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のりもちさん
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涼ちゃんの今日の髪のコンディションも、最高で最強だ。
きれいな金髪が艶々と光輝いている。手触りがよさそうな金糸が顔周りを彩っていて、メイクは薄めなのに、本当に女神という言葉がぴったりだった。メイクさん、今日も綺麗な涼ちゃんをありがとう!と、胸中でお礼を言う。
この綺麗な人、俺だけの大切な人なの。
控室のソファに並んで座り、ペットボトルの水をごくごくと飲んでいる涼ちゃんを見てうっとりとしている俺に、向かいの席に座っている若井が苦笑している。そんな俺の視線に気づきもしない涼ちゃんがふうと息を吐いて、唇を少しだけ尖らせた。
あ、嫌な予感しかしない。
この仕草は、涼ちゃんがまた何か変なことを考えこんでいるサインなのだ。長年一緒にいるからこそ分かる癖。
「ねぇ、俺も本当に運転免許ほしいんだけど」
さっきの朝のトーク番組で、急にぶっこんできた言葉が再び俺の耳に届いた。単なる思い付きじゃなかったのか。質問の答えには程遠かったし、周囲のスタッフさんも本気で笑っていたよね。
「………もう持ってんじゃん」
「ちーがーう!車の免許の方!元貴も若井も持ってんじゃん!」
「…なんで?車の免許がなくても、今別に困ってないでしょ?」
「そうだよ涼ちゃん!今までどおり、どっか行きたいなら俺、車出すから!だから別にいらないじゃん!」
涼ちゃんの言葉にはじかれて、若井が身を乗り出して力説する。
うんうん、そうだよね。
若井、もっと言ってやれ。
仕事では事務所からの送迎車がでるけど、プライベートで三人でどこかに出かけるときは、たいてい若井が車を出してくれる。俺も車の運転免許を持っているし、車も所有はしているけれど、運転することが好きな若井に任せることが多いのだ。
若井の車の、助手席側の後部座席が涼ちゃんの指定席。本当は後ろで並んで座りたいけれど、それは運転してくれている若井にあまりにも失礼だと涼ちゃんが言ったから、助手席が俺の指定席になっている。
ちなみに涼ちゃんが助手席に座るのは当然却下。万が一の時に危ないっていうのはもちろんあるれけど、まるでカップルのように隣同士で座る二人を後ろからただ指を咥えて見ているだけなんて、俺の精神が穏やかでいられるはずもないだろう。
『元貴、後ろで一人で座ってるの、さみしいでしょ?助手席に座りなよ。俺は後ろでゆったりと座らせてもらいま~す』
ふふっと、やわらかい笑みを浮かべた涼ちゃん。ほんと俺のことをよくわかってくれてるよね。出会って俺が一目惚れをした涼ちゃんは、当時は優しいお兄ちゃんっていう感じだったけれど、今では最高の恋人で、色々と細やかに気を使ってくれるのだ。
ちなみにドライブスルーでファストフードを買って、運転している若井は食べられないからと、後部座席からポテトを若井の口に運んであげる涼ちゃんに拗ねたことがある。
『………俺にもちょうだい』
『えぇ~、元貴自分の持ってるし、両手使えるよね?』
そんなことを言うもんだから、俺は持っていたポテトの袋を涼ちゃんに押し付けて、あ~んと口を開けた。
『も~、しょうがないなぁ。元貴は甘えんぼうさんですね』
と言いながら、俺の口にもポテトを運んでくれた。俺に甘えられることが嫌いではない涼ちゃん。結局いつだってこうやって、俺をずぶずぶに甘えさせてくれる。
そんな座席事情を思い出している俺に、涼ちゃんはさらに唇を尖らせた。
「でも元貴も若井も最近忙しいし、なかなか三人の時間も取れないじゃん」
俺はプロデューサーとしての打ち合わせが多いし、若井もレギュラー番組を三本持っているから、おのずと涼ちゃんの一人時間ができてしまう。自分だけが暇なのだと卑屈になったりすることはなく、単に時間を持て余しているのだろう。
涼ちゃんもこっちに友達はいるけれど、相手も芸能人なのでプライベートな時間を合わせることはなかなか難しいようだ。
交友関係は把握しているし、みんな涼ちゃんは俺のものだとわかっているので、今のところ会って遊ぶことの制限はしていない。もちろんこっそりと身元調査をした上で、俺の厳しい審査を通った友達だからである。
嬉しそうに『明日遊びに行ってくるね~』なんて涼ちゃんが報告してきても、よかったね楽しんできてねと、笑顔を浮かべて頬を優しく撫でてやっている。
俺ってすごくない?
満点の彼氏だよね。
本当は仕事以外では誰にも会わせずに、ずっと俺んちで囲っておきたいんだけどね。ないとは思うけれど、もし涼ちゃんが間違っておいたしちゃったときは、俺は全力でそれを行使してしまう自信はあった。
一人時間は、外鍵をつけるであろう俺の家で自由に過ごせばいい。家事が得意ではない涼ちゃんは俺を送り出した後ゆっくりとテレビを見たり、俺のカードで欲しい物をネットショッピングしたり、俺が帰って来るのだけを待っていればいいのだ。
貯金、いくらあったかな。
涼ちゃんを一生養えるぐらいは貯まってるはずだけど。
「……こんなことなら、休止期間中に取っとくんだった」
二人からNGをくらった涼ちゃんは、ぶすくれた表情を隠しもしないで呟いた。
「はあ?そんなのダメに決まってんじゃん。当時の俺も、絶対に許すはずがないだろ」
「元貴がダメって言ってもずっと一緒にいたわけじゃないから、通おうと思えばこっそり通えたもんね~」
ね~?若井。
涼ちゃんが若井の方を見て、こてん頭を傾けた。とっても可愛い仕草だけど、言ってることは全然可愛くない。
確かに二人で住む家にはできる限り顔を出していたけれど、24時間一緒にいたわけではないのだ。俺はソロ活動や活動再開に向けてやるべきことがあったし、何日も顔を出せないこともあった。
「…えぇ~、どうだろ?まあでも、もし涼ちゃんがあの時本気で教習所に通いたいって言ってたら、送り迎えはしたよね。絶対」
この甘ちゃんめ。
なんだかんだ言って若井は、涼ちゃんのお願いに仕方なくも頷いてしまっていただろう。うるうると瞳を潤ませて『お願い若井!』って懇願されたら、きっと陥落していたはずだ。俺ほどではないにしろ、若井もたいがい涼ちゃんに甘いから。
もちろん涼ちゃんに、俺と同じ恋愛感情を抱いているわけではないことを知っている。バンドを結成して、いきなり俺が連れてきた涼ちゃんにいい感情を持ってなかった若井だけど、時間が経つにつれて涼ちゃんの存在を認めていった。そしてさらに二人の距離が縮まったのは、休止期間中の共同生活である。
「…もうさ~、なんで今更ほしいっていうわけ?困ってないのは本当じゃん」
あの狭い密室で教官と二人っきりなんだよ?
トータル何時間、俺以外の人間と一緒にいると思ってんの?
そんなこと、俺が許せると思う!?
「……だってさ、もし俺が車の免許持ってたら、二人のこと送ってあげられるし迎えにも行ってあげられるじゃん。いってらっしゃい、お疲れさまって、顔見てその場で言ってあげられるの、いいなって思ったんだもん」
どこかに遠くに遊びに行きたいからだとか、一人時間で自由気ままにドライブしたいからとかじゃなく、俺たちを送迎したいから車の免許ほしかったの?
なにそれ。
なんでそんなかわいいこと言ってくれちゃうかなぁ。
ほら見て。若井なんてそんな涼ちゃんの言葉を聞いて、天井を仰ぎつつ自分を抱きしめちゃってるよ。こわ。
まあそりゃあね、玄関先やLINEなんかじゃなく、仕事場の駐車場まで一緒に居れて、そんな言葉を言ってくれたらいつも以上に頑張れちゃうだろうとは思う。
でもね、それはそれ。
これはこれ。
「そっか。じゃあ今度から涼ちゃんが休みの時は、マネージャーに同行して一緒に同乗してくれたらいいんじゃん。そしたら涼ちゃんの願いは叶うよね?」
「ちがうって~!それじゃあ意味ないじゃん!」
「ううん、違わない。それであってる」
はい、もうこの話は終わり。
感動しまくっている若井を味方につけられる前に、俺はこの話をぶった切った。
「ちょ、元貴!まだ話は終わってないって!」
涼ちゃんがぎゃんぎゃんとわめいているけれど、『あ~あ~何も聞こえませ~ん』と言いながら、俺は着替え終えて私物をカバンに放り込んだ。これから二人とは別行動である。
「涼ちゃん、若井、じゃあね!また明日」
「おう」
「あ、うん。元貴、お仕事頑張って」
ぷんすこしていた涼ちゃんだけど、ちゃんと気持ちよく俺を送り出してくれる。ネタで挨拶しない人が嫌いだと言っているけれど、あながち間違えではないのだ。
本当に免許が欲しいのなら、俺に黙って教習所にだって通えるはずだ。マネージャーが教習時間を上手く組んでくれるだろう。
それなのに、ちゃんと俺に話を通そうとする涼ちゃん。
愛されてるなって実感できる。
…ねえ、そういえば。
車の免許って、教習所に通わなくても取るのは可能だよね?
教官が横に乗るのは本当の本当に嫌だけど、仮免許と本免許の二回だけはとりあえず我慢するとして、路上練習は俺と若井が同乗すれば問題ない。確か社長の親戚が広大な果樹園を持っていたはずだし、敷地内で車の運転の練習をすれば問題なしだ。
なんだ、問題解決じゃん。
もし今後、涼ちゃが本当に何が何でも車の免許が欲しいっていうなら、仕方ないから俺が譲歩してあげる。
高級車でも外車でも何でも買ってあげちゃう。
でも涼ちゃんが買うであろう車の助手席は、俺か若井限定だからね。
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