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萩原なちち
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「……誰ですか、それ」
「あ、そっちのパターンね。多重人格的なやつ」
「いつきさんの大好きな『可愛い僕』しかいませんよ? だから安心してください」
「……俺は結構好きでしたよ、ブチギレゆうたさん。素直で、泣き虫で、すごく可愛かった」
「……だから、誰ですか、それっ!」
「うわ、照れてる」
残りのカレーを勢いよくかき込んだら、盛大にむせた。
もう……その顔、その声で言われたら、なんだって照れるに決まってる。
「本当に、帰っちゃうんですか?」
「いつきさん、明日はお仕事でしょ? 僕も色々やりたいことができたので、一旦帰ります」
「ゆうたさんのお店、会社までの通り道なのに。……朝、一緒に行きたいです」
ぷくっと小さく頬を膨らませて、年下みたいに甘えてくる姿が本当に愛おしい。
「次のお休みまでに、全部済ませますから。そしたら、ゆっくりデートできるでしょ?」
「え!? デートですか!? 嬉しい!!」
「どこに行きたいか、考えておいてくださいね。僕も考えておくので」
「わかりました! じゃあ、下まで送りますね。タクシーが来るまで一緒に待ちます」
エレベーターを降り、夜風に吹かれながら並んで歩く。
自然と手が重なり、指を絡めて笑い合う。
この人となら、お互いを思い合って、いつまでも幸せでいられる気がする。そしていつか、彼の描く夢にも寄り添って生きていけたらいい。
「俺ね、いつかオールドファッションのショップを出したいんです。ゆうたさんと出会ってから、夢が現実になる未来しか見えてなくて……毎日ワクワクしてるんです」
「いいですね。僕もお店を出す前はそんな感じでした。今はいつきさんに出会って、あの時の気持ちを思い出して……もっともっと頑張らなきゃ、って思ってます」
「それ以上頑張ったら爆発しちゃいますよ? だから、俺でたまに息抜きしにきてください」
「じゃあ、いつきさんも。今度僕の家に来た時は、チキらずに僕のこと抱きしめてくださいね?」
「うわぁ……もう、家帰すのやだわぁ……」
「ふふふっ」
タクシーに乗り込み、手を振って笑顔で別れる。
脳内お花畑? 上等じゃねぇか。
今まで思いもつかなかった色や形が、頭の中からどんどん溢れてくる。早く帰って、これを形にしなきゃ。
本当、僕、いつきさんに出会えてよかった。
あの日、素直になって本当によかった。
……映画を観に行って、お昼は美味しいカレー屋さんとか、いいかもな。
タクシーに乗って少しした頃、スマホが震えた。画面を見ると、いつきさんからのメッセージ。
『デートの日、王道に映画に行って、その後本格的なカレー屋さんに行きませんか?』
「……ほら、やっぱりエスパーじゃん」
思わず緩んでしまった口元を、運転手さんに見られないように、慌てて手で隠した。