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はじめまして、佐崎です。
初作品がクロ月ということで頑張って連載していこうと思います(汗
下記の注意点をよくご覧になってください。
ー注意ー
※本作はクロ月のBL作品です。
※各校の3年が卒業した後のお話です。
※話が進むに連れて、センシティブな内容も出てきます。
※更新は週末になります。
それではどうぞ!
あの春、僕は確かに恋をした。
しつこく、胡散臭く、何を考えているのかわかりづらい、それでいて憎めない人。
僕がこの人に敵うことはない。今までも、これからも。
黒尾「じゃ、またな。ツッキー」
ほら、今だって。
「……ハイ」
嬉しそうに笑うあなたに、またねの一言すら言えないでいる。
レシーブ練を終えて、今は休憩時間。
バレーボールを集めながら、休憩時間さえ惜しむ単細胞が欲求を満たそうと、向かいにいる王様に声をかける。
それはいつものこと。
日向「影山!サーブ打ってくれ!!」
影山「おう」
田中「いや休めよお前ら……」
一週間前、3年生が卒業した。いささか寂しさも感じられるが、単細胞たちのおかげで第2体育館は騒がしい。
そしてあの日、黒尾さんも―――
山口「―――ツッキー?どうかした?」
ハッと小さく息が漏れた。声をかけられるまで気づかなかった。
最近、ボーっとすることが多くなった気がする。
原因はわかっている。
「……いや、別に」
山口「そう?次、サーブ練だよ!」
山口は熱気を孕んだ鋭い目をするようになった。
今も、バレーボールを両手に早く打ちたくてたまらない様子だ。まるで単細胞。
「まだ休憩してるから、先行ってていいよ」
山口「じゃあ、先行ってる!」
僕の先を行く山口は僕より何倍もかっこよくて、強い。
あの日、山口に言われた言葉を思い出す。
あの熱量に感化された僕は、本当に運がいいと思う。
日向「クッソ〜!山口ぃー!!ジャンフロ教えて!」
山口「ええっ!?」
西谷「おおっ!!しょんべんサーブ卒業か翔陽!」
影山「お前はまず確実に入れろ!!!」
日向「おっ、俺だってできるし!!最近は入るようになったし!」
縁下「ほらほら、早くやるぞー!サーブ練ー!!」
全員「オーッス!!」
やる気に満ち溢れた部員を見ていると、僕もやらなきゃと思うことがある。
自然とそう思える日が来ると言ったら、過去の僕は信じるだろうか。
「フッ、今度はジャンフロで後頭部サーブ?(笑」
日向「なっ!?やらねェよ!月島コノヤロー!!」
田中「落ち着け日向!」
影山「日向ボゲェ!!」
日向「影山くんのはいらなくないですか!?!?!」
縁下「ほんと飽きねえな、お前ら……」
信じても信じなくても、どっちでもいい。
ただ、その事実だけは知っていてほしいと思う。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
辺りが暗くなってきた夕方。
部室棟の2階の1つの扉から、光が漏れていた。
縁下「部室、最後の奴はちゃんと鍵閉めろよー。じゃ、お疲れ」
田中「おー、じゃあな」
西谷「またな!」
木下「俺もお先に失礼。おつかれ」
成田「おつかれー」
影山・日向「お疲れさまっス!」
山口・月島「お疲れさまでーす」
それぞれが帰り支度を始めた部室内で、ピコンッと軽快な音が鳴った。
「?」
スクールバッグの中で、スマホの画面が光っている。時刻は18時38分。その上にバナー通知が表示されていた。
黒尾:<突然ごめん。今週の土曜、空いてる?>
「!」
急いでメッセージアプリを開き、既読をつける。
緊張のあまり、送信ボタンを押す指は震えた。
<ハイ。空いてます>
黒尾:<マジ!?じゃあ昼頃に仙台駅で落ち合おうぜ>
「(は?こっちまで来るの?東京から??)」
内心驚きつつ、会いたいという気持ちが心の奥深くで渦を巻く。
<わざわざ東京から来るんですか?>
黒尾:<そうだけど?>
……会いたいという気持ちよりも、申し訳なさが勝ってきた。
東京駅から仙台駅までの新幹線は、最短で約1時間半。
「(感謝の品でも用意した方がいいか……)」
<随分な無理をされるんですね>
黒尾:<え、なに。労ってくれるの?>
「(っ……ハァ。ほんっと、この人は……)」
見透かされた気がして癪に障るけれど、黒尾さんはそういう人だったと再認識させられる。
どれだけ上手に隠しても、この人だけは気づく。
―――そういうところも、好き。
「(……気に入らない)」
スクールバックのファスナーを閉めて、「お疲れさまです」と部室を出る。
山口「あっ!ツッ……お疲れさまです!!待ってよツッキー!」
西谷「おう!」
日向「じゃあな山口!」
山口が後ろから走ってくる気配を感じながら、正門に向かう。
そんなことより。
<黒尾さんにだけ負担かかりますよね>
黒尾:<わかってないなあツッキー。これが大人の余裕ってもんよ!>
「(大人って言ったって、2歳上なだけデショ)」
深いため息を吐きながら、考える。
なにを渡したら喜んでくれるだろう。僕の行きつけの店……確か仙台駅方面にもあったはず。
食物アレルギーとかないかな。どうやって聞こう。もしあったら別の―――
山口「―――ツッキー!!」
「あっ……ごめん、なに?」
山口「俺、嶋田さんとこ行ってくるから!」
「ああ、うん……じゃあね」
山口「また明日!」
遠くなっていく山口の背中を見送り、歩き出す。
僕はたくさんのことを考えて、スマホを注視していた。山口の声に気づかないほど。
けれど、元を辿ればすべて黒尾さんのこと。
「(……浮かれてる?)」
猛烈に恥ずかしくなった。手に汗が滲み、頬が火照るのがわかる。
異様に熱くなった体で思い知らされる。
僕は僕が思っている以上に、黒尾さんに会いたくてたまらないのだ。
「(もうほんと……嫌になる)」
―――好き。
たった2文字の言葉に振り回される自分に嫌気が差す。
強くて脆いこの感情はきっと叶わない。
「ハァ……」
僕はこれ以上考えすぎないように、早足で歩いた。
熱く火照った耳を隠すように、ヘッドホンを付けて。