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#『彼』の行く末
鐘寺 実昼
375
#オリキャラ
霰❄️
61
79
#短編
QuartoMew
105
それまで無表情だった九頭竜晶と名乗る男は、取り繕ったような笑顔をした。
「……ははっ!……いきなりどうしたの?」
「花崎圭一って?」
優香はいつものように無表情ではあったが、何かの決意が込められた目で、晶を真っ直ぐに見つめていた。
いつもは他人と目を合わさない優香らしくなかった。
優香は晶の言葉を意に介さず、話を続ける。
「…………思い返せば、ホームレスから変。」
「…………。」
九頭竜晶と名乗る男の顔は、いつも春山姉妹の前で見せる顔とは同一人物とは思えないほど無表情になっていた。
「その1、あの時のホームレス、私達を双子だと言った。暗くてハッキリ顔がわからない場所で。世の中、顔がそっくりの姉妹もいるのに、なぜか最初から双子と断言していた。」
「その2、あんなに暗くて人がいない場所……あなたはタイミングよく現れた。」
「……それは、仕事帰りにって前に言ったけど?」
「……あなた病院で、家は病院から見える茶色いマンションの隣って言った。……セントラルビルからあなたの家は別方向。仕事帰りに通りかかったと言うには不自然すぎる。しかも、私達の歩くルートは、その場所をよく知らないと普通は通らない。」
「…………。」
「それに、病院に行くためのタクシーを呼んだ時も変……。」
「あんな住宅街の中途半端な場所なのに、すんなりと場所の説明をしていた。まるで最初から調べておいた場所のように。」
「…………。」
九頭竜晶と名乗る男は、無言で優香を見るだけだった。
「その3、あなたは病院で頑なに治療を受けようとしなかった。下手に保険証を出すと、本名で呼ばれ兼ねないから。」
「その4、二度目に会った時のバーテンダー……あなたを『坊っちゃん』と呼んだ。」
「まるで上司の子供に対するような言い方。あの人、バーテンダーをやる前は誰とどんな仕事してたのかしら?」
「その5、花崎郁夫のことを調べるついでに、あのホームレス達を探してもらった。隣の市にいるのを見つけた……。」
「お金を渡したら、あの日誰に頼まれて私達を襲ったのか白状してくれた。」
「…………以上の推理……どう思う?」
晶は優香の推理を聞き終わった後、立ち上がって歩くと、柵に肘をかけて、海を眺め始めた。
優香は晶のすぐ横に立った。
しばらく黙っていた晶は、ようやく口を開いた。
「…………あのホームレス達……もっと違う場所に行くように言えばよかったな。」
「はぁ~………やっぱり後ろ盾なしで……一人でやると、色々とボロが出るな……。」
九頭竜晶と名乗る男が観念したかのように、無表情から呆れ顔になった。
そして、顔を横に動かして優香を見て、思わず息を飲んだ。
優香が今まで見せたことがない、悲しそうな表情をしていたからだ。
まるで、優香自身が言ったことが、間違いであってほしかったと言わんばかりに。
「…………嘘。」
「…………嘘?なにが?」
「…………ホームレスに白状してもらったって話は嘘。」
「……………………。」
「…………あはっ…あははっ!」
九頭竜晶と名乗る男は、空を見上げながら乾いた笑いをしていた。
「優香…………オカルトだけじゃなく、推理モノも好きだったんだね。いい観察力だよ。」
「…………。」
「『眺めているけど観てはいない。』…………俺の好きな映画のセリフなんだけど……優香はちゃんと観てたんだな。」
「…………私、そのセリフのシーン好き。そこでレクター博士が好きになった。」
「……そうか。」
晶は楽しそうにクスクスと笑う。
「……やっぱり……優香といると楽しいよ。」
「…………。」
「…………逃げなくていいの?」
「…………まだあなたの目的を聞いてない。」
「…………そうだったね。……さすが、優香だ。春山麗奈みたいに、頭の中お花畑なお嬢様じゃなかったか。」
「…………。」
「推理のとおり、俺の本名は花崎圭一……お前達の父親に破産に追い込まれ、死んでいった花崎郁夫の息子。」
「…………。」
「花崎家は実力主義。ましてや何百年と対立してきた春日山家の一端に負けたとあっては、本家から落第者としての烙印を押される。」
「…………。」
「俺と母さんは花崎家から見捨てられて、極貧の生活を送ってきた……。母さんは昼も夜もひたすら働いてたよ。時には風俗店で働いていたこともあった。何とかお金を稼げるのなら、どんな仕事にも齧りついていたよ。」
「…………。」
優香は、この前の花崎圭一が投げかけてきた質問の意図をようやく理解した。
そして、あの時感じた花崎圭一の怒りも……。
「親が風俗店で働いていると笑われて、喧嘩して、孤立して……『こんな家に生まれてこなければよかった。』って、母さんに言ったこともあった。」
「…………。」
「しばらくして、母さんは心労が祟って亡くなった。俺は……かつて父さんの部下だったマスターの助けも借りて、何とか生きてこれたよ。……仕事も身の回りのことも全て自分一人でやるようになった時に、ようやく母さんの苦労を身を持って知った。……今でも思うよ、あの時あんなことを言った自分をぶん殴りたいって……。」
「…………。」
「お前達は何の苦労もなく、自由気ままに暮らしていた時、俺はひたすら思っていた……いつかお前達の父親に、俺と同じ生き地獄を味わわせてやるってな……。」
「…………。」
「女なんて弱っているところを突けば、簡単に転ぶって言うけど、春山麗奈は思っていた以上に簡単に転んだな。……優香、お前も同じかと思ったけど、甘かったな。」
「…………。」
「上手く近付いて……お前達二人を孕ませるなり、消してしまうなり……そうすれば、あいつに生き地獄を味わわせることが出来るって思ってた。」
「…………。」
圭一の一方的な話しが終わると、ようやく圭一は優香のほうを向いた。
同じく優香も圭一のほうを向く。
「…………本当は二人まとめて……のほうがよかったけど、そうも言ってられないな。」
そう言いながら、圭一はそっと優しく……よく見ると、それまでの苦労が刻まれた……その大きな両手を優香の首に回した。
薄く脆い卵を包むように……。
しかし、交差した圭一の親指は、優香の喉仏に微かに引っかかり、瞬時に締め潰せる位置にあった。
圭一は、それまで麗奈と優香には見せたことのない、全ての感情を押し殺したような目で、優香を見つめる。
圭一の手に力が入る。
優香は微動だにせぬまま、口を開いた。
「…………質問。」
「……なんだ?命乞いか?」
「…………『綺麗だ。』、『楽しめそうな予感がするから。』、『初めて会った時から、君のことばかり考えてる。』……あの言葉も全部嘘なの?」
「…………………………!?」
圭一が動揺した。
優香は相変わらず無表情だったが、目からは涙がこぼれていた。
なぜ自分が涙を流しているのか、優香自身よく理解していなかった。
「……………………………。」
「……………………………。」
優香は気付いていただろうか…?
優香の喉仏を引っかけていた親指が……いつの間にか優香の顎の骨を捉えていたことを。
まるで、優香の顔を動かすことを封じるように。
「……………それは………嘘じゃない。」
圭一の唇は優香の唇に引っ付いていた。
優香は抵抗することなく、ただ受け入れていた。
「……………優香に言ったことは、嘘じゃない。」
「俺は……優香が……。」
圭一は何かを告げようとしたが、言うことを踏み止まった。
「…………。」
「…………。」
優香と圭一は見つめあった。
だが、すぐに優香は圭一を直視できなくなっていた。
なぜかは分からない。
優香の中で、何かが変わっている気がしていた。
なぜか身体が小刻みに震えていた。
おそらく、その理由は恐怖ではなく……。
「……あ!いた!」
見つめ合う二人の静寂を破る声……麗奈だった。
つづく
コメント
1件
第5話、めっちゃエモかった…!!😭💕 優香が黙って全部見抜いてた展開、鳥肌立ったよ…まさかホームレスの証言が嘘だったとは思わなかったし、そこからの「嘘じゃない」って圭一の告白、涙出たわ…。 これまで無表情だった優香が涙流すシーン、心臓ぎゅってなったよ…!! 次回、麗奈が来ちゃったけどどうなるの!?続き気になって夜しか眠れない〜!!🌸