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モノクロナツキ
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モノクロナツキ
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「……あいのうた」
「へ?」
「知ってんの? あいのうた」
「う、うん! 知ってる!! めっちゃ前やけど映画観たよ。スワロウテイルの主題歌やろ!?」
昔の彼女との、思い出すのもちょっと切ない古い思い出の映画。でも、巡り巡って今、こうして空くんと繋がるための大切なピースやったんやと思うと、それすら必要な経験やったんやなと思える。
「……そう。俺、最近観たんやけど。あの映画観てたら、あの日、なんだか外に出たくなって……。新くんが来てくれた日、そっと出てみたら、意外と外、歩けて。それで、家の前まで帰ってきたら、新くんもう帰っててさ」
くくっ、と空くんの自嘲気味な笑い声が聞こえる。そっか、あれは空くんの中では、ちょっとした笑い話なんやな。
「……よかったわ。あの日、野中さんが空くんのこと締め出してくれて。そうじゃなかったら、俺、空くんとお友達になれへんかったもん」
「……こっちは凍死しそうやったけどな」
顔が見えないまま、ドアの隙間を挟んで2人で声を合わせて笑い合う。
「……ありがとうね。あの時、助けてくれて」
空くんの口から、真っ直ぐなお礼の言葉が零れ落ちた──その時だった。
トコトコと、廊下の向こうから誰かがくる足音が聞こえた。その瞬間、数センチ開いていたドアが、名残惜しそうにスウッと静かに閉まった。カチャリ、と鍵が閉まる音が響く。
「……どう? 空くん元気やった?」
そっと寄ってきた洸が、空くんの部屋を刺激しないように静かな声で聞いてくる。
それに対して、俺は親指でグッとOKサインを出して、廊下の床からゆっくりと立ち上がった。
「……どういたしまして。空くん、また来るな」
ドアをそっと2回ノックして、その場を離れる。
リビングに戻ると、野中さんがお昼ご飯のオムライスに、ケチャップで綺麗なハートマークを描いているところだった。
「弦さん、お疲れ様です。空くん、どうでした?」
「ちょっとだけ、ドア開けてくれて、お話もしてくれたで!」
「……凄すぎる。僕、まだパーカーのフードを深く被った状態の空くんしかお見かけしたことがなくて。顔を見たら、どんなお顔か僕にも教えてくださいね」
野中さんが、いつになく切実で深刻な顔で言ってる。
野中さんの前でもパーカー被ってんのか。頻繁にお手伝いに来ててもまだそこまでの距離感なんやな……
「……それって、いつのタイミングで、パーカーの空くんに会えるん?」
「僕がお手伝いに来る日の夕方5時、一度だけ部屋の清掃のために中に入れてもらえるんです。陸さんと空くんの間でそういう約束になっているみたいで。5時前に空くんは他の部屋に移動されるんですけど、その時に一度だけ、チラッと後ろ姿をお見かけして」
あぁ、なるほど。だから空くんの部屋の『ONE PIECE』の棚の写真を撮って、洸にヒントをくれたんか。でも、それ空くんに知られたら、勝手に部屋を覗いたみたいでちょっと怒られそうやな。気をつけんと。
「どんな感じなん? 空くんて」
「すっごい大きいです。僕、180センチあるんですけど、空くんはあと5センチは大きいと思いますよ。それにスタイルもいいのでまるでモデルさんのような……」
185センチ超えのモデル……!?
こないだ暗闇の中で屈んでいた時もデカいのは分かってたけど、この野中さんよりさらにデカいって、すごいな。
俺が173センチやから、12センチも差があるってこと!? 俺、そんな人と友達になりたいとか思っててええんやろか!?
「新さん、180センチもあるんですか! 俺、170しかないからちょっと分けて欲しいなぁ」
話を聞いていた洸が、少し上目遣いで甘えた声を出して、野中さんの前に一歩並んだ。
「いいえ、洸さんはそれでいいんです。そのサイズ感が最高に素敵ですから」
デレデレとした野中さんが、完全に締まりのない顔で洸に微笑みかけている。
「あ、これ、お二人の分のオムライスです、どうぞ」
「やった、今日の報酬や!」
「新さんお料理上手! 俺も頑張らな!」
「洸さんは毎日お仕事を頑張られているので、そのままで十分素敵です」
「もう!! また2人でイチャイチャする! 洸くんのことが大っ好きな、お兄ちゃんもここにおるんやからな!」
一応、拗ねたフリをしてお約束のツッコミを入れてみる。だけど、俺の心の中は、さっき聞いた空くんの声と、まだ見ぬその大きな存在感で完全に支配されていた。
「あー……なんか、空くんの中身に会えるの、めっちゃ楽しみになってきた!」
「これからもよろしくお願いしますね、弦さん」
「よし、じゃあ円陣組もう!」
急に体育会系のモードになった洸に誘われて、新さんを巻き込んで3人で肩を組む。
空くんに聞こえないように、リビングの真ん中で、そっと小声で「えいえいおー!」と声を出し、『空くんとお友達大作戦』への頑張りを誓い合った。