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「さっきから、杏奈が出て行ったと言うけど、出て行ったのは俺だから」
京香がぶっ!と吹いた。
「え?なんで?もしかして実家に帰ってママに甘えてるとか?」
「なっ!」
まるっきりハズレているわけでもない、今の状況を言い当てられて、答えられなかった。
「さ、もう帰るね。話したかったことは話したでしょ?岡崎さんが浮気を認めても、私は絶対認めないから。あの写真だけではなんの証拠にもならないしね」
じゃあね、と席を立って帰って行った。
「なんだったんだよ、一体……」
結局は、京香に遊ばれただけだったということか。
_____これからどうするべきか…
とりあえずは、帰ってビールでも飲むことにする。
帰り道、信号待ちの交差点で、角にあるお店のガラスに映る自分の姿を見た。
_____今の俺には魅力がないと京香が言っていたけど
なんだろう。
背広の折り目がボヤけてるとか、シャツの襟がふにゃけてるとか……そういうことか。
これまでは杏奈がすべてやってくれていた、アイロンがけもクリーニングも、ネクタイもコーディネートしてハンガーにかけてあったから、毎朝悩むこともなかったし。
夜の相手はあんまりしてくれなかったけど、奥さんとしての家事はちゃんとしてくれてたなと思い返す。
身なりも調えていないと、家庭円満はハリボテなんだと気づいた。
「ただいま、ビール冷えてる?」
「おかえり、ビールは冷えてるわよ。お風呂先に入ったら?」
「うん、そうするわ」
脱衣所で服を脱いで行く時、ふと靴下の指先が薄くなっていることに気づいた。
「あのさー、お袋!」
「なによ」
「靴下新しいの用意しといて。それからそのスーツはクリーニングに出してシャツはアイロン、が無理ならシャツもクリーニングで」
パタンと風呂場のドアが開いて、お袋が仁王立ちしていた。
「ちょっ、いきなりなんだよ」
「あんたこそ、なによ。私はあんたの奥さんじゃないんだから、そんなことしったこっちゃないわよ。文句があるなら、さっさと杏奈さんのとこへ帰ったらいいでしょ?そろそろ杏奈さんもあんたのありがたみがわかるころじゃないの?二度と浮気なんかしないと約束させて、今回はイエローカードで許してやれば?」
「あ、まぁ、そうだな。そろそろ帰ってやるかな」
さて、なんて言って帰ろうか。
「あんたがうまく話せないなら、お母さんが話してあげるから、近いうちに杏奈さんをうちに呼びなさい。そうね、今度の週末にでも呼んで話をしましょ。いつまでもうちにいられても、邪魔だしね」
「息子なのに、邪魔って」
風呂から上がったら、お袋は杏奈に電話をかけていた。
「そういうことだから、今週土曜、うちに来なさい。これまでのことはなかったことにしてもいいのよ、反省して雅史に謝罪して、これから先、うちの嫁としてきちんとしてくれるのならね。杏奈さんにとってもその方がいいでしょ?じゃ、2時に待ってるから」
杏奈と話しているお袋の声を聞きながら、ビールを開けて一気に飲み干す。
「雅史、わかった?今度の土曜日」
杏奈はお袋からの電話に何と答えたのだろうか。
_____俺の浮気のことは話していないようだけど
杏奈が浮気した、かもしれない写真はまだ俺のスマホの中にある。
でも京香との写真は、杏奈が持っている。
_____そうだ!杏奈が浮気したと思ったから俺もあてつけで浮気したということにしよう
勘違いでもなんでも、そのまま押し通してお互い様でお咎めなし、それがいいんじゃないか?
杏奈は圭太を連れて生きていけるわけないだろうから、離婚したいとは言わないだろうし。
「大丈夫だな、うん」
そう考えたら気が楽になった。
まさか
杏奈から離婚を切り出されるとは思ってもみなかった。