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る ぃ 。
4,288
#すちみこ
みちょ
635
# 『世界で一番、生きるのが下手な君へ。』
いるまside───。
「おい、らん。」
昼休み。
生徒会室のドアを開けると、案の定らんが居た。
山積みの書類。
パソコン。
文化祭の企画書。
予算表。
一人だけ残って仕事をしている。
「……いるま?」
顔を上げたらんは笑った。
けれど、その笑顔は疲れているように見えた。
目の下にはうっすらクマ。
顔色も悪い。
「また一人でやってんのか。」
「大丈夫だよ。」
「その大丈夫が信用できねぇんだよ。」
俺が言うと、らんは困ったように笑う。
「みんな忙しいし。」
「だからって全部抱え込むな。」
「でも……」
「でもじゃねぇ。」
言いながら頭を軽く小突く。
らんは「いたっ」と笑った。
その笑顔を見ると少し安心する。
けれど 俺は知っていた。
こいつは昔からそうだ。
苦しい。
辛い。
助けて。
そう言えない。
全部一人で抱え込む。
誰かに迷惑をかけるくらいなら、自分が潰れた方がいいと思ってる。
文化祭まであと一週間。
らんはさらに忙しくなった。
朝早くから学校。
放課後も生徒会。
帰宅しても作業。
深夜まで仕事。
メッセージを送っても。
『まだ終わってないから頑張るね』
そんな返事ばかり。
俺は何度も言った。
『寝ろ』
『休め』
『誰かに頼れ』
でも。
らんは笑うだけだった。
その日も。
もう夕方だった。
空はオレンジ色。
俺は部活帰りだった。
「……ん?」
歩道の先。
電柱の横。
誰かがしゃがみ込んでいた。
見慣れた髪。
見慣れた制服。
嫌な予感がした。
「らん!?」
駆け寄る。
らんだった。
顔色が真っ白。
息が荒い。
ふらふらしている。
「おい!!」
肩を掴んだ瞬間。
らんの体がぐらりと傾いた。
「っ……!」
慌てて支える。
熱い。
異常なくらい熱い。
「らん!!」
「……いる、ま……?」
か細い声。
焦点も合っていない。
「何日寝てねぇ。」
「え……?」
「正直に言え。」
らんは少し黙った。
「……三日。」
「は?」
「ちゃんと寝れてない……」
「馬鹿かお前!!」
思わず声が出た。
らんがびくっと肩を震わせる。
ああ。
違う。
怒りたいんじゃない。
心配なんだ。
心配で仕方ないんだ。
「……ごめん。」
らんが小さく言う。
その一言で余計腹が立った。
なんで謝る。
倒れるまで頑張ったお前が。
なんで謝るんだよ。
「立てるか。」
「うん……」
立とうとして。
ぐらっ。
また崩れ落ちそうになる。
「無理だな。」
俺はしゃがみ込んだ。
「乗れ。」
「え。」
「おんぶ。」
「だ、大丈夫だよ。」
「全然大丈夫じゃねぇ。」
「でも重いし……」
「お前が?」
俺は吹き出した。
らんは細い。
むしろ軽すぎて心配になるくらいだ。
「いいから乗れ。」
「……。」
「らん。」
少し強めに呼ぶ。
すると観念したように。
そっと背中にしがみついた。
軽い。
本当に軽い。
ちゃんと食ってるのかこいつ。
「……ごめん。」
また謝る。
「謝るな。」
「でも。」
「謝るなって言ってんだろ。」
らんが黙る。
しばらくして。
小さく聞こえた。
「ありがとう。」
「それなら聞く。」
「ふふ。」
背中から笑い声。
少し安心した。
家に着く頃には。
らんは半分眠っていた。
玄関を開けて。
そのまま自分の部屋へ。
ベッドに寝かせる。
「ほら、水。」
「ん……」
両手でコップを持つ。
少し震えている。
俺は隣に座った。
「文化祭終わるまで休め。」
「無理だよ。」
即答。
予想通り。
「副会長いるだろ。」
「でも……」
「他のメンバーもいる。」
「でも……」
「らん。」
俺は額を軽く押した。
「みんなお前に頼ってる。」
「うん。」
「だからって、お前一人で全部やる必要ねぇんだよ。」
らんは黙った。
俯く。
長い前髪が揺れる。
「迷惑かけたくない。」
小さな声。
「迷惑じゃねぇ。」
「……。」
「心配させる方が迷惑だ。」
その瞬間。
らんの肩がぴくりと震えた。
「……ごめん。」
「だから謝るな。」
「でも。」
「俺は彼氏だろ。」
らんが顔を上げる。
少し目が赤い。
「頼れ。」
「……。」
「苦しい時も。」
「……。」
「辛い時も。」
「……。」
「無理な時も。」
らんの瞳から涙が零れた。
ぽろり。
一粒。
また一粒。
「いるま……」
「ん。」
「私……」
声が震える。
「頑張らなきゃって思って。」
「知ってる。」
「みんなの役に立ちたくて。」
「知ってる。」
「迷惑かけたくなくて。」
「知ってる。」
俺は泣いているらんを抱き寄せた。
細い体。
震える肩。
ずっと一人で頑張ってきたんだろう。
誰にも言えず。
助けてとも言えず。
「らん。」
「……なに?」
「お前、生きるの下手すぎ。」
らんが涙目のまま笑った。
「ひどい。」
「事実だ。」
「ふふ。」
「でも。」
俺は頭を撫でた。
さらさらの髪。
「その分、俺がいる。」
らんが目を見開く。
「頼れ。」
「……うん。」
「甘えろ。」
「うん。」
「一人で抱え込むな。」
「……うん。」
今度はちゃんと返事をした。
俺は笑った。
そして額に軽くキスを落とす。
らんは真っ赤になる。
「い、いるま!」
「なんだよ。」
「急にずるい……」
「彼氏だからな。」
そう言うと。
らんは恥ずかしそうに笑いながら、俺の肩に頭を預けた。
その重さが少しだけ嬉しかった。
世界で一番、生きるのが下手な君へ。
どうか覚えていてほしい。
君が苦しい時。
辛い時。
倒れそうな時。
君を支えたいと思っている人は、ちゃんといる。
少なくとも。
俺はずっと、お前の味方だから───。
コメント
1件
「生きるのが下手」って言葉、すごく刺さりました。らんが頑張りすぎて倒れるところ、いるまが「謝るな」って言い続けるところ、どちらもリアルで胸が痛かったです。「迷惑かけたくない」が「心配させる方が迷惑」って返されるシーン、この一言で関係性の深さが伝わってくる。キスのシーンも自然で、甘すぎず、彼氏としての立場をちゃんと見せているのが良かった。第1話から既に二人の空気感がしっかり出ていて、続きが気になります。