある。
オレなんかに、優しくしても意味がない。
こんな…足手纏いを。
「…ッもう放っておいてくれ!!…何も聞きたくない!!!」
オレは足手纏いだ、そんなのわかってる。
…だけど、お前らからは…“足手纏い”なんて言われたくないんだ。
だって、お前らは…オレと大切な、仲間だから。
オレは堪らず公園から逃げ出した。
もう、こんなオレを見られたくなかった。
歌うのが下手なオレを、馬鹿みたいに体調を崩しているオレを…見られたくなかった。
「彰人っ!!待ってくれ…!!!」
そんな声が…遠くから聞こえてきた。…気がする。
青柳冬弥side
「あ、彰人…」
練習の途中に、彰人が公園から走って行ってしまった。
きっと、いや絶対、昨日のライブが関わっているとしか思えない。
彰人は気にしていたようだし、無理しないと言って…なんだかんだ無理をしていそうだ。
兎に角、今は彰人を追いかけなければ、あの様子だと体調が優れていないようだった。
あのまま何処へ走って行ったのか…全く分からないが。
「ねぇ、追いかけたほうがいいんじゃない?結構辛そうだったし。」
「うん…そうだよね。でも、東雲くん、どこ行っちゃったんだろう…」
白石も小豆沢も、彰人のことが心配なようだ。
どうする?あの様子で家に帰ったようには見えないし。 かと言って、セカイに逃げたわけでも無さそうだ。
それなら、何処に行ったかなんて…分からないな。
「…兎に角、手分けして捜すしかないな。」
「そうだよね〜…何処行っちゃったか分からないし。」
「それじゃあ、すぐに捜しに行ったほうがいいよね…!」
話はすぐに決定。
俺たちは手分けして彰人を捜すことになった。
俺は取り敢えず、彰人が進んで行った方向に向かう。
他の二人も途中まで一緒だったが、結局分かれ道があって白石と小豆沢は片方の道へ。
俺はその逆に向かい、二手に分かれることになった。
時間は午前1時頃、真昼間だからかすごく暑い。
汗が頬を伝う。彰人は水分を摂っているだろうか…もし摂っていなかったら脱水になりかねない。
一刻も早く見つけ出して、休める場所へ連れて行かないと。
白石達と分かれてから数分が経った時、俺は疲れて少し立ち止まる。
走った後だから、汗でTシャツが少し濡れていて気持ち悪い。
運動神経の悪さを今になって悔しく思う。
どうしよう。早く見つけないと。そう思いながらも日陰を求めてしまい、取り敢えず近くの路地に入った。
少し薄暗い路地に入れば、ひんやりとした風が当たる。心地いい。
…ただ、こんなところで止まっていても進展しない。
そうして周りを見渡した時だった。
見たことのある…オレンジ髪が路地の奥に見えたのだ。
……しかも、横たわっているのか…?
「ーーーッ…彰人っ!!」
思わず俺は大声で叫んだ。
東雲彰人side
オレは逃げ出して、少し行ったところの路地に入った。
兎に角頭痛が酷くて、この日の光が頭痛をもっと酷くして…それが嫌で路地に逃げ込んだ。
少しひんやりとした路地に入れば体が震えた。
暑いはずなのに、寒い。
でも、汗はこれでもかと言うほど出ているし、体は暑いんだろう。
それでも、体の震えは止まってくれない。
思わず両腕を抱えてその場にしゃがみ込んだ。
暑い…暑いのに、寒い。
頭も…痛いし。マシになんねぇし…
ふわふわして…体、浮いてるみたい…で、気持ち悪い…。
…やばい、もう嫌だ…苦し…ぃ。
誰か…助け…っ
…っとぅ…や。
『ーーーッ…彰人っ!!』
オレを呼ぶ聞き慣れた低い声が、意識が途切れる寸前に聞こえた。
『…はぁ、彰人。見損なったぞ。』
……え?
冷たい顔の冬弥は、悲しんでもいない、怒ってもいない、ただただ呆れた表情をしている。
なんで、そんな顔…オレ、なんかやらかした…?
『練習をして体調を崩す?ふざけないでくれ。』
ッ…あ、えっと…ご、ごめんなさ…い。
『俺たちの足を引っ張るのはやめてくれ。評判が落ちるだろう。』
オレ…のせいで、評判が…悪く…?
『あぁそうだ。お前のせいだ。全て。』
全部、オレの…せい…。
『わかっているなら、もう俺たちに近寄るな。』
ひっ…あ、ごめん…なさいっ!
ごめん…なさい…ごめんなさいっ…!
オレは必死に謝るが、冬弥はそんなオレに見向きもせず背を向けて歩いていく。
やだ…嫌だ。ごめん。
謝るから、ちゃんと…上手くなるから。見捨てないで…
まだ、お前の隣に…立たせて…っ!
青柳冬弥side
俺は彰人を背負って彰人の家に向かった。
幸いと言っていいのか分からないが、ご家族は皆出掛けているようだった。
そして、インターホンを押しても出ずに、仕方なく彰人の鞄から鍵を探そうと鞄を見ていると、スマホに通知の入っているのを見つけた。
見てみれば絵名さんからのメールで、『今から瑞稀の家に泊まりにいくから、家には誰もいないよ』
とのことだった。
そして、少し申し訳ない気持ちで家に上がらせてもらい、彰人の部屋に急ぐ。
腕が疲れてきた。俺の体力の無さが目に見えてわかるようだ。
そして、ベッドの上に彰人を寝かせ、俺は色々準備をする。
白石達に連絡を、そして絵名さんにも連絡を入れて…ゼリーなども買ったほうが良いだろうか。
うーん。と頭を悩ませる。
取り敢えず、メールを入れるのが先か、と、俺はスマホを取り出す。
そして、メールアプリを開き メールを打ち込んだ時だ。
彰人が突然、ガバッと体を起こした。…そして。
「…ッ”ぁ”あぁ”あ”あぁ”ぁあ”ああッ”ッ”!!!!」
「っ…?!…彰人?!」
頭を抱えて叫び始めた。
ゴトッと鈍い音を立ててスマホが手から滑り落ちる。
辛いだろうに、勢いよく体を起こしてしまうのは体調が優れない体にはよくない。
俺は慌てて彰人の元へ駆け寄る。
「彰人…!っ彰人!…大丈夫だ、取り敢えず寝…ッ」
「いや”ぁ”ぁ”あッッ”!!!ごぇ”ん…なさ”ッぃ”!!ごめ”ん”なさい”ぃッッ”!!!」
取り敢えず落ち着かせたくて、 背中を摩ろうと手を近づけると、
バチっという音と共に振り落とされた。
彰人は焦点が合わない目で、必死になって祈るように謝っている。
「彰、人っ…?…彰人ッ、彰人!」
「あぁ”う”ぅぅ”ッ…!来ん”なッ”!!…オレ”に”近づい”てくん”なぁ”ッ”ッ!!!」
彰人は頭を掻きむしりながらぶんぶんと頭をめちゃくちゃに振り回す。
どうして、こんないきなりなんで…彰人は一体、どうしたんだ?
突然目の前で起こった以上事態に頭がおかしくなる。
酷く恐ろしいものを見ているような目で、彰人は俺を見つめる。
手は震えていて…肌の色も真っ白だ。目の下には薄く隈があって、誰がどう見ても体調不良だとわかるほどに酷い姿をしている。
「ごめ”ッッ”!!…ゃ”っ!…頑”張ッ”…ぅ”、頑張”る”…ぅ、ッから”ぁッ”ッ!!」
何をそんなに慌てているんだ、彰人は。
いつもは頼もしい彰人も、今じゃ本当に彰人なのか疑ってしまうほどに混乱している。
彰人はさっき、練習のことをとても気にしていた。今日は練習が中断されてしまったから焦っているのだろうか。 練習から逃げたことに焦っているのだろうか。
“頑張る”、練習関係だろうか。昨日のライブの話をすると、彰人はすごく嫌がっていたようだし。
…でも、だからってここまで焦るか?
「彰人、彰人!!落ち着け…!…っ頼むから落ち着いてくれ!!」
「ぃ”あッ”…!!かはっ”…は”ひゅ”っ…ん”ぇッ”…っ”!!ぃ”…や”ッ”…!! 練”しゅ、ッ”…!!ひっ”…ぁ”うッ”…!」
段々と呼吸すらも乱れてきて、聞いていられないほどの苦しい呼吸音が彰人の喉から聞こえてくる。
こんな以上事態に、俺自身も戸惑ってしまう。
なんで、どうして、考えたって答えは出てこない。
“落ち着け、彰人”としか言えない自分に腹が立つ。俺は、彰人を救えないのか?
「彰人、大丈夫…大丈夫だから!」
「か”ひゅッ”ッ…!!いや”ッ”…だぁッ”ッ!…ひっ”…か”はッ”!!…ぁ”ぐッ…!」
呼吸はさらに乱れ、話すことさえも満足にできなくなっていってしまっている。
俺も、あたふたとしているだけで何もしてやれず、迷っていると、
ごぷっ、という、少し水を含んだ何かが動くような音が、彰人の喉から聞こえてきた。
「っ” …!!ぅ”えッ”…ぁ”、お”ッ”…!ぅ”んッ”…!」
「ッ!…彰人!袋を…ッ!」
彰人は口に手を押し付けて、浅い呼吸を繰り返す。
目には涙が浮かんでいる…もう限界のようだ。
俺はすぐに部屋に置いてあったゴミ箱を引き寄せ、彰人に渡す。
彰人は戸惑いながらもゴミ箱を受け取り、そっと口元に寄せた。
「ん”ぷッ…!…お”ぇえ”ッッ…ごぇ”ッ…!ぉ”ッ…げぇ”え”ッ”ッ…!お”え”ッ…げほッ”ッ…ぉ”え”っ…!」
「彰人…大丈夫だ。上手に吐けているからな。息はちゃんとしてくれ。大丈夫だ、大丈夫。」
俺は、ビクビクと不規則に震えている彰人の背中に手を置いて摩る。
下から上へと摩ってやれば、抑えが効かなくなったかのように嘔吐物が溢れ出てくる。
……だが、胃の中にはあまり吐くものがなかったのか、もう胃液しか出てこない。
彰人は今もずっと苦しそうに嘔吐しているが、ぴちゃぴちゃと少量の胃液が糸を引くだけだ。
…もう、どうすれば。
「お”…ッッ”!…ぅ”、!ぁ”えッ…!…ぉ”、うぇ”…ッ”」
「彰人っ……、!あっ…!、彰人!水を、水を飲んでくれ!」
苦しそうな彰人の背中を摩りながら考えていると、ふと思い出した。
水だ。俺が体調を崩した時も、嘔吐を失敗して水を飲んで吐いたことを覚えている。
「ぅ”…ッ”ふ…?ぉ”…え”ッ…!」
俺は練習の為に持ってきた水入りペットボトルのキャップを開け、彰人に渡す。
彰人はふるふると震える手でなんとか持ち、口に当ててゆっくりと流し込んでいく。
こく…こく、と控えめに喉が動いている。ちゃんと飲めているようだ。
「…んッ”…ぇう”…、っごえ”ッッ”!…っお”えぇ”ッ!!がは”ッ…えほっ”!…け”ほっ、」
水を飲んだ彰人が、少し目を見開いて、すぐにゴミ箱に顔を突っ込む。
彰人は、苦しそうな声を上げて、びちゃびちゃと、先ほどよりも勢いよくゴミ箱に水を嘔吐した。
俺は未だビクビクと震えている彰人の背中を撫でた。
取り敢えず落ち着いたようだし、俺もメールを入れなければ。
「…彰人、落ち着いたか?…大丈夫だ、袋を捨ててくる。待っていてくれ。」
「…ぁ”…ゔ…、わ”か…った。」
俺を認識してくれた彰人に、酷く安堵する。
先ほどからずっと混乱状態だったようだし、心配だったが戻ってよかった。
袋の口を縛り、スマホを片手に部屋を出る。
一階に降りれば、大きなゴミ袋があり、その中に先ほど彰人が吐き戻してしまったものが入っている袋をゴミ袋に入れる。
そして、彰人の目の前でメールをすれば彰人が気にするだろうと、俺は一階にいるうちにメールを送信する。絵名さんには彰人の不調と俺が彰人の家に上がらせてもらっているということを、白石たちには、彰人が見つかり、今はちゃんと安静にしているから安心してくれ。ということを其々に送ってスマホをポケットにしまう。
そして一番難関なのは、彰人の家に泊まる許可を、父さんから得ることだ。
彰人のお陰で少し落ち着いたとは言え、まだ完全に説得できたわけではないのだ。
…どうすれば、いいんだろうか。
いや、兎に角今は…試してみるしか。
『父さん、話があります。
仲間が体調を崩してしまったので、今日は仲間の家に泊まりたいです。』
何度も何度も書き直して送ったメール。
言葉足らずで不器用な俺には、これくらいの言葉しか出てこない。
彰人のどこまでを伝えていいのか、どう伝えればいいのか、分からない。
『なぜお前が看病するんだ。』
帰ってきた返事は、理由を求む文章。
…この調子だと、話が長くなってしまいそうだ。
俺は、何度か打ち直して、漸くできた文を父さんに送る。
『今日、仲間の家には誰もいないので、俺以外看病できる人がいないんです。
仲間のご家族には、もう許可を取っています。』
取り敢えず頭に出てきた文章を送る。
頼む、今日くらいは彰人の側にいてやりたい。
あんな弱っている相棒を…放っては置けないんだ。
そして、次いで送られてきた一言に、俺は目を見開いた。
『わかった。』
…え、“わかった”?
予想外の返事に声を漏らす。
ただ、連絡が遅くなるのはいけない。俺は震える手で“ありがとうございます。”と打って送る。
兎に角、許可を取れてよかった。
…とは言え、これも全て…彰人のお陰だな。
彰人のお陰で、少しだけでも父さんは“俺を”理解してくれたんだ。
本当に…彰人には礼をしても仕切れないな。
さて、ここで立っていいるわけにもいかない。彰人に薬を飲ませないと。
俺は予め持ってきていた財布を持って、薬とゼリーを買いに出た。
東雲彰人side
「…ッ”…とぉ”…ゃ”…?」
いくらなんでも、袋を捨てるだけでこんなに時間がかかるものなのか?
思いっきりに嘔吐してしまったせいで、声がガスガスに枯れてしまっている。
流石に、こんな声では…練習できないよな。
『わかっているなら、もう俺たちに近寄るな。』
…なんて、あれは夢だよな…夢。
冬弥が、あんな厳しい目つきでそんなこと…言わないもんな…?
きっとそうだ。さっきだって隣にいてくれて…オレを心配してくれた。看病してくれたんだ。
だから、あんなこと言わないはず、だってアイツは…そんなやつじゃ…。
『…はぁ、彰人。見損なったぞ。』
見損…なった。
…はは、でも…確かに、オレは何もできてないし、こんな相棒…嫌になってもおかしくないよな。
オレ自身もわかるほどの差が、アイツらとオレの間にはある。
頑張っても、頑張っても…追いつけないほどの差が。
「…ッ…ひ”ぐッ”…ぅ”ッ…う”ぅッ…ひっ”く…と”、やぁ”…ッ”ッ…」
はやく、早く…帰ってきてくれ。
怖い、怖いんだ…見捨てないで…置いてかないで…オレ、頑張るから。
もっと練習して追いつけるように…頑張るから…っ。
…だから。
「はゃ”…く”…ッ”…帰”って”…き”てッ”…っ。」
こんなに枯れきっていて聞き苦しい声は…誰にも届くわけがなかった。
青柳冬弥side
「…これと、これを…一応、沢山買っておくか。」
こんな買い物をしたのは初めてだ。
何を買えばいいのか、彰人にとって何が食べやすいのか、薬はどれがいいのか。
…慣れないものだな。看病とは。
俺は一人、薬コーナーの棚の前でため息をつく。
薬はある程度高いものだ、ちゃんと選んで買わなければ。
…ただ、どれがいいのか、全く分からない。
取り敢えず、どの症状に効くのかを確認して、一番いいと思うものを選ぶしかないか。
俺は、人生初めてと言っても過言ではないこの買い物に、頭を悩ませた。
…取り敢えず買えた。本当にこれで足りているかは…分からないが。
ゼリーに、薬に、その他諸々、氷枕やプリンなども買ってみた。
彰人が少しでも楽になってくれるように試行錯誤して買ったが、結局のところ何がどういいのかはあまりわからなかった。
…まぁ、取り敢えずは帰って、彰人に薬を飲ませないと。
あの様子だと水分は取れていないようだったから、水も飲ませて。
胃に何もない状態で薬を飲んだら胃が荒れてしまうから、ゼリーを食べさせて。
…いや、さっき吐いてしまっていたし、食べてくれるか不安だ。
不安は募るばかりだが、せめて薬だけでも飲んでほしい。
ゼリーを少しだけでも食べさせてから薬を飲ませれば、大丈夫だろうか。
色々考えるが、今は帰るのが先だ。
俺は、この不安な気持ちを抑え込んで、歩く速度を早めた。
ガチャ、という音と共に玄関ドアを開ける。
彰人の家に帰る、なんて…何だか不思議な感覚だな。
まるで、同棲しているようだ。
なんて、玄関先で何を落ち着いて考えているんだ。
俺は急足で玄関に上がり、階段を登る。
電気を付けていない階段は少し…いや、結構怖い。
ただ、今はそれより、彰人に薬を飲ませなければ、苦しそうな彰人をもう見たくない。
俺は、ギシギシと控えめに音を鳴らす階段を駆け上がった。
…そして部屋の前につき、ドアノブに手をかけた時だ。
中から、声が…泣いている声が聞こえる。
彰人…?
恐る恐るドアを開ければ、ベッドの上で座り込んで、泣いている彰人の姿があった。
なぜ…泣いて…、それより、体を起こしておくのは辛いだろう、いや、楽なのか?
「…彰人、彰人。座っていて大丈夫か?辛くないか?辛いのなら寝たほうが…」
「ぅ”ぅぅッ”!…っ”ひく”ッッ…!と”、…ぉや”ッ”…?」
彰人は、涙でぐしゃぐしゃになった顔を向ける。
…瞼は腫れていて、涙のせいで顔もびしょ濡れだ。擦りすぎたのだろうか、目の周りが真っ赤だな。
痛々しい彰人の姿に、思わず顔を顰める。
「か”ぇ…っ”て、くん”の”…っ”…遅い” ッ…!」
彰人はそう言って、俺に抱きついた。
…そうか、俺は彰人に、“袋を捨ててくる”としか伝えていなかったから。
彰人はそんなに、それほどまでに弱っていたのか。
いつもの彰人なら、“どこか行ってたのか?”と笑いながら聞いてくれるが、今はそんなことも考えられないほど、俺の帰りが遅かったことが、怖かったのか。
しかもさっきの約一時間、彰人は…俺を座って待っていてくれたのか。
…彰人には、心配をかけてしまったな。
「すまない。薬を買いに行っていた。どれがいいのかわからなくて遅くなってしまったんだ。」
「…そ”、ッれ”…オレ”、の”…っため”に”…ッ?」
彰人は、泣きながら俺に抱きつき、ギュッと腕に力を込める。
俺は、よしよしと頭を撫でながら、「あぁ、彰人がすごく辛そうだったからな。」と返した。
そして、俺がそう言ったと同時に、突然彰人は…声を上げて泣き始めた。
「っあ”あぁ”ぁあ”ッ!!と”、ぅ”やぁぁ”あっ”!!…ひ”ぐっ”…と”、やぁ”っ…!!
うぁぁ”あ”あぁ”あ!!!」
「どっ、どうした?!どこか、辛いのか?!大丈夫か?!」
目の前で泣き噦る彰人に、俺は頭を撫でて慌てる。
取り敢えず寝かした方がいいのだろうか、体勢が辛い?それとも腹痛?先程吐いていたし、もしかして、どこか他に痛いところでもあるのだろうか。
頭を撫でて、兎に角状況を把握しようと色々と彰人に聞いてみるも、返事はなし。
ただただ俺の腕の中で泣いている。早く薬を飲ませたほうが良いだろうか。
俺は薬を準備しようと袋の中を探る、その時だった。
「ゔぅぅ”ッ!!、捨”てら”れてっ”…ひ”ぐッ…っな”くてッ”…!よ”かっ”たぁ”あ”ッ…!!!」
「っ…!」
…、彰人は、どこまで夢に真っ直ぐなんだ。
この期に及んで、また歌の話なのか。 …本当に、真面目さは敵わないな。
俺は、じわりと滲んだ涙を袖で拭う。
彰人の思いは真っ直ぐで、折れることを知らずに突き進んでいる。
ただ、その気持ちのせいで…今の彰人は苦しんでいるんだ。
こんなに真っ直ぐで努力家の相棒が、“憧れ”の相棒が、今は可哀想で仕方がない。
自分の気持ちに真っ直ぐで、その気持ちに…縛られて。
その結果、体調まで崩してしまうとは。
そんなに頑張らなくても…俺たちはお前を置いて行かないのに。
寧ろ、置いて行かれているのは…俺なんじゃないのか。
「…っ彰人、大丈夫だ。俺、たちは…絶対、お前を捨てるなんてしないから。っ、だから、そんなに慌てないでくれ。彰人が居なくなってしまうのは…っ怖いんだ。」
俺は控えめに鼻を啜った。
悲しかった、辛かった…彰人の気持ちが、苦しかった。
彰人は、俺たちの為に一生懸命頑張ってくれていた。それが、苦しかった。
彰人がどれだけ周りから馬鹿にされたって、ミスをしたって、彰人が頑張っているという事実に変わりはないのだから。俺は、俺たちは、絶対に捨てたりなんてしない。…したくない。
本当に辛いのは、彰人の気持ちが空回って、そのせいで彰人が隣から居なくなることだ。
だから、頑張りすぎないでほしい。
俺の隣に、いてほしい。
「いくら彰人が嫌がったとしても…っ、希望を、失ってしまったとしても、っ俺たちは、彰人を捨てるつもりはない。っ、一切ない。」
「…っ”、!とぉ”…や”…っ”。」
彰人は、悲しそうに顔を歪めて、嬉しそうに頷いた。
そんな彰人が、苦しくて、可愛らしくて。俺はそんな彰人の頭を思いっきりに撫でた。
ライブ終わりにいつも彰人がしてくれるように、俺は彰人の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
「…彰人、っ俺たちは彰人を捨てない…っ絶対に。だから安心してくれ…っ。」
俺はまた、優しく彰人の頭を撫でた。
彰人の顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
俺は、彰人に「顔を拭いてくれ。」と、ポケットハンカチを渡した。
彰人は少し戸惑って、それでも俺が渡したハンカチを受け取って顔を拭く。
「彰人、っ…俺は…っ、彰人の歌声が大好きだ…っ。格好良くて、っ…力強くて、っ。
だから、っ自信を持ってくれ。」
相棒の悲しそうな顔で、もっと心臓が苦しくなった。
彰人は格好良くて、いい声で、努力家で…それなのに、彰人は真面目すぎるんだ。
彰人は自信を持っていい。胸を張って生きるべきだ。
それが、俺の“本心”なんだ。
だから…気づいて欲しい。
「…ッ”、オ”レッ…ッ”…お”れぇ”ッ…!」
「…っ、大丈夫。俺は、っここにいるからな。」
俺は、苦しそうに泣いている彰人の頭を軽く撫でた。
彰人も、目に涙を溜めながらも俺に身を委ねて…そのまま眠っていった。
「…よし、落ち着いたな。」
そう、彰人が起きないほど小さな声で呟く。
絵名さんや白石達にも連絡を入れた。薬はまだだが、今はゆっくり寝かせてやるのがいいだろう。
…驚いた。彰人は、こんなにも追い詰められていたのか。
体調を崩してもなお、練習しようと言い出すとは。
…そんなことが昔にもあったな。
彰人はずっと、一人で頑張ってくれていたんだ。
俺たちに追いつこうと、必死に。
「……ばか。」
俺は、小さな声でそっと呟いた。
俺の中で、正直に思ったことを口に出した。
彰人も苦しい思いをしていたことは知っている。
だが、俺も言わせて欲しい。
お前がどれだけ周りに好かれているか、周りから認められているか、わかっているのか。
沢山の人が、お前を認めている。信頼している。
俺だって…その中の一人だ。
だからこそ、彰人が無理をして体調を崩すなんて、誰も望んでいない。
彰人が大切だから、皆そう思うんだ。
俺たちの素直な気持ちを…受け取ってくれないのか。
先程まで止まっていたはずの涙が、また不意に頬を伝った。
こんな無理をしてまで頑張る必要はないのに。
…いや、この話は彰人が起きてから。
今はゆっくりさせてやろう。
こんなに俺たちのために頑張ってくれてるんだ。
今は、彰人からのその素直な気持ちを、受け取らないと。
「…おやすみ。」
俺は彰人の頭に優しく手を乗せた。
今はゆっくり休むといい。
ちゃんと休んだら、また一緒に歌おう。
夢に辿り着くために。
俺たち四人で、あの伝説を…超えるために。
コメント
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え、無理、好き、