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その日。
阿部と渡辺と深澤は、事務所の会議室に呼ばれていた。
「俺ら三人だけ?」
深澤が椅子に座りながら聞く。
渡辺も。
「なんの話」
と少し警戒している。
阿部はスマートフォンで予定を確認する。
「このあと三人で雑誌の撮影だから、その話かな」
「わざわざ会議室?」
「分かんない」
しばらくして扉が開いた。
「お待たせしました」
入ってきたのは、いつものマネージャー。
そして。
その後ろに。
見知らぬ男が三人。
阿部は何となく。
三人を順番に見た。
一人目は。
かなり体格がいい。
背も高く肩幅も広い。
何となく圧がある。
二人目は。
一人目と比べれば細身。
少し柔らかそうな雰囲気。
三人目は。
少し小柄で。
真面目そうに背筋を伸ばしていた。
マネージャーが三人の前に立つ。
「今日は、今後の体制についてお話があります」
阿部たちも姿勢を正した。
「以前の事件を受けて、事務所でも改めて警備や移動時の体制を見直しました」
渡辺の表情が少しだけ変わる。
深澤も静かに聞いている。
「その一環で、今後はマネージャーの人数を増やします」
「増えるんですか?」
阿部が聞く。
「はい」
マネージャーは後ろの三人を見る。
「今日から、この三人にも皆さんを担当してもらいます」
深澤が。
「三人も?」
と驚く。
「特に移動や外仕事の時は、なるべく一人にならないようにしたいので」
「なるほど」
阿部は頷いた。
マネージャーが一番体格のいい男を見る。
「では、自己紹介お願いします」
男が一歩前へ出た。
ものすごく真面目な顔。
「はい」
深く頭を下げる。
「ドラゴンです」
「……」
一瞬。
会議室が静かになった。
男の顔が固まる。
「あ」
そしてすぐに言い直した。
まきぴよ
4,876
おその★
23,675
「間違えました」
阿部の眉がぴくっと動く。
「龍崎です」
「……」
渡辺がゆっくり阿部を見る。
阿部も何も言わずに渡辺を見る。
深澤だけが。
「最初から結構すごい間違いしたね」
と笑った。
龍崎は少しだけ気まずそうに頭を下げる。
「申し訳ありません」
マネージャーは特に気にした様子もなく、次を見る。
「次、お願いします」
二人目の男が頭を下げた。
「白井です。よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします」
最後。
「鬼頭です。よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします」
三人とも礼儀正しい。
見た目だけなら。
普通の新しいマネージャー。
でも。
阿部は、まだ龍崎を見ていた。
ドラゴン。
聞き間違えるには少し不自然すぎる。
マネージャーが。
「今日の雑誌撮影から、この三人にも同行してもらいます」
と言ったところで。
スマートフォンが鳴った。
「あ、すみません」
画面を確認する。
「少し電話出てきます」
そのまま会議室を出ていった。
扉が閉まる。
静かになる。
新しい三人と阿部、渡辺、深澤。
数秒。
誰も喋らない。
そして。
阿部が白井を見る。
「ねえ」
「はい」
白井がすぐに返事をする。
阿部は少しだけ首を傾げた。
「君、スライムでしょ?」
白井の顔が止まった。
渡辺が。
「は?」
と阿部を見る。
深澤も。
「あべちゃん?」
阿部は気にせず、今度は鬼頭を見る。
「で」
「はい」
「君はゴブリンかな?」
鬼頭も固まる。
数秒後。
三人が一斉に姿勢を正した。
龍崎が代表して深く頭を下げる。
「さすが魔王様です」
渡辺が。
「待って待って待って」
とすぐに止める。
深澤も。
「ちょっと情報量多い」
阿部だけは。
やっぱりという顔をしていた。
「ドラゴンって言った時点で分かった」
龍崎が。
「申し訳ありません。緊張しておりまして」
「そこ緊張すると出るんだ」
「はい」
白井も少し恥ずかしそうに言う。
「お久しぶりです、魔王様」
鬼頭も。
「またお会いできて光栄です」
渡辺が阿部を見る。
「あべちゃん」
「何」
「知り合い?」
「夢の中では」
「また夢?」
「うん」
深澤が額を押さえる。
「もう夢が現実に侵食しすぎなんだよ」
三人は、ものすごく真面目な顔で阿部へ頭を下げる。
「魔王様と目黒様のために、一生懸命頑張ります」
今度は阿部の顔が止まった。
「……めめ?」
渡辺もすぐに反応する。
「めめが何かしたの?」
龍崎が答える。
「我々は」
「魔王様より、御三方をお守りするよう命じられております」
「魔王?」
阿部が聞き返す。
「はい」
「俺じゃなくて?」
「以前の魔王様です」
「そっちか」
深澤が。
「魔王様二人いるからややこしいな」
と呟く。
渡辺はまだ引っかかっているらしい。
「で」
三人を見る。
「なんでそこにめめが入ってるの?」
龍崎たちは。
少しだけ困ったように顔を見合わせる。
「詳しいことは存じ上げません」
白井も頷く。
「魔王様からは、御三方を守るようにと」
鬼頭が続ける。
「そして、目黒様のお役に立つようにと」
阿部の眉間に皺が寄った。
「……めめ、何したの」
渡辺が。
「絶対なんかしたじゃん」
と言う。
深澤も。
「今日帰ったら聞いた方がいいね」
「うん」
そこへ扉が開いた。
「すみません、お待たせしました」
マネージャーが戻ってくる。
阿部たちは。
何事もなかったように前を向いた。
龍崎たちも。
一瞬で普通のマネージャーの顔へ戻る。
その切り替えが妙に早かった。
阿部は。
余計に怪しく思った。
その後。
三人は予定通り雑誌の撮影へついてきた。
そして。
初日とは思えないほど仕事ができた。
「阿部さん、お飲み物です」
「ありがとう」
白井が、阿部の欲しいタイミングで水を持ってくる。
「渡辺さん、次こちらです」
鬼頭は、次の撮影場所や時間を正確に把握している。
「深澤さん、こちら荷物持ちます」
龍崎は、大量の荷物を何でもないように一人で持つ。
深澤が思わず見る。
「重くない?」
「全く」
「……ドラゴンだもんね」
小声で言う。
龍崎も小声で。
「はい」
と答えた。
「認めるんだ」
撮影中。
白井はスタッフの動きを先回り。
鬼頭は忘れ物がないか確認。
龍崎は移動時に周囲を見ながら。
自然に三人を囲むように歩く。
渡辺が待ち時間に阿部へ小声で言った。
「仕事できすぎじゃない?」
「ね」
「初日だよね?」
「多分」
深澤も会話に入る。
「魔物の方がマネージャー向いてる可能性ある?」
渡辺が。
「もう何でもありじゃん」
と呆れた。
撮影は予定より少し早く終わった。
「お疲れ様でした」
三人でスタッフへ頭を下げる。
帰りは。
龍崎が運転。
白井が助手席。
阿部、渡辺、深澤は後ろに乗った。
運転もものすごく丁寧だった。
阿部がぼそっと言う。
「ドラゴンが車運転してる」
龍崎が前を向いたまま答える。
「人間の世界では必要かと」
「免許あるの?」
「取得しました」
「いつ?」
「この世界へ来てからです」
渡辺が。
「早くない?」
と突っ込む。
白井が振り返る。
「皆様のお仕事に支障が出ないよう、必要な資格や業務はすべて勉強いたしました」
深澤が。
「真面目すぎる」
と笑う。
「魔王に言われたから?」
「はい」
三人とも。
迷いなく答えた。
「魔王様のご命令ですので」
阿部は。
窓の外を見ながら少しだけ笑った。
夢の中では。
一緒に世界を平和にしたり。
人間になりたいと言ったり。
そんな魔物たちが。
今は自分たちを仕事場へ送り迎えしている。
本当に何が起こるか分からない。
車は魔王が建てたマンションへ着いた。
地下駐車場へ入る。
龍崎がいつもの場所へ車を停めた。
「到着いたしました」
「ありがとう」
阿部たちが降りる。
白井と鬼頭も。
荷物をまとめて降りた。
龍崎が車の鍵を閉める。
そして。
三人揃って深く頭を下げた。
「本日もお疲れ様でした」
「お疲れ様」
阿部が返す。
渡辺も。
「お疲れ」
深澤も手を振る。
「明日もよろしくね」
「はい」
三人はそのままマンションの入口へ歩いていく。
阿部も普通に後ろをついていこうとして。
途中で深澤が止まった。
「……待って」
全員が止まる。
深澤は龍崎たちを見る。
「何でそっち行くの?」
龍崎が首を傾げる。
「帰宅します」
「帰宅?」
「はい」
深澤がマンションを見る。
「ここに住んでるの?」
三人は揃って頷いた。
「はい」
阿部も。
「え?」
と初めて驚く。
龍崎が説明する。
「魔王様に家賃をお支払いして、住まわせていただいております」
白井も。
「私たち三人とも同じマンションです」
鬼頭が。
「皆様と階は異なりますが」
と付け足す。
渡辺がしばらく無言で三人を見る。
「……魔王」
「はい」
「大家もやってるんだよね」
阿部が答える。
「うん」
「魔物まで住ませてるの?」
「知らなかった」
「しかもマネージャーとして雇われてる」
「知らなかった」
深澤が。
「夢の世界の就職支援までしてるじゃん」
と笑う。
白井が。
「人間の世界で働くことができて光栄です」
鬼頭も。
「住居までご用意いただき、感謝しております」
龍崎も。
「魔王様には大変お世話になっております」
全員本気だった。
阿部は少しだけ考える。
以前の魔王。
人間の世界でも旅行したい。
そのためにマンション経営を始めた。
そこに。
夢の世界から連れてきた魔物を住ませ。
家賃まで取る。
「……ちゃんと経営してる」
深澤が笑う。
「意外と大家向いてる?」
渡辺は笑わなかった。
じっと阿部を見る。
「あべちゃん」
「何?」
「今晩」
渡辺が真顔で言う。
「めめに事情聞いた方がいい」
阿部も少しだけ真顔になる。
「……だよね」
どう考えても。
目黒が何かを知っている。
いや。
下手をすると。
何かを頼んだ。
阿部は自分たちの部屋がある階を見上げた。
今頃。
目黒は帰っているだろうか。
「帰ったら聞こ」
深澤が。
「俺らにも結果教えてね」
と言う。
「うん」
渡辺が。
「絶対だよ」
と念を押す。
その横を。
龍崎。
白井。
鬼頭が。
何事もなかったように歩いていく。
「では、また明日」
「お疲れ様でした」
「失礼いたします」
三人は。
それぞれ。
住人用のゲートへ顔認証をして中へ入っていった。
阿部たちはしばらくその背中を見送った。
そして。
深澤が小さく呟く。
「……馴染みすぎじゃない?」
渡辺が頷く。
「それ」
阿部も思わず笑った。
夢の世界から来た。
ドラゴン。
スライム。
ゴブリン。
その三人が。
人間の姿で。
同じマンションに住み。
明日から。
自分たちのマネージャーになる。
そして。
その裏には。
どうやら目黒がいる。
阿部は。
エレベーターへ向かいながら小さく息を吐いた。
「めめ……何したんだろ」
今夜。
聞くことが一つ増えた。
コメント
1件
「ドラゴンって言った時点で分かった」って阿部くんの切り返しが最高でしたね。自己紹介で噛んだ龍崎に「緊張するとそこ出るんだ」って返すのも笑ったし、スライムとゴブリンを見抜く目はさすが魔王様。それにしても、まさか魔王が大家業までやってるとは…夢の世界の就職支援、しかも魔物が人間社会に馴染みすぎてて面白い。目黒が何をしたのか、次が気になります。