「…それに四季君は俺たち同期の中で、誰よりも優しい鬼だよ。」
遊摺部の言葉を聞いて生徒は一同に「何言ってんだコイツは…」なんて思った、紫苑に関しては声に出している。
「なんて言っても…わかんないよねぇ〜」
「四季君不器用だねぇ〜w」
ケラケラと笑っている遊摺部と再度鼻で笑った皇后崎。
「慕われてねぇな、あのバカは」
「まぁ…一ノ瀬先生の強さは折り紙付きだな」
無陀野は顎に手を当てながら入学当初の体力テストの時を思いかえす。
「確かに、アイツは強い」
「不憫なぐらいにな」
何かを含んだ皇后崎言い方に違和感を感じて、口を開いたものの一足早く会議室の戸が開いて四季が帰ってきた。
「遅くなった」
「おかえり〜四季君」
「どこまで進んだ」
帰ってきた四季は遊摺部の隣にドカリと腰掛ける。必然的に生徒達とは向かい合うようになってしまう、四季の正面に座るのは印南。
これほど近くで四季の顔を見たことがないからと少したじろいでいる。
(一ノ瀬先生は、何を思っているのだろうか…)
「さっきまで四季君の先生姿を聞いてたとこだよ〜」
「…聞いても楽しいもんじゃないだろ」
辟易したように言った四季。けれどもその顔が印南には少し緩んでいるように見えた。
「遊摺部の能力は並木度と似ているから、コツでも学ぶと良い」
「皇后崎には血の使い方を知れるはずだ」
「ここには3日程度滞在する」
「以上」
必要最低限のことだけをさっさと伝えて四季は会議室を後にした。
「あ〜、これは確かに厳しいね…」
「…だな」
「四季君?」
「いる?」
四季が泊まっているはずの部屋をノックした遊摺部は反応が返ってこないことに疑問を持つ。
「開けるよ?」
扉を引いて中を覗いても、四季の姿は見当たらなかった。
部屋は整っていて、布団に熱もない。
「どこ行ったんだろう…」
「あ、皇后崎くん」
「遊摺部…どうした」
ガラリと廊下に出ればちょうど皇后崎が通ったからと声を掛ければ、居場所を知らないと首を振られる。
「…あ」
嫌な予感がすると、皇后崎は顔を顰めた。
「一件だけ、東京郊外で桃太郎との抗争があった…」
「人員も足りていると四季に言ったけど…いやまさかな…」
「流石としか言いようがないね…」
「無陀野君たちいる〜」
就寝時間手前、8人雑魚寝をする狭い部屋にて雑談をしていた所でドアが思い切り開けられて遊摺部が登場する。
「課外学習したいでしょ?」
「就寝時間が近い」
「四季について知りたいなら来い」
一度無陀野が断ったものの遮るように皇后崎が口を挟む。
「……その様子じゃ全員参加だな」
砂煙の中で血と銃弾が飛び交っている、その中で背後に鬼を庇いながらも壁や床に跳弾するように弾丸を撃っている四季が見えた。
「一応距離は離れてるけれども、危ないから此処で見ててね」
「あのど真ん中にいるのが四季だ」
最低限の弾丸で最大限の攻撃を繰り返す。
殺しはしない、けれども戦闘不能に追い込んでいく。
「……終わったな」
最後に残っていた1人を撃ち抜いた。銃声の音が戦場だった更地に悲しいほどに響いていた。
瓦礫を退かして倒れている鬼を抱えて援護部隊の所まで連れて行く。
1人を連れて行ったら、また1人と。行って返ってを何十往復を繰り返した。
「…笑ってんな、あのクソ教師」
遠目で見てもわかる。俺たちには一度も向けたことのない笑い方、優しいの手本でしかない笑い方。
明朗快活に笑う顔は知ってる担任の知らない顔だった。
「羨ましくなっちゃっいました?」
横で頬に手を着きながら遊摺部は笑った。生徒達の少し不機嫌そうなその顔を見ながら。
「「「…なってねぇ/ない」」」
揃った声を聞いて笑った。無陀野達が少しは四季に心を開いているのでは…と思う。
「!あれ、桃か?」
大我が指差す先には、怪我人を運び終えた四季の向かい側から白いスーツの2人組が歩いてきた。
「あぁ、和平派の桃だから安心して」
「練馬区管轄の桃太…ってまた始まった…」
遊摺部の声を遮るようにドッ、と鈍い打撃音が響いた。引いてきた土煙が再度舞い上がる。
「…えっ?マジで?和平派なの?」
アレで?と顔を引き攣らせながら皇后崎達の顔を二度見をする紫苑。
「あぁ…一応な」
「アイツと闘うことを条件に和平派に入った」
「黒髪の人が桃角桜介」
「紫のが桃華月詠」
「一ノ瀬ぇ!!」
声よりも先に拳が飛んできた。掌で受け止めれば桜介は楽しそうに笑う。
「桜介、また来たのかよ!」
「お前がこっち来てるって聞いてな!」
「誰にだよ!!」
生徒には向けられない口ぶりで桜介に叫ぶ。大鎌を振り回している桜介を蹴り飛ばせば横からは幾多の剣が飛んでくる。
噛みちぎった指から流れる血で銃で、撃ち落とす。
「桜介が矢颪君からだよ」
「矢颪君は皇后崎君から」
戦車が細菌で造られる距離を大きく取って四季も銃を構える。
『銃葬神器』
大砲の1発を、スナイパーライフルで撃ち壊す。
「ったく、矢颪に後で文句言わなきゃじゃねーか…」
困ったように四季は笑う、一通り暴れきった月詠達は砂埃を払う。
「四季君には本当敵わないなぁ…」
「なぁ、月詠…手合わせの頻度高くないか?」
桜介に手を伸ばして、立ち上がらせながら隣の月詠に話しかける。
「現状でも足りねぇな」
「本当だよ、君が戦ってくれるって言うから僕たちは和平派に入ったんだよ」
「それは分かってる…」
「ってか今でも足りないのかよ…」
外していただいた眼鏡を付けながら眉間に皺を寄せる。
「足りねぇな」
「桜介には耳、月詠には口あげただろ…」
「この傷ね」
呟いた四季の口を正面から月詠が、欠けた耳を桜介が後ろから撫でた。その顔は恍惚としている。
(治せるはずの傷を君は治さないんだね…)
「治すなよ、これ」
「治さねぇよ」
「…うわぁ、急に近いね…四季君にベタベタと触れてるし…」
「ちょっと1発殴ってくるので、ここで待っててください」
「はぁ!?」
「お前は月詠を殴れ、俺は桜介をボコす」
「ちょ!!」
急に制御が効かなくなった大人2人を大我と無陀野が羽交締めにし、動かないように押さえつける。
それでも力の差は歴然で8人全員が全力で引き止めようとも、引き摺られてしまう。
「ちょ、止まってください!!」
「一ノ瀬先生にバレるだろ」
「どうせもう気付いてんだから意味ねぇよ」
「良いから、落ちついてくださいよ!」
「…四季君の生徒かい?」
口から手を離しタロットカードで背後の屋上を指す。
さっきから声が聞こえていた屋上をレンズ越しに見つめれば、生徒を引き摺りながら歩く2人。
「皇后崎と遊摺部だな」
「生徒も連れてきやがって…」
訝しげに短く舌打ちをした後に、気付いていないように目を逸らす。
「楽しくもなんともねぇもん、見せなくて良いだろ…」
「生徒には優しくしてやってんのか?」
耳から手を退けて覗き込むように声をかける桜介に向かって四季は軽く笑った。
「それは俺の仕事じゃねーよ」
「俺は嫌われ者のヴィランでいいんだよ」
屋上とは逆側に歩き出している四季に月詠は呼びかける。
「君にその役は向いてないと思うよ」
「俺以上の適任はいねーだろ」
「自分で言うのもアレだけど、強いし」
「1番死線の近くで生きてんだ」
「ハッ…自己中心も良いとこだな」
腕を頭の後ろで組んで皇后崎達を掴む指揮の生徒を見る。
(アイツらはいつコイツの優しさに気付くんだろうな…)
「四季くん!」
既に背中が遠ざかっている四季の背中に月詠は再度声をかける。
「ミョリンパ先生の占いでね、君に『知られたくないことが露見する』って出ていたんだ」
「ラッキーアイテムは『紫髪』だそうだよ!」
「…何が言いたいんだよ」
「僕も羅刹に連れてって欲しいな!って」
ちゃっかり四季の後ろを着いて来ようとする月詠に目を大きくする桜介。
「紫髪は既に居るから良いわ」
「え〜、連れないなぁ…」
「まぁ占い自体は本当だからね」
背後から聞こえる月詠の声に片手を振りながら練馬区の拠点に足を運んでいく。
「露見する…か」
生徒に言っていない事は片手では数えきれないほどある。そのどれが露見するのか、四季には知るよしもない。
(5分だけ、コンビニにでも行くか…)
その5分でアイツらがどこまで戻れるかは不明だけれども、皇后崎達が着いているから大丈夫か。と全幅の信頼を寄せる。
(説教なんてできる限りしたくねぇしな…)
第3話目
桃源暗鬼アニメリアタイしてたら投稿するのが遅くなっちゃってました…面目ない…
四季君の傷の秘密に着いてでした…
今回題名にした『三為契約』とは、
主に不動産にて使われる用語ですが、ザックリとした意味としては『第三者の為にする契約』の略語となります。
今回では
『第三者』=『市民、及び隠れて生きる鬼や桃』
『契約』=『耳と口の傷+四季と定期的に戦闘するのを条件に、和平派に入る』
と言う解釈をしていただければと思います。
コメント
43件

めっちゃ続き楽しみ 明日にでも続き見たい