テラーノベル
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私の手から広がった光はそのまま周囲に散らばり、地面に落ちていき、そして大地に触れる瞬間、それぞれが大きく形を変えた。光の粒一つ一つが人の形になっていき、そしてすぐに鮮明な輪郭を形作る。それは見るからに王族だったり、使用人だったり、立派な軍人だったり。時代すら超越した様子で、多種多様だった。
「いたぞ!! あそこだ!」
声のほうを見ると、複数の衛兵が庭園に入ってきたところだった。私の脱走を見つけて捕縛に来たのだろう。庭園の入り口はそこだけで、私に逃げ場はない。
私はそう思っていたのだけど、そうはならなかった。私を捕縛しようとする衛兵を、現れた霊たちが次々に倒していく。衛兵たちは霊に触れることができず、それは一方的な戦いだった。
『……リティア、行きなさい。アウレリアのところへ』
髭を蓄えた王の霊がそう告げた。私は庭園を出て、指さされた方向へと走っていく。途中何度か行く手に衛兵が現れたけれど、それも霊たちがあっという間に押しのけてしまう。
そうして城の中を下に進み、何度か道を曲がったところで、私の前には今会いたくない人が立ち塞がった。
「……オーディア」
「リティアさま。アウレリアさまのために、あなたのその力をお貸しください。辺境暮らしからあなたを救い出した我が主、アウレリアさまのために……」
オーディアは私に手を差し伸べた。だけど私がその手を取ることはない。
「アウレリア……には、感謝してることもたくさんある。でも……戦争のために、協力はできないわ」
「……アウレリアさまを呼び捨てにするなど――あまりに不敬です」
オーディアが地面を蹴る。数歩で目の前に達する。抜き去った刃の煌めきが見える。
――でも、それは私に届かなかった。
「――間一髪! 間に合った~!!」
オーディアの一撃を、エリィさんがナイフで受け止めていた。
「エリィさん! 無事だったんですね!」
「なんとかね~! リティアは早く逃げて。下にルクスさまが来てるから。私はこの人にちょっとお礼をしてから合流するよ」
頷いて、オーディアの脇を抜けていく。
「さあ、第二ラウンドといこうか!」
◇ ◇ ◇
ルシウスに迫った刃を、白く光る衛兵たちが受け止めていた。ルシウスは状況を受け止めきれず、一瞬その場に立ち尽くす。
『ルシウスさま! 今のうちに城へ。早くアウレリアを!!』
霊の声が、確かにルシウスへ伝わる。ルシウスは兵士たちを引き連れ、王城へと突入した。
城に入ると、今度は白く光る使用人たちがルシウスへ道を案内した。ルシウスは城の構造を覚えていたが、今どの部屋にアウレリアがいるかまでは分からない。そんな疑問に答えるかのように、使用人たちは行くべき方向を指し示していく。
斬りかかってくる衛兵を兵士たちがいなし、一人また一人と、連れ添う兵士たちが減っていく。やがてルシウスは一人になった。白き兵士に導かれ、ルシウスが道を曲がると、そこでは大柄な人物が道を塞いでいる。
「……ルシウスさま。これ以上、先には行かせられません。どうかお引き取りを……」
「それは聞けぬ願いだっ!!」
走った勢いを乗せて、ルシウスがデュランダルで男――ローブルに斬りかかる。しかしそれを、ローブルは軽々と受け止める。
デュランダルを押しのけ、ローブルは何度も斬りかかってくる。大ぶりな動きで対処はたやすかったが、その一撃一撃は重く、まともに食らえば致命傷になりかねない。ルシウスは焦りをにじませた。その一瞬の隙を見逃さず、ローブルの一閃がルシウスに迫る――
「――ルシウスさま! 意識を逸らしてはいけませんっ!」
ローブルの一撃を、アドレーがなんとか受け止めていた。すぐにアドレーが斬り返し、ローブルがやや距離を取ってくる。アドレーはルシウスの前に立つと、前を向いたまま小声で告げた。
「ルシウスさま、今アウレリアは執務室にいません。別の場所を探してください。ここは私が……」
「すまない、頼む。……負けるなよ」
主の苦しげな表情を、アドレーは微笑みで笑い飛ばす。次の瞬間、アドレーはローブルとの距離を一気に詰めると斬りかかり、ローブルをそこへ釘付けにする。その隙に、ルシウスは二人の脇を一気に駆け抜けた。
◇ ◇ ◇
エリィさんにああ言われて、私は逃げる気になったけど、でもそれは一瞬だけだった。逃げるのはいつでもできる。でもアウレリアを止めることは、今しかできない。
私の思いを受け止め、霊はアウレリアのところへと案内してくれた。王城の中を進み、私は謁見の間へと足を踏み入れる。中にはアウレリアと魔術師らしき人が数人。良くないことをしようとしていることだけは分かる。
私はそこで祈る。私の願いに応じて、白き王国の兵士が地面からすっと現れ、魔術師に斬りかかった。服を切りつけられ、魔術師たちは散り散りになる。うろたえる魔術師と白き兵士、そして私を見て、さすがのアウレリアも動揺しているように見えた。
「くそっ!! リティアか! なぜここに!!」
私を守るように取り囲む白き兵士を見て、アウレリアははっとした表情を見せる。
「まさか……能力を完全に、制御しているのか! いつの間に、そんなことを……!」
アウレリアは剣を抜き、霊を攻撃しようとするが、刃は兵士の体を通り抜けた。無駄だと分かっても、アウレリアは何度も剣を振るう。
「なぜ……何故だ! なぜ私の邪魔をするっ!! リティア!」
兵士たちはアウレリアと魔術師たちを取り囲み、じりじりとその距離を詰めていく。
「やはりお前など……早々に能力を使って、従順にしておくべきだった!」
アウレリアの能力……おばあちゃんが言っていた力のことだろうか。
「くそっ、くそ……!! リティア、こいつらをなんとかしてくれ! ……一度、話し合おう!!」
「……では戦争のこと、今一度考え直していただけますか?」
まだそんなことを言うのかと、アウレリアの表情が雄弁に語っていた。
「ちっ、くそ! あああああっ!! リティア、リティア……リティアアアアァァ――ッ!!」
アウレリアは兵士たちを突破し、私との距離を詰めてきた。今、私の周囲に兵はいない。恐ろしい形相でアウレリアは剣を振り上げ、そしてそれを――
――ルシウスが、光を放つ剣で受け止めた。
「リティア、無事か!?」
「っ、はい!」
そのまま、アウレリアはしゃにむに剣を振るう。怒り任せでありながら、その攻撃には力が乗っていて、まったく油断できなかった。それをルシウスが繰り返し、受け流す。
「お前は、誰だ……!? その剣、王族には違いないようだが……!」
「私はルシウス・グラッド・バーディナルム・エスティ・ドミナティオ!! ドミナティオ王国第三王子だ!」
「ルシウス……あのルシウスかっ! 国内を放浪しているとばかり思っていたが……こんなときに戻ってくるとは!!」
剣戟はやはり戦い慣れしているルシウスのほうが、有利に見えた。一度二人から距離を取ろうとすると、その奥にあの魔術師たちが見えた。兵士たちに拘束されていると思っていた彼らは魔術を駆使し、次々と兵士たちを消滅させていく。そして全員が床に手を触れると、合唱するように複数人で詠唱を始めた。触れる床には、巨大な魔方陣が描かれていて……。あれ、どこかで見たような……。
その光景を見て、アウレリアが高笑いをする。
「はははっ!! ルシウス、こんなことをしていていいのか! もうすぐ魔方陣が起動し、そしてこの戦争は私が勝利を収めることになるぞ!」
「たかが魔方陣が、何だと言うんだっ!!」
「あれが起動したら、私の忠実なる家臣がコンソルテ王国の玉座の間へ転移する! そうしたらもう止められないっ! リティアの力も使って、ドミナティオ王国の勝利を勝ち取るのだっ!!」
余裕のある態度を崩さないアウレリアを見て、ルシウスはやや動揺したように見えた。アウレリアはその隙を突き、攻勢を激しくする。ルシウスに部があった戦いは、アウレリア優位に傾いていく。何度も危ない一撃が続く。何か……今私にできること。ルシウスを勝たせるために、私に今何ができる?
私は視界の端にあった甲冑に向けて走った。謁見の間に飾られていた甲冑から剣を奪い取ると、慣れないそれを低く持って二人のところへ走る。ルシウスが突き放したタイミングで、私はアウレリアに斬りかかる。
「やああああっ!!」
攻撃はすぐに剣ではじき返されてしまうけれど、それに合わせてルシウスが一撃を加えた。アウレリアは一度引いて、ルシウスと距離を取る。私は自然と、剣を握ったままルシウスの隣に立った。今は時間をかければかけるほど、アウレリアの勝利に近づいていってしまう。短時間でこの勝負を決めるには、どうすれば……どうすればいい?
にやりとアウレリアが笑ったそのとき、私の耳に大量の足音が届いた。それはこちらへ近づいてきて、すぐに謁見の間の扉を開け放つ。
「フィデリー!! やつらを止めろ!」
「はっ!」
部屋へ駆け込んできた屈強な軍人に、ルシウスが命じた。彼は引き連れた部下と一緒に、魔術師の元へなだれ込む。魔術師たちは魔術を行使し、抵抗して見せたが、兵士たちのほうが一歩上手だった。徐々に追い詰められ、魔方陣を起動するどころではなくなっていく。
それを見て、アウレリアは狼狽を色濃くした。ルシウスは好機とばかりに、すぐに切っ先をもたげる。
「ルシウスさま! こちらは問題ありません!! あなた様は、アウレリアをっ!」
「ああっ!! そのつもりだ!」
そこからは、ルシウスの独擅場だった。敗北を予感してがむしゃらに剣を振るうアウレリアを、ルシウスは完全に圧倒していた。剣を振りかぶる彼に向けて、私は叫ぶ。
「ルシウス! 勝って!!」
「はあああああっ!!」
渾身の力を込めた一撃で、ルシウスはアウレリアの手から剣を弾き飛ばす。その勢いのまま地面に投げ出されたアウレリアの鼻先に向けて、ルシウスは切っ先を鋭く向けた。
「……終わりだ」
拘束されたアウレリアに対し、ルシウスはその場で尋問を始めた。
「色々聞かせてもらう前に……お前の能力について、教えてもらおう」
「……気付いていたか。これに気付いたのは、お前で三人目だ」
「御託はいい」
アウレリアはしばらく黙っていたが、アドレーさんが拳を鳴らしたところで観念したようだった。
「私は、私を信頼したものの目を見ることで、そのものに命令を遵守させることができる……」
「まさか、そんな能力が存在するとは……」
「……信じられないか?」
「ああ……だが、そうだな。そんな能力があるなら、有効活用させてもらおう」
私含め、周囲の人間がきょとんとする中、ルシウスはどこかから鏡を持ってきた。
「もし、お前の言うことが本当なら……お前自身にも、その能力は有効なはずだ。さあ、今ここで命令してもらおうか。『お前は今後、嘘をつけない』と……」
ルシウスはアウレリアの顔に、鏡を近づけた。アウレリアは悔しそうな表情を崩さないまま、ルシウスの言うとおりにしてみせるのだった。
◇ ◇ ◇
あれからもう、一か月が経つ。あのときの能力はアウレリアにも効力を発揮したらしく、それ以降、彼は大人しく取り調べに応じた。アウレリアには最も厳しい罰が与えられると噂されていたけれど、彼の父の働きかけもあり、なんとか命だけは助かった。ただその後、そんな彼を国内には置いておけないという話になり、彼はもう間もなく、ドミナティオ王国唯一の島、インスーラ島に送られることになっている。
宰相はすぐに交代となり、王国にはもうすっかり以前の平和が戻ってきていた。私はルシウスの計らいで王城に招かれ、あの庭園へと足を運んでいた。庭園は一部が王族の方々の墓地となっていて、そこにはあの日私を救ってくれたあの人も眠っていた。私はもってきた花束を、墓地に手向ける。
「もう何度も話したことだけど……あの日ここで、あなたのお母さんに会ったの」
「うん」
「私が忘れていた、あなたとのことを話してくれて……そして、ちゃんと全部思い出せた」
「……俺はもう一度君に会って、お礼を言いたかったんだ。……本当に、遅くなってすまない」
ルシウスはそこで一度、言葉を止め、何度か深呼吸する。そして私のほうへ向き直った。私もそれに合わせて、彼のことを見上げる。彼は落ち着いた様子で、続く言葉を口にした。
「ありがとう。君の言葉で、俺は今日まで生き抜くことができた」
私はその言葉をしっかりと受け止めて、そして、私も言いたかった言葉を贈る。
「私こそ、ありがとう。フィーネスで、私の言葉を信じてくれて……。あれがなかったら、今こんなふうに、生きてられなかったと思う」
気恥ずかしさも、すぐに心地よさに変わった。はにかむ私を見て、彼もふっと微笑みを返した。
二人してお墓へ向き直る。
「……これから、リティアはどうするんだ?」
「フィーネスへ戻って、リタのお店をまた手伝おうかなって……ルシウスは?」
「俺はまた、国中を見て回ろうと思う。来たるべきときのために……アウレリアみたいなやつが、また出てきても困るしな」
今ではそのことも、二人して少し笑えるようになってきた。
「……私もそれについていっちゃ、ダメ?」
「危険な旅だぞ?」
ルシウスは私の言葉を予想していたみたいに、穏やかに言った。
「うん、分かってる。でもね……」
告白みたいな言葉を、決意と一緒に口にする。
「私のことを信じ続けてくれたあなたと、この先一緒に生きていきたいの」
ルシウスから返事はなかった。ふと彼のこと見上げると、少し頬が赤くなっているように見える。
私たちの間を風が吹き抜け、手向けた花を空へと導いた。
その花弁を見て、私はその花が昔、彼にもらったものだと、気付いたのだった――
コメント
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一件落着! アウレリアも悪い奴だったけどだからって命までは奪わないのはみけちゃんの優しさが出てて良かった! リティアとルシウスの旅も気になる!
無事ハッピーエンドになりましたね! アウレリアのギフトやばすぎる… まあ、もう嘘もつけないし悪さはできないかな? 王国に平和が戻って良かった✨ リティアとルシウスのその後も気になりますね!