次の朝、俺が身支度を済ませてリビングに行くと涼ちゃんはいなかった。まだ寝ているのかと思っていると、玄関で物音がする。
リビングのドアを開いて廊下の先の玄関を覗くと、キャップをかぶった涼ちゃんの後ろ姿が見えた。玄関に座り、靴の紐を解いているようだ。
「涼ちゃん?」
「あ、おはよー若井」
脱いだ靴を揃えて立ち上がった彼が、キャップを脱ぎながらこちらに歩いてきた。
「おはよう。ジョギングしてきたの?」
「うん、近所だけどね。いやーあっちー!水飲みたい」
キッチンに向かう彼について行き、彼がシンクで手を洗っている間に冷蔵庫からミネラルウォーターを出してグラスに注ぐ。
タオルで手を拭いた彼にグラスを渡すとおかしそうに笑われる。
「おれのを入れてくれてたの?優しぃ〜ありがと」
「あ。…ウザかった?」
無意識にやってしまったけど、世話を焼き過ぎたかと少し焦って尋ねる。
「ううん、全然。若井の彼女になる人は幸せだなーって思った」
ふふっと目を細めた彼から発された言葉が胸に刺さる。じゃあ涼ちゃんがなってよ、と口走りそうになって、慌てて飲み込んだ。
話題を変えたくて、 シンクにもたれて水を飲んでいる彼にたずねる。
「急にどうしたの、ジョギングなんて久しぶりじゃん」
「そう、寒くてしばらくできてなかったけど、もう春だしなーと思って。…あと、体力ないとダメでしょ。……付き人とかってなったら」
後半は視線を逸らして決まり悪そうにモゴモゴと小さい声で言う彼に、先程のモヤリとした気持ちが吹き飛ばされた。なんなんだ、この可愛い生き物は…?
「…考えてくれて、ありがとね」
締まりのない顔になっている自覚はあるけど、どうしても頰が緩んでしまう。
「………シャワー浴びて来マス」
飲み終わったグラスをシンクに置いた彼がそそくさと去っていくのを見送りながら、あぁ好きだなと思う。
俺の戯言みたいな提案を社交辞令じゃなく真剣に考えてくれる彼が好きだ。 僅かな可能性でも今できることを考えて動ける彼が好きだ。 それをちゃんと言葉にして伝えてくれる彼が好きだ。
なってくれたらいいのにな。
恋人。
毎朝ジョギングをする涼ちゃんの為に、俺は朝食を用意するようになった。
ヨーグルトとかシリアルみたいな簡単なものから、時間があるときは温かい麺類なんかも。
いつも朝は2人とも何も食べなかったけど、ジョギングでお腹が空いた彼は何を出してもすごい!美味しい!と喜んで食べてくれる。
桜がもう終わっちゃうとか、近くの家の窓からワンコが顔を出していたとか、彼のお土産話を聞きながら過ごす時間は幸せだった。
この穏やかな空間を彼とずっと分かち合っていたいと思う。それと同時に、もう一歩踏み出してみたいと思ってしまう自分にも気がついていた。
ほわほわと笑う彼を抱きしめてキスをしたら、どんな顔をするんだろうか。
ダンス漬けの日々は相変わらずで、毎日同じようなスケジュールをこなしているうちにあっという間に季節が過ぎて行く。
若葉が青々と揺れ、陽射しが輝きを増した5月。明日は涼ちゃんの誕生日だ。
0時になる瞬間をみんなでお祝いしようと、元貴やチームのスタッフ、ダンスの先生達が パーティー仕様に飾り付けられたリビングで談笑している。ケータリングをお腹いっぱい食べ、普段は節制しているお酒をご機嫌に流し込んだ本日の主役はソファに座ってニコニコしている。
「あー、もうけっこう飲んじゃってるね?大丈夫?」
「若井だ〜、大丈夫だーよっ」
ふへへ、と笑う顔はべらぼうに可愛い。
が、このままでは折角お祝いしても覚えてないんじゃない?水でも飲ませようかと思っていると、彼にグイっと腕を引っ張られ、バランスを崩す。彼の隣に勢い良く腰を下ろしてしまい、ぶつからなくて良かったとヒヤッとする。
「もー危ないじゃん、酔っ払い!」
「え〜ごめん〜隣に来てほしかったんだよぅ」
しゅんとして謝る彼にそんなことを言われては、俺は唸るしかない。
「藤澤さん、さっきから若井さんの話ばっかりしてますよ。ほんとに優しいって」
ソファの反対側に座っていたマネージャーから言われ、嬉しさと照れ臭さが押し寄せる。
「え〜ほんと?おれ若井の話ばっかりしてた??」
「いや覚えてないんかい」
酔っ払いの話を真に受けてはいけないと自分を律していると、コーラのグラスを片手に元貴がやって来た。
「りょうちゃ〜ん、もう少しだよ!カウントダウンの準備しなきゃ!」
マネージャーに席を譲られた元貴がスマホを取り出し、インカメにして掲げる。
じゅ〜、きゅ〜、とみんなでカウントダウンをして、ゼロ!の瞬間、クラッカーが鳴り響く。
おめでとう〜!!!と声が行き交う中、涼ちゃんの目からボロボロと涙が溢れ出した。
「え!!!どうしたの!!!」
オロオロする俺にガバッと彼が抱き付いてきて、思考が停止する。
「う、嬉しくて………こんな嬉しいことない、おれ………ありがとうぅ」
ズビズビと鼻を啜りながら、なんと彼は、寝た。
録画を停止するピロンという音がして、元貴が笑いを噛み殺している。周りにいるみんなも笑い声を立てないようにニヤニヤとした口元を押さえたり、さすが藤澤さんだなーなんておしゃべりに戻っていく。
「ちょっと、笑ってないで助けろ」
俺の腰の辺りに手を回し、膝に頭を置いて寝てしまった涼ちゃんを元貴が引き剥がしてくれる。しばらくソファに寝転がしておくか。
主役が寝てしまったのでみんな渡そうと思っていたプレゼントのやり場を無くし、ソファの周りに積んでいく。
「何この光景、おもろ。お供物みたい」
小さくキャキャキャっと笑い、色々なアングルから写真を撮っていた元貴が満足してスマホをポケットに仕舞う。
「で、若井?」
「ん?」
片付け始めてくれているスタッフ達を手伝おうかとダイニングに足を向けた俺を元貴が呼び止める。振り返ると、楽しそうな元貴が俺をじっと見る。
「お前、惚れちゃってるね?」
ストレート過ぎる、問いかけですらない確認に固まる。にやっと笑った元貴が俺に歩み寄って肩をポンと叩く。
「後で話聞くわ、みんな帰しちゃお」
ダイニングに歩いて行く彼に一体何を話せばいいのか、呆然とその背中を見送った。
新譜を拝聴していると1時間とか一瞬で溶けます🫠
いろいろな気持ちが押し寄せて、、、
MVとかもしあったら また衝動的にもりょきを書きたくなるかもしれません👀
コメント
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2人の♥️くんへの想いがちょっと切なくて、でも2人で付き人になるとか健気すぎ🥹と思いながらも、少しづつ距離を縮めている2人がまた可愛いくて🤤❣️ 熱い想いを語り、すみませんでした🙏💦笑
更新ありがとうございます😊 若様のりょさんへの穏やかでちょっと情熱的な愛が好きなんですけど、毎回、りょつぱ作品を読む時、もとさんはどうなんだろう、と気になっちゃうのよね🤔 このお話のもとさんは、りょさんをどう思ってるんだろう?次回それが分かりそうで、ドキドキしてます🤭 新曲、眠くて一度しか聴けてないけど(笑)、feelingに近い、ライブのラストに「またね」って皆で言い合える様な気がしました🫶🏻✨