お題…薬
※冬弥が死んだ後の話、成人済み、バッドエンド、シャブ、嘔吐表現、死ネタ。
(覚醒剤はインターネットで調べた知識のみです。多少間違えている部分もあるとは思いますが、ご了承ください。)
『心からお悔やみ申し上げます。』
オレはそうメールで送って、スマホの電源を落とす。
自殺だったらしい。高所恐怖症の筈なのに、高いビルの屋上から飛び降りたと。
意味がわからなかった。信じられなかった。
相棒が死ぬなんて…しかも、自殺だなんて。
冬弥が死んだことが発見されたと連絡が入った日。オレは朝から晩まで泣き喚いた。
大人にもなって泣くとか…しかも、昔よりも長く泣いたし、ガキの時より大声を上げた。
そんな情けない自分が悔しくなって、また泣いての繰り返しだった。
その日は声が酷く掠れるまで…泣いて、泣いて、涙が枯れるまで泣いた。
当然のように隣に立ってくれて、一緒に歌ってくれていた相棒はもういない…なんて。
突然のことに、理解しきれなかった。
苦しくて、悲しくて…気が狂いそうだった。
…いや、もう気が狂ってしまったんだ。
前まで大切にしていた喉だって、今じゃもうどうでもよくなってしまった。
冬弥がいなくなってしまった今。オレはどうして生きているのかすらも…わからなくなった。
味覚だっておかしくなって、好きな甘味がわからなくなった。
犬も怖くなくなって…いや、今じゃ犬に会う機会すらもなくなった。
だって、家から出ないのだから。
そこからだったか、オレがシャブに縋り始めたのは。
冬弥がいなくなって、頼れるものは薬だけだった。
杏に相談する?こはねを頼る?
そんなのできなかった。アイツらは優しいから、だからこそ、オレが求めている返答をしてくれるとは思わなかった。
…あんなに真っ直ぐなアイツらが、オレに“死んでもいいよ。”なんて、言ってくれる筈がない。
オレの本音を否定されるくらいなら、狂ってしまった方が良かったんだ。
だから狂った。死にたいなんて思えないほどバカになれば…解決するだろって。
冬弥の死を受け入れられないオレは、葬式に行けなかった。
杏もこはねもオレを心配してくれて…オレの体と心を気遣ったメッセージをくれた。
だけど…狂ってしまったオレには、ソレにありがたさを感じなかった。
こんな図々しいやつで申し訳ないと謝りたい。
だけど…何を求めているのか、わからない。
ってか、求めるってなんなんだ。
冬弥に会いたいっていうのは、オレが冬弥を求めているのか…?
あー、わかんない。とうやにあいたい。
あ、あー。だめだこれ。
…シャブ、打とう。
到頭耐えきれず、床に膝をついて、怠さで傾いた体を腕で支えて四つん這いになる。
そのままオレは、シャブと注射器が入っている棚に重たい体を無理矢理動かして向かった。
そして無事に棚の前まで来れたオレは、 棚の中に入っている注射器を取り出して、シャブを水で溶かした。 そしてその白く濁った液体を注射器に入れて、不安で震えている手で静脈に針を刺した。
ドクドクと嫌な鼓動がする。
気持ち悪い、寒い。あー、気持ちいい…。
やっぱ、これだからやめられないんだ。薬は。
とうやぁ…おれ、もうしのうかな〜。
しんどいよ…もういきたくないんだよ。
なんでおれをおいていったんだよ…おれとおまえは、あいぼー。なのに…。
あー、むりだ。これ。
しにたい、あれ、なんでしにたいんだったっけ…?
あれ、なんで、だろ…つかれた。
あたまいたい…きもち、わるいなぁ。
あ、れ。
…おれ、なに…してんだ。
「ッ、ぇ”…!!ぉ”おッ、えぇ”ッ!!!ごふッ”、ぅ”ゔッ…?ん”ぇ、おぇ”ッ…!!」
ふわふわして、気持ちが悪い。
目の前も白くボヤけていて、自分が嘔吐したことにも気づけなかった。
耳鳴りが酷い。頭、くらくらする。
こんな時、冬弥がいてくれたら。
…いてくれたら、誰が?
頭が次第に働かなくなって、オレは重い瞼を閉じた。
憂鬱な明日が来ないことを願って。
…朝、か。
目が覚めて一番に見えたのは、床に染み込んだ異臭を放っている嘔吐物。
そして少し遠くに、まだ液体が少しだけ残っている注射器。
あー、オレまた打っちまったのか。
頭が気持ち悪い、なんだか体調を壊した時のようにくらくらしている。
また覚醒剤に頼っちまった。今度こそやめようと思ってたのに。
はぁ、と深くため息を漏らす。
冬弥がいなくなってから、オレも我慢できなくなってきている。
だからって、別に不便なところはないが。
シャブ、そろそろ買い足さないと無くなってしまう。
…だけど。
このまま薬に縋ったままでいいのか?
下手したら周りにバレて、それこそ本当の“終わり”だ。
誰にも見てもらえなくなる。縋るものがなくなる。
下手したら刑務所行きになる可能性も無いわけじゃない。 覚醒剤の使用は犯罪だ。
だったら。
…いや、別に…冬弥がいないなら、いっか。
ってか、もう手を出しちまったんだから。やめたって今更だろ。
それに…バレて引かれたって、人間として見られなくなったって、嫌われたって。
冬弥のいない世界では全く痛くない、軽傷だ。
オレは、重い手でスマホを握った。
どーせ、誰も助けてくれないんだ。
だったら、さっさと狂っちまった方が楽だろう。
これはオレがおかしいんじゃない。
この世界が、おかしいんだから。
気が付けばスマホの画面は通販サイトで、
『ご購入いただき、ありがとうございます。』
…と、画面に明るく表示されていた。
「最近、東雲くん見ないよね」
私の相棒、こはねにそう言われて、うーんと考える。
「確かにねー、冬弥が…その、死んじゃってから。」
私はこはねから目線を逸らして、そう小さく呟いた。
こはねも少し俯いて、悩むような悲しそうな表情を作る。
冬弥が死んでしまった。飛び降り自殺だったそうだ。
彰人は冬弥と相棒という関係だったし、それなりにダメージを受けるのは当然だと考えていた。
…だが、一つだけ不思議な点がある。
それは…彰人が、冬弥の葬式に来なかったことだ。
私もこはねも、勿論冬弥と関わりのある人はほぼ全員集まった。
なのに…彰人だけは来なかった。
「どうしたんだろう…でもやっぱり、青柳くんが関係してるよね。まだ立ち直れてないのかな…」
そう呟くこはねの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「…っ、き、きっと大丈夫だよ!彰人は、彰人は強いし!」
私は、そんなこはねを放って置けなくて、できる限りの声を張り上げ、明るく振る舞って見せた。
そう大きな声で言えば、こはねが「うん、そうだね…!」と、控えめに返事をした。
でも…そんな言葉とは裏腹に、私達の声は震えていた。
彰人を信用していないわけではない。だけど、冬弥が死んでしまったんだ。
誰よりも冬弥を信用して、頼っていたのは間違いなく彰人だ。
そんな彰人がすぐに立ち直れるとは思わない。
「…また、彰人の家に行ってみる?」
兎に角、彰人が心配で、安否を確認したかった。
メールを送っても見てくれないし、彰人には悪いが、直接会いに行くのが早いだろう。
「そうだね…心配だし。久しぶりに会いたいな…!」
こはねも賛成してくれているし、次の休みにでも会いに行こうか。
私たちは予定を合わせて、次の休みに彰人の家を訪ねることにした。
彰人は成人してからすぐに一人暮らしを始めたらしい。
親のことを考えたんだろう。周りのことを一番に考える彰人らしい。
だからこそ、こんな状況で一人暮らしなんて、彰人の心に負担がかかっているかもしれない。
私達は、少し不穏な雰囲気に包まれたファミレスで、食事を早々に終わらせた。
気持ちが悪い。
オレは最近頭が変に冴えて、寝れなくなっていた。
頭が痛いのは日常茶飯事で、酷い時は寝たきりで一日を無駄に過ごす。
オレはベッドの上でため息をつく。
寝たいのに寝れない。頭がおかしい。
早く寝ないと…流石にこれ以上起きてたら体調が崩れるのは時間の問題だ。
…いや、もう崩れてるか。
しんどい。久しぶり酒でも飲もうか。
そして…どうしても寝たい時は、酒に頼る。
気分は悪くなるが、酒が入ればすぐに眠れるのだ。
度数が高いものを少し飲む。すると吐き気が込み上げてくるが、それと同時に眠気が襲ってくる。
酷い不快感があるものの、ほぼ確定と言っていいほど眠れる…所謂、オレの最終手段だ。
…さっさと寝よう。
オレは酒しか入っていない小さな冷蔵庫を開けて、それなりに度数の高いものを手に取る。
今日はこれでいいか…なんて、無意識に呟いていた。
オレは酒の缶を開けて、そのまま喉に流し込む。
すると、酒に弱いオレの体はすぐに拒絶反応を出す。
急に目の前が霞んで、手に持っていた筈の酒缶は、カンッ…と軽い音を立てて床に落ちた。
あーあ、折角買った酒が。なんて考えられないほどの吐き気と耳鳴り。
きもち、わる。
いつものことの筈だが、やはりこの不快感には慣れない。
頭がくらくらするような、胃が回るような、体が浮遊しているような感覚には…慣れたくもない。
酒の所為なのか、重たい体をなんとか動かしてベッドへと移動して、そのままベッドに倒れ込む。
勢いよく横になった所為で頭が痛く、くらくらと揺れるような感覚。
気持ち悪い…し、痛いけど。
オレは目を固く瞑る。
寝れ…そ、う。
久々に眠れそうになった感覚に酷く安堵したオレは、そのまま酒に身を任せて、
どろどろとした暗い闇に意識を落とした。
『…疲れた。もう俺は疲れたんだ。』
ビルの屋上で、冬弥が泣きそうな声で呟いた。
空は…夕方なのか、赤く染まっている。
そして、屋上の隅で冬弥が靴を脱ぎ始めた。
そこで到頭オレはハッとして、屋上の冬弥の肩に手を置いた。
どこか懐かしい雰囲気がある。
『…っ冬弥、何してんだ…ッ?』
そこで冬弥もハッとしてオレの方に顔を勢いよく向けた。
冬弥の目の下は腫れていて、泣いたのだと言うことがすぐわかる。
『……っ、何って、もう疲れたんだと…言ってるんだ。』
『疲れたって何が…なにっ、なんで突然…疲れたなんて。』
そう聞くと、冬弥は苦しそうに目を伏せて…涙を溢した。
『っえ、冬弥…冬弥、どうし』
『俺、は…お前に…お前、達に…疲れたんだ。』
『…え』
オレは愕然として固まった。
オレ、達に…疲れる?はぁ…?冗談か…なんて、コイツが冗談言う…想像ができないけどな。
でもだからって、コイツがオレ達に疲れているなんて…そんなこと。
“俺はもう、お前と一緒にはやらない。”
…いや、あり得るのか…?
相棒解消の話もあったことがある、いやでも…あれは結局コイツの本心じゃなかったって。
もしかしなくても…今回は…本気なのか?
『はぁ、?冬…弥、オレ…オレは、どうすれば。』
『どうするも何も…強いて言うのなら、俺を見届けてくれ。』
『…ッそんなことできっかよ、オレは…お前の相棒なんだぞ、?!』
オレは冬弥の肩をがっしりと掴む。
このままでは間違いなく落ちてしまう…コイツが、オレを置いて。
でも…そんなの無理だ、認めたくない。
認める?見届ける?ふざけるな、コイツはオレの、唯一無二の相棒なんだぞ?
コイツ以外いない、コイツがいなければ…オレは終わる。
コイツだけが…オレの…
『相棒は…今日で終わりだ。』
『……、ぇ…、は……な、に。馬鹿なこと言って…』
『お前にとって馬鹿なことでも、俺にとっては大事な話だ。ここまでお世話になっていたところはある。だが、それも今日で終わりになってしまうのだから…せめて言葉でお礼を…』
『…ふざ、けんな。ふざけんなよ…!!』
相棒をやめる…前と全く同じ内容。なのに。
今回は、本当にやめる気なんだと…前よりも理解できるようになった頭が危険信号を出している。
前も冬弥は本気でやめる気だったのだろうし、勇気を振り絞ったのだと思う。
…でも、今回はもうガキの話じゃない。“大人”の話だ。
屋上で靴を脱いで屋上の端に突っ立って泣いている相棒を前に、オレはどう接するのが正解なのか、
前よりも慎重に考えなければならない。
この、成長しきれない、冬弥がいないとどうしようもなくなってしまうような…クソくらいの頭で。
なのに…
『…ざっけんな!!オレがどんだけお前を大事にしてると思ってんだ!!!なんでそんないきなり消えるようなことすんだよ馬鹿野郎っ!!!…っは、お前はずっとそんな性格だよな…っオレの前からすぐに消える馬鹿みたいなこと、何回すりゃ気が済むんだよ…ッ!!クソがッ!!!』
口から溢れ出てくるのは、自己中心的で…尖った言葉だ。
クッソ、こんなこと言いたいわけじゃないのに、なんでオレはこうなっちまうんだ。
声が掠れるまで、喉が壊れるまで叫ぶ 。
…苦しい時や悲しい時はいっつもそうするから、よくアイツらに怒られたっけ。
歌の練習でもよく怒られた…けど、今はそんなこと考える暇はない。
この声は歌う為にあるんじゃない。
相棒を…助ける為にあるんだ。
『なぁッ!!お前は本当に死にたいのか?!!このまま飛び降りて呆気なく終わらせちまうのか?!!ッ何に悩んでる!何に困ってる!!っ…全部オレにぶち撒けろよ!!!!オレは…っオレ達はッ…お前の“仲間”なんだから!!!』
冬弥は、涙でぐしょぐしょの顔をまた涙で濡らす。
先程のオレと同様、オレの叫び声で唖然としている冬弥は…なんだか昔と似ていた。
そして…オレだって、涙で顔をぐちゃぐちゃにして叫んだ。
兎に角悔しくて、このまま冬弥を手放してしまいそうになってる自分自身が憎くて。
オレは冬弥の肩が潰れてしまうのではないかと思うほど強く掴んで、そう叫び散らかした。
冬弥が死ぬなんて考えられなかった。考えたくもなかった。
このままここから落ちて、呆気なく潰れてしまうような冬弥の姿を、思い浮かべてしまったから。
『いいか?!…っお前は死なない!!!…死んじゃだめなんだよ!!!ッ…オレ、をッ…!!!オレを…ッ置いていっちゃ…!だめ…なんだよッ!!!オレを…一人にすんなよぉッ!!!!』
ッ…ぁッ…ゔぁぁああぁああ!!!!
…って、オレは大人になったのに、子供の時よりも酷い声で泣き叫んだ。
ダセェな、オレ…。なんて、こんな説得方法に半ば諦めたオレは、頭の中で無駄に考える。
こんな馬鹿みたいな説得方法…こんなの絶対冬弥に追い打ちかけちまった。
ヒックヒック、と吃逆混じりで声を上げる。
馬鹿みたいなことしちまった…やらかした、オレは…どんだけ馬鹿なんだ。
…ほんと。
『…ッ彰人。彰人、わかった。あの、あり、あ…ありがとう。ッ』
『ッ…ぁ、え…?』
…え?
突然降ってきた冬弥の声にバッ!と顔を上げる。
あり…がとう、ありがとうって言ったか?
…ってことは。
『…ッ生きて…くれるのかッ?』
『っ、俺はお前の為に生きてあげるわけじゃない。俺がっ、お前と生きたいから…っ生きるんだッ…!!』
そう言って…冬弥はオレを抱きしめ返してくれた。
温かい冬弥の熱が、服越しに伝わってくる。
温かい…すごく。あぁ、冬弥は生きてるんだ。
『…ッとうやぁっ!!!生きてッ、生きっ…てて、よかった!!…よかったぁッ!!!』
オレはさっきよりも酷く泣いた。
瞼の辺りがヒリヒリと痛かったが、そんな痛みどうでもよかった。
だって…冬弥が生きているんだから、相棒として…まだ隣にいるんだから。
『すまない…っ俺は、なんだか弱気になっていたようだ。Vivid BAD SQUAに必要ないのではないかと…迷惑を、かけてしまっているのかもしれないと…ッ思ってしまって。苦しくて。』
『そう…なのか。ッそんなことあるわけねぇ…絶対。』
『ふふっ…やっぱり、彰人はそう言ってくれるんだな…ッ、嬉しい。』
そう言って二人で笑い合う。
よかった…生きててよかった。
また冬弥と歌える、カフェだって一緒に行ける、カラオケも、ゲーセンも、買い物だって一緒に。
『…、ッ、なぁ、またアイツら誘って…カフェ、行かねぇ?』
『!…あぁ、もちろんだ!』
あぁ…よかった。本当に。
オレはまた…コイツと一緒に。
歌え…
「…ッ…ぁ」
重い瞼が開く、ここは…自室。
冬弥はどこに。
……あ。
「…ッ、ぅっ…」
ベッドの上だが、布団を被っていないオレの体は冷えていた。
…そっか、冬弥は…もう。
オレは腕を目に当てる。
なんだ…なんだよ、救われて…ねぇじゃん。
…っとーや。
「…ッとぉ…やぁッ…!」
呼んだってきてくれない…現実ではもう、とっくに死んだんだ。
なんで、死んじゃったんだ。冬弥…。
なんで死んだのか、自殺の動機なんてわかってない。だけど…オレが考えてしまったみたいだ。
理性を捨てられる夢の中で、現実から逃げてしまっていた。
…逃げるつもり、なかったのに。
アイツと向き合わないつもりではなかった。
でも…向き合うのも辛かった。
死んだって、信じたくなかったから…また、歌いたいと思ってしまったから。
「助けて…ッ、頼らせてくれ…っ!…頼れって言ったのは、お前…ッなのに…!…ぅ”ぅぅッ、!!」
もう、死にたい。
…冬弥に、会いたいっ。
『冬弥、お前もどうせどっかでオレを見守ってんだろ?
なぁ…もう死んでいいか?
お前に会いたくてたまらないんだ。
薬にまで手を出したオレが、これからずっと…生きていくわけにはいかないんだ。
冬弥がいなくなったせいで…オレは、犯罪を犯しちまったんだ。
だから…死にたい。』
なんて、冬弥に届くわけないのに…そう紙に書いてテーブルの上に置いた。
頼りたかった、最後の決断から…逃げたかった。
冬弥の言葉で…最後を決めたかった。
だけど…。
…もういいや、死のう。
オレは先ほどまで色々本音を書いていた紙に、『もうしぬ』とだけ書いて、家を後にした。
もう全てどうでも良くなったオレは、山に向かった。
飛び降りなんて、迷惑で目立ったことはしたくなかったからだ。
もちろん冬弥を否定しているわけではないが…なんだか、冬弥が死んだ方法で死ぬのは、怖かった。
…山って、夜になるとこんなに暗いんだな。
これから死ぬと言うのに、意外とオレは呑気なんだな。なんて、他人事のようだ。
都会の光のない空は、あの頃の冬弥の髪のように綺麗だった。
黒い夜空に、白い星が散りばめられている。
…綺麗。
なんて、空を見上げながら歩いていく。
…っつっても、もう死ぬんだしどうでもいいや。
あー、綺麗…会いたい。
もうこんなに、思い出すくらいなら…元々アイツと会わなければ。オレが…生まれてこなければ。
そう考えた時だった。
足元の岩が不安定だったのか、右足がガタッとバランスを崩した。
マズイっ、と思った時にはもう遅く…ふらついた身体は前に倒れていく。
…そこで、やっと今置かれている状況を理解した。
ここは…崖のすぐ近く。
ふらついた身体は言うことを聞かない。
それに…上を向いて歩いていたせいで地面がどうなっているのかがわかっていない状況。
そして今…体が宙に投げ出された所だと。
「彰人〜、居る〜?留守〜?…それとも居留守〜?」
杏ちゃんが、アパートで東雲くんの部屋の前でそう叫んでいる。
迷惑だろうけど…確かにこうしないと東雲くんは出てきてくれないし、仕方のないこと。
久しぶりに来たけれど…留守、だろうか。
「これドア開いてたりするかな?ねぇこはね、試してみてもいい?でも、流石に周りから見たら不審者だよね〜…」
「…でも、一回くらいなら目立たないと思う…!」
兎に角、連絡が取れない東雲くんの安否が心配だ。
試してみる価値はあると思う、あの時からずっと一人で苦しんでいただろうし。
そろそろ助けてあげたい。
「じゃあやってみるね!…!…え、ホントに開いちゃった。ど、どうしよう!これ入っちゃっていいかな…?」
「…っうん、入ろ!」
やっぱり、東雲くんは身の回りのことに鈍感になってるのかもしれない。
現に、あんなに頼れる東雲くんが…鍵を閉め忘れているんだから。
…これが、閉め忘れであれば。
「…お邪魔しま〜す、彰人…居る〜…?」
部屋の中に入って、東雲くんを呼んだけど…全く返事が返ってくる気配がない。
いない…のかな…?
「…居ないみたいだね、あれ…杏ちゃん。テーブルの上に何か置いてあるよ…!」
ただ、テーブルの上には紙が置いている、その近くにペンも。
そしてそのことを杏ちゃんに報告した…その時だった。
「…ッえ?!何…これ…え、?ぅ、嘘…え…こ、こはね…こはね!」
そう縋るみたいに私に手を伸ばした杏ちゃんの視線の先にあったのは…
「何…それ…っ、注射器…?」
一般人が所持しないであろう、注射器だ。
到頭只事じゃなくなってきた。
どうする…どうしよう、なんで注射器なんか…しかも、その近くに落ちてる粉は…?
「何…この粉…っ、明らか怪しいんだけど…ぇ。ど、どういうこと…」
目の前の状況に酷く混乱する、粉、注射器、散らかったままの部屋。
紙…ペン、……手紙?
「っ…!!」
私はテーブルの上の紙を見た。
何か書いてあるかもしれない、何か。ペンも近くにあったし…何か書いてたんだ、きっと。
するとそこには、殴り書きの文章があった。
『ーーーーオレは、犯罪を犯しちまったんだ。』
犯罪を、犯した…?
…もしかして、この粉、犯罪ってことは違法薬?
そんな…まさか。
「え、何…その紙、手紙…? 」
「みたい…だけど。」
「…っえ?なにこれ…“もうしぬ”って。」
そう言って、杏ちゃんが震えた指で文字を指差した。
そこには力の入っていない文字で、小さく書いてある。
さっきの殴り書きとは関係ない感じ…まさか、本当に死んだんじゃ。
「ね、ねぇ!取り敢えず警察!!こ、これ流石にやばいって!!」
杏ちゃんがそう言って、警察に連絡し始めた。
私もハッとして、杏ちゃんの方を見る。
そうだ…身内であれ違法薬を所持している時点で犯罪なんだ。
取り敢えず警察に言うのが一番…
「…あれ、これなに、」
だがその時、紙に書いてある文字で気になったところがあった。
なぜか、その文字だけ周りとは真逆のことが書かれていたのだ。
“まだいきてほしい”…と。
下の方に小さく書いてある。
これは…文字も東雲くんのものではない、この丁寧な字。どこかで、見たことがある…気が。
…あ。
「…青、柳。くん?」
咄嗟に出た言葉にハッとする。
…これは、青柳くんの文字だ。と確信した。
でも、なんで今…青柳くんは、もう。
…だけど、これは青柳くんの文字だ、違いない。
「…東雲くん、…お願いだから、まだ生きててね。」
青柳くんは、東雲くんに伝えたいことを伝える為に、死んでも紙にこう書いたんだ。
…そう、青柳くんは救えなかったけど、次こそ…絶対。
私は、そう…心の底から神に縋るように懇願した。
『心からお悔やみ申し上げます。』
この文字を、また見ることになるとは思っていなかった。
私は、そう絵名さんにメールを送った。
…自殺だったらしい。崖から落ちたと。
「私…死神かなんかなの…?なんでこんなに、仲間が死んじゃうの…。」
そう呟いた私の目には、薄く涙の膜が張っていた。
冬弥を追いかけて死んでしまったのだろうか。
…どうしたら、よかったのかな。
そう、冬弥と彰人に届くようにと願う。
私は今だって、こはねと一緒に悲しんでいるんだ。
歌の活動が進まなくなって、こはねといる時間も減ってきたけど。
…Vivid BAD SQUAは解散。そして、Vividsも活動休止になっている。
もう…どうすればいいの。
私は涙で濡れた手で…ガリガリと頭を引っ掻いた。
【番外】『死んだ後』
『彰人に…俺の思いは届かなかったのか。』
『バカ言うなよ、お前が書くの遅くて見れなかったんだ。』
『…彰人を殺したのは俺だと言いたいのか?』
『ちっ、ちげぇよ!!…悪かったな、冬弥が折角書いてくれたのに、見れなくて。』
『…大丈夫だ、悲しくはあるが…気にしないでくれ。』
オレは、今日もアイツらを見守る。
アイツらはずっとオレ達の為に泣いてくれているが、オレ達の声は届かないようだ。
『…次は、小豆沢の家を見に行くか。』
『お前、なんでちょっと嬉しそうなんだ…。』
『だって…久しぶりに彰人に会えたんだ、彰人にずっと会いたいと思っていたから、嬉しくて。』
『あーはいはい!わかったわかった!…お前、サラッと小っ恥ずかしいこと言うよな。』
所謂、オレ達は幽霊になったらしい。未だに信じ難いが…。
だが、隣で明るく話している冬弥は、オレが死んだせいで、成仏できずにいるらしい。
オレも…結局アイツらにも会えず、報われないで死んだからか…成仏できなかった。
『…オレら、もうアイツらに託すしかないんだな。』
『あぁ、そうだな。だが、俺達も…できることはやりたい。』
『なんだ?…紙に“まだ生きろ”とでも書くのか?』
『…それは、俺を揶揄っているのか…?』
そうやって馬鹿にすれば、少し恥ずかしそうに俯く。
こういうところは…可愛いんだけどな。
でも、オレを思い過ぎて成仏できないなんて…罪悪感がある。
『冗談だ。まぁ、気持ちを伝える手段がそれしかないんだったら、そうするしかないだろ。』
オレ達は顔を見合わせて笑った。
…正直、死んだ先が天国でも地獄でもなく、そのまま現世に魂だけでも残れるとは。
冬弥に…また会えるなんて。
“死んでよかった”…なんて言えないが、なんだか…すごく嬉しい。
『…成仏、したくないな。』
『あぁ…俺もだ。』
そう言って、オレ達は屋根に座り込む。
成仏をすることがこんなに怖いことだとは…誰も思わないだろう。
オレと冬弥は、肩を組んで…今あるこの幸せを、精一杯噛み締めた。
最後の番外は、こうなればいいなという私の理想なので、
解釈違いになってしまったらすみません。
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