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第13話:世界で一番小さなお嬢様
それは、ある冬の夜だった――。
「……蒼真」
寝室で、藍琉が小さく呼ぶ。
「はい、どうなさいました」
「……お腹、痛い」
一瞬の沈黙。
そして次の瞬間、蒼真の顔色が変わった。
「まさか」
藍琉は少し苦しそうに笑う。
「……多分、来た」
破水だった。
―――――
病院。
「夫人、呼吸を整えてください」
医師の声。
藍琉はベッドを握りしめる。
「いっ……たい……!!」
今まで見たことがないほど苦しそうだった。
蒼真は手を握る。
「お嬢様」
「無理……!!」
涙が溢れる。
「やめたい……!!」
「大丈夫です」
彼は必死だった。
「私がいます」
藍琉は彼の手を強く握り返す。
「……離れないで」
「離れません」
時間は何時間も過ぎた。
そして――。
「もう少しです!!」
医師の声。
藍琉は最後の力を振り絞る。
「蒼真ぁぁぁ!!」
その瞬間。
産声が響いた。
―――――
「おめでとうございます。元気な女の子です」
世界が止まる。
「……女の子」
蒼真の声が震える。
看護師に抱かれた小さな命。
小さな手。
小さな顔。
でも確かに――二人の子どもだった。
蒼真は初めて涙を流した。
「……ありがとうございます」
かすれた声だった。
―――――
数分後。
藍琉の胸の上に赤ちゃんが乗せられる。
「……小さい」
涙が溢れる。
「私たちの子?」
「はい」
蒼真は優しく答える。
藍琉は赤ちゃんの頬に触れる。
「……可愛い」
そして彼を見る。
「蒼真」
「はい」
「パパよ」
その言葉に、蒼真は完全に固まった。
「……実感が」
藍琉は少し笑う。
「私も」
赤ちゃんが小さく泣く。
蒼真は恐る恐る抱く。
「……軽い」
でも温かい。
胸がいっぱいになる。
「守ります」
小さく誓う。
「命に代えても」
藍琉は微笑む。
「命は代えなくていい」
そして言う。
「三人で生きるの」
蒼真は頷く。
「はい」
―――――
数日後。
名前が決まった。
「藍音(あいね)」
藍琉が言う。
「あなたの藍と、私たちの音」
蒼真は微笑む。
「素敵です」
赤ちゃんはすやすや眠っている。
その姿を見ながら藍琉は呟く。
「この子もわがままになるわね」
蒼真は即答する。
「間違いなく」
「なによそれ」
「ですが」
彼は優しく言う。
「きっと世界一幸せになります」
藍琉は頷く。
「当たり前よ」
そして赤ちゃんに囁く。
「あなたは、愛されて生まれてきたの」
小さな家族が生まれた瞬間だった。