「席に着け、授業を始める」
教材を片手に自由に席に着いている生徒達。四季は8人の顔色を見る。
昨日の体力テストでは自分がやり過ぎたのではと思っていたものの、若い子供たちは元気なようで寝て食ったら元気になったようだった。
安堵を顔に出さずに四季は点呼を取り始める。
「一応聞くけど、お前らはこの教科書どこまで理解できる?」
数学の教科書を片手に掲げて首を少し傾げながら無陀野達を見つめる。
「無陀野、お前は?」
「読めば大体理解できる」
「ふっ……そうか」
無蛇野の生意気且つ自己を理解しているからこそ言える言葉に四季は片方だけ口角を上げた。
「花魁坂は?」
「50ページまでですかね…」
「淀川」
「あぁ?…チッ、花魁坂と同じだ」
今日はクソ教師と言わないのか…なんて思いながら思春期か〜と内心でニヤつく。
「並木度達は?」
「僕も同じぐらいです」
並木度に賛同するように、俺も俺もと紫苑や猫咲達が手を挙げた。
「お前らは利口だな」
ペラペラと教科書を捲り、学生時代の自分を思い出しながら、何も写さない表情でそれだけ告げた。
たった1日でも不器用に協力して、同じ釜の飯を食べて大浴場に浸かる。それだけで関係性は緩く作られる。
いっそのこと自分の悪口でも言って意気投合してくれればより関係が深くなれるのに…
とどこぞの戦闘部隊隊長をしている黒マスクのアイツに聞かれたら「自己犠牲にもほどがあんだろ、バカ四季」なんて罵られてしまいそうだ。
「まぁ今日は鬼と桃に関しての基礎知識を教える」
「ノートとか取る必要はないから話だけは聞いておけ」
四季の言葉に返事は無いけれど、学生時の自身のように寝ていたりしないだけ良い。その考えを自覚して生徒に甘い部分を悟られないようにと口を真一文に閉じた。
「お前達でも鬼と桃の関係性は知ってるだろ?」
黒板に白い字を連ねながらずり落ちてきた眼鏡を押し上げる。生徒には眼鏡と長めの前髪で四季の顔は上手く見えていないだろう。
「対立関係にある、という事ぐらいだな」
「鬼をクズと思っている桃太郎がいるらしいな」
「なんか一般市民巻き込んだりするって聞いたような…」
「乗り越えがたい壁…ゴホッ、高い壁は乗り越えるしがいがあると言う事だ!」
「バチバチなんっすよね〜」
「政府と繋がってるクズども」
口々に言い出す答えを聞けば桃太郎への恨みと客観的な状況把握力が垣間見える。
幼子にそれほどまでに強力な呪いを大人達は子供が知らない間に種子を植え込んだ。
その事実は四季にとっては自分の力が及ばないことを強く憎んだ。
下ろされた手に爪が食い込んで血が滲んでしまうほどに。
「…半分正解、だな」
「現状の関係としては、和平に向かっているとでも言おうか」
ジッと見つめてくる生徒達の純粋な目から逃れるように四季は背を向けた。
「今桃太郎には、過激派と和平派で分かれてる」
「過激派は今も攻撃を仕掛けてきたりするけれど、和平派は暴走した鬼を止める研究を進めたりしているそうだ」
まぁ、知り合いに聞いた話だけど。と四季は付け足す。
(桃太郎に知り合いでも居んのか?)
肩肘を突きながらも真澄は真っ黒な目で眼鏡の奥の目を見つめる。けれども上手く見えない。真意が測れない担任に真澄は小さく舌を打った。
「朽森」
入学から3日後、教室に入ってきた四季は最後尾に座っていた紫苑を呼んだ。
「なんすか〜四季先生」
「お前は明日から俺と同室な」
突如教室に響いた学生にとっての死刑宣告の言葉に「地獄行きお疲れ様…」という空気が広がった。
数日間花魁坂と並木度は四季を観察していたが先日見たあの優しい教師はどこへ行ったのやら、翌日には厳しく冷たい教師へと戻っていた。
(あの日のことは夢じゃないよね…)
「なんすかぁ…俺なんもしてないっす」
紫苑は口を歪めて不機嫌だと言うことを隠さずに文句を言い出した。
「女子生徒及び女性教員からナンパによる相談がこの3日で5件以上出ている」
四季がバインダーを眺めながら冷たく答えた。
「えっ」
「3日で?」
「5件以上も??」
「終わってんな」
「すごいですね…」
「紫苑…青春を謳歌しようとする心意気はgoodだ!」
花魁坂、並木度、淀川、猫咲、印南の順で紫苑に冷めた目で見ながら吐きかける。
無陀野と大我に関しては絶句して声も出せないでいる。
「なんも悪いこと無いじゃないっすよ〜」
「ってか先生とおんなじ部屋って地獄じゃないっすかぁ〜」
「…お前に似た奴が同期にいたな」
(まぁ、また今度会えるだろうけど)
はぁ、と息を吐いて四季は教壇に立つ。
「今回はそいつに免じて許してやる…」
「次そう言うことをしてみろ、俺と同室にするからな」
「はぁーい」
眼鏡の同級生を思い出し校外学習の準備を進める。
「明日校外学習で、練馬に行く」
紫苑のことで騒ぐ生徒に四季はそれだけを伝えた。
「東京!」
「よっしゃ」
「朽森に似た奴に会えるぞ」
紫苑のことから急に東京に興奮へと騒めきが変更する。賑やかな教室に四季の声が響いた。
こじんまりとした個人商店の本屋に変装した生徒達が集まる。
カウンターに座っている眼鏡の男性に四季は一冊の本を手渡す。
「包みは?」
「間に合っている」
その答えを聞いて小説から顔を上げた眼鏡は四季を見て笑う。
「久しぶりですね、四季君」
「おう、久しぶりだな遊摺部」
「また眼鏡屋教えてくれ…俺の使い方が荒いからかフレームが劣化してきてる」
「もちろん」
「あの〜質問良いっすか?」
「もちろんですよ」
紫苑の口調に何も言わない遊摺部は地下を歩きながら話す。
「ここって何なんすか?」
「…なんかこの話し方昔の四季君思い出すね〜」
「…俺は変態じゃねー」
紫苑を一瞥した遊摺部は横にいる四季に向けてにっこり笑う。それに紫苑は飽き飽きしたように反抗する。
「俺は変態じゃなくて女の子を平等に愛してるだけですぅ〜」
「紫苑の彼女って今何人だっけ?」
「今は3人だな」
練馬区の隠れ家の廊下に真澄の舌打ちが聞こえた。
「ここは練馬区の鬼機関隠れ家」
「お前らに会わせたい奴がいるからな…」
「…皇后崎は?」
「先に会議室に行ってもらってますよ」
前を歩く担任の背中を見ながらも猫咲は隣を歩いている並木度に囁く。
「なんか僕たちと接してる時と対応が少し違う気しません?」
「うん、やっぱり思ったよね」
「雰囲気が柔らかいな」
「口調がちょっと優しげだよね」
「猫と同じで被ってんのか?」
「臨機応変に対応出来る能力は、尊敬をする!ゲホッゴホッ」
「何か冷たくする訳があるんだろうなッ!」
「印南、百鬼ボリュームは下げろ」
後ろを振り向きもせずに四季は背後に投げかける。
「皇后崎くん遅くなってごめんね〜」
「大して待ってねぇよ」
「いつのまにか皇后崎は丸くなったな」
「ウルセェ、四季」
ツギハギの傷と黒マスクが特徴的な切れ長の鬼を見て四季は懐かしように悪態をついた。
「順に並んで座れ」
「全員座ったら紹介するから」
「…コイツは俺の同期の皇后崎迅」
「練馬の戦闘部隊隊長」
「…よろしく」
「さっきも聞いただろうけど、眼鏡の遊摺部従児」
「同じく練馬区の偵察隊隊長」
「どーも」
四季に親指で指されながら、にっこりと笑う遊摺部に反して皇后崎の顔は冷たい。まぁ、担任よりは優しいか…と心の声が揃う生徒。
今では花魁坂と並木度もあの日に見た優しい教師は何か事情があったのか、気のせいだと思うことにした。
あれっきりそんな様子は全く見えないのだから。
「それで…」
四季の声を遮るように着信音が会議室に響いた。相手は校長。無視する訳にもいかないから遊摺部と皇后崎に片手を上げてすまんと謝りながら四季は一旦退出した。
「四季君は、どんな先生ですか?」
遊摺部は優しく笑いながら聞いた。
「…厳しい。だな」
「よくわかんねぇやつ」
「感情が見えないしねぇ…」
「時々良い奴かと思う時もあります」
「…クソ教師」
「厳しい先生ですね…やっぱり」
「女っ気もねぇし、絶対童貞だな」
「絶対的な強靭さに憧れはするなァ!」
「乗り越えるための壁を創造している。」
「四季君散々な言われようだね…」
「自業自得だな」
苦笑する遊摺部と鼻で笑う皇后崎を見てふと思った。
(自分の同期が色々言われてるのに何も思わないのか…)
目の前の2人に呆れたような思いを抱いた。
「アイツは…四季は鬼神だ」
「炎を司る、炎鬼」
「?」
「これだけは覚えておいてください」
「たとえ幾ら君たちが四季君を嫌ってても、四季君は君たちを絶対に守ってくれるよ」
「…それに四季君は俺たち同期の中で、誰よりも優しい鬼だよ。」
第二話にして世界線の説明、1話目にやれよって話ですよね…
鬼と桃は和平に僅かながらでも進んでいる。それでも鬼を殲滅しようとする桃はまだ多く存在している( 和平 : 過激 = 6 : 4 )ぐらい
殲滅しようと襲ってくる桃から、鬼及び市民を守る為にも未だ羅刹は生徒を教育している。
桃と政府の関係は未だ繋がっているものの、過激派以外の桃は基本既に繋がっていない。
偵察隊は鬼の隠れ家、住処の確保兼潜んでいる過激派の拠点捜索。
戦闘部隊は隠れ家住処の保護兼戦闘。
練馬区
戦闘部隊 隊長 皇后崎 迅
偵察部隊 隊長 遊摺部 従児
杉並区
戦闘部隊 隊長 矢颪 碇
戦闘部隊 副隊長 漣 水鶏
(ロクロに副隊長の話が上がったが、漣の「お前は私に守られてろ♡」と言われて漣が副隊長に)
戦闘部隊 副隊長 補佐 手術岾 ロクロ
(漣が勝手に作った役職)
京都
援護部隊隊長 兼 保健医 屏風ヶ浦 穂希
援護部隊 副隊長 芽衣
羅刹学園教師
一ノ瀬四季
基本的に鬼神の力を使わないようにと皇后崎達に釘を刺されているから使わない
自己犠牲の塊
生徒には嫌われるのは悲しいけれども、それで生徒同士が仲良くなるなら良いかと割り切っている。竹かよ…
生徒には卒業したら生徒達が仲良く飲み会を開いて欲しいと願ってる。
生徒卒業までに和平を済ませたいし、手を汚させないと誓ってる。でも強くなって欲しいから自分の手でボコボコにしている。
本音を言うなら生徒だった時みたいにわちゃわちゃしたいし、仲良くもしたい。けど一線を引いた外側で見ている。
生徒や仲間の為ならば寿命を容赦なく削る。
桃太郎機関 和平派
神門
月詠
桜介
唾切
旋律
右京
ぐらいかな…
この次回から和平組の桃×四季要素も含まれますので苦手な方はブラウザバックを推奨です…
コメント
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竹は草生えるww割り切ってますねぇww