テラーノベル
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──翌朝──
すかーと夢魔が離れて、夜が明けた。
ネグは早朝、誰よりも先に目を覚ました。
まだ少しふらつきながら、洗面所に立ち、鏡を見た。
ネグ(……わぁ……ボロボロ……)
頬にうっすら残る青い跡。包帯で隠されていた腕。
小さく息を吐き、包帯を巻き直そうとリビングに向かう。
救急箱を手に取って、包帯を外し、新しいものに変えていく──。
その指先さえ、どこか震えているのが自分でもわかった。
そしてリビングを出ようとした瞬間──
「……!」
目の前に、すかーが立っていた。
ネグはビクッと大きく肩を震わせ、すぐに一歩、二歩と後ずさった。
「……っ……!」
息すら詰まるような顔で、すかーの目を見ることもできず──
ネグは逃げるように走り出した。
すかーは何も言えず、ただその後ろ姿を静かに見ていた。
すかー(……また、やっちまった……)
すかーは拳を強く握りしめたまま、息をひそめていた。
──そのころ、ネグはマモンの部屋へ。
マモンの腕にすがりつきながら、泣き声を押し殺していた。
「ひっ……く……っ……」
マモンは優しく抱きしめ返し、小さく背中を撫でながら囁いた。
「……大丈夫だ。俺がついてるから。もう、誰にも殴らせねぇよ。」
──その泣き声を、ドアの外でだぁと夢魔が聞いていた。
二人は黙って顔を見合わせ、静かに歩き出した。
「すかー。」
夢魔が静かに声をかける。
「昨日のこと、ちゃんと話せ。」
すかーはしばらく黙っていたが、唇を噛んだあと、低く重い声で話し始めた。
「……ネグがまた勝手に部屋出たと思って……俺、一瞬……マジでブチ切れてた。」
拳を握ったまま続ける。
「ドア閉められた時……もう何もかもどうでもよくなって……頭真っ白で……。見つけた時、あいつ、ベッドで……何も言わずに……。そん時、もう殴るしかできなくなってた。」
「……。」
だぁと夢魔は黙って聞いていた。
「でも……あいつ……本当に、何も知らなかったのかよ……?」
すかーは顔をしかめて、震える声で呟いた。
──その後、ネグにも話を聞きに行った。
ネグはマモンの腕にしがみついたまま、小さく震えていたが──
だぁがそっと声をかける。
「ネグ、昨日のこと、教えてくれ。」
ネグは少し顔を上げ、かすれた声で話した。
「……知らな……っ……だって……わし……トイレ……行こうと思ったら……」
少し呼吸を詰まらせながら、続けた。
「マモンが……掴んできて……離さなくて……」
「……!」
すかーはその場で顔を真っ青にした。
「はぁ!?違うだろうが!!」
怒鳴りそうになったが、だぁが手で制した。
「落ち着け。マモン、お前は?」
マモンはネグの背中を軽く撫でながら、目を伏せて言った。
「……俺が掴んだ。ネグを逃がしたくなくて……俺が鍵閉めた。」
すかー「……!」
一瞬、頭が真っ白になった。
「じゃあ……ネグは……!」
すかーの視界が揺れる。
「……じゃあ、誰が鍵閉めたんだよ……って……俺……。」
その場で静かに膝をつき、頭を抱えた。
「……マジかよ……」
だぁは重く目を閉じて、すかーの肩に手を置いた。
夢魔も静かに言った。
「すかー、お前……やりすぎた。」
しばらくの沈黙。
そのあと、すかーはネグのほうへ行き、しゃがみ込んで、顔を上げさせた。
「……ネグ。本当に……悪かった。」
すかーの声は震えていた。
「俺……勘違いして……お前のこと……傷つけた。」
ネグは目線を合わせようとせず、顔を背けたまま、震える声で呟いた。
「……すかー……嫌い……」
その言葉を聞いた瞬間──
すかーは一瞬、完全に思考が止まった。
顔色がサッと青ざめ、目線を落とし、苦しそうに唇を噛みしめたまま、何も言わず立ち上がると──
そのまま、静かに部屋を出ていった。
──すかー視点──
(嫌い……か……)
胸の奥に鋭い杭を打たれたような感覚。
重く、苦しく、呼吸すらしにくい。
(あぁ……本当に……やっちまったんだな……俺……)
ネグの涙が、震える背中が、ずっと頭から離れない。
それでも、もう何を言えばいいのかすら分からず──
すかーはただ無言で、自分の拳を見つめ続けていた。
拳はまだ震えていた。怒りじゃなく、ただ後悔と、自分への怒りで。
──夜、家の廊下──
ネグは静かに携帯を耳に当てていた。
震える指先。声もかすれて、言葉にならない。
レイの声が聞こえた。
「……どうした、ネグ?」
ネグはしばらく何も言えず、唇を強く噛み、ようやくしぼり出すように小さな声で呟いた。
「……逃げたい……」
レイは一瞬、黙ったままだった。
ネグは泣きそうな声で、もう一度、小さく繰り返した。
「……レイ、助けて……逃げたい……」
しばらく沈黙が続いたあと、レイの低い声が返ってきた。
「……すぐ向かいに行く。」
その言葉を最後に、電話は切れた。
──ネグはゆっくりと、小さなカバンにスマホ、財布、モバイルバッテリーだけを入れる。
ボーッとしたまま、手が震える。
しばらく経ち、レイから「着いた」と短くメールが届いた。
ネグは静かにドアに手をかけ、靴を履こうとした──その時。
「……どこ行くんだ?」
すかーの声。
暗い廊下に、その低い声が響いた。
ネグは肩をビクッと震わせたまま、すぐに答えず、ただドアノブを握りしめる。
「……ネグ。」
少し近づいてくる気配。
「ネグ、どこ行くんだって……」
その時──すかーがネグの腕を掴もうとした。
その瞬間、ネグは強く振り払うように叫んだ。
「……っ、触んないで!!」
その声に、すかーの手がピタリと止まった。
ネグは振り返り、目に涙を溜めながら、でも真っすぐにすかーを見上げた。
「……嫌い。すかーなんて……大っ嫌い!!」
その言葉が、すかーの胸に刺さった。
一瞬、何も言えなくなる。
視界がぼやける。
すかーはただ、その場に立ち尽くしていた。
ネグはそのままドアを開け、外へ飛び出した。
夜の冷たい風の中、ネグの後ろ姿はすぐに見えなくなっていった。
遠く、レイの車のライトが見えた。
──すかー視点──
(……っ、ちょ……待て、ネグ……)
心が痛い。何を言っても、もう届かない。
胸が締めつけられるような苦しさ。
「……大っ嫌い、か……」
低く呟いた自分の声すら震えていた。
ただただ、後悔だけが、心の中を埋め尽くしていた。
ネグの姿も、もう見えなかった。
すかーは、その場から一歩も動けず、ただ立ち尽くしていた。
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