手分けして部屋を片付け、スタッフと先生達が帰っていく。 残されたのは俺と元貴、それとソファで寝ている涼ちゃん。
今日は曇りがちで少し冷える。羽織っていたシャツを脱いで涼ちゃんにそっと掛けた。
「ぶっ………や、やさし………!」
心底楽しそうな顔の元貴が笑いを我慢しようとして失敗し、ヒーヒー言っている。
もうバレているなら誤魔化す必要もない。開き直った俺はフン、と息を吐いて首を傾げた。
「好きな子に優しくしてなんか悪い?」
「いや、悪くないです、いいね、いいことだよ」
元貴はニヤニヤしながらキッチンに向かい、冷蔵庫からコーラのボトルを2本取り出すと ダイニングテーブルの椅子を引いて座った。
俺の分のコーラを持ち上げて見せた後、対角の席を指差す。あまり気乗りはしなかったが、 しぶしぶダイニングに向かい、示された椅子に腰を下ろした。
差し出されたボトルを受け取り、キャップを開けて口をつける。喉に炭酸の刺激を感じながら元貴を見ると、元貴も俺を見ていた。口元は相変わらずにやけている。
「いや、前からレッスンの時とかさ、なんか若井が変だなとは思ってたんだけど。お前完全にやられちゃってんじゃん。りょうちゃんに抱きつかれた時のお前の顔、見てみ?」
スマホを取り出してこっちに差し出してくる元貴の手を「いらん!」と押し返す。
「抱きつかれてラッキーとか思えないくらいマジになっちゃってんでしょ?それりょうちゃんは知らないの?」
「知らないに決まってんだろ。そんなん言えるか!」
涼ちゃんを起こさないように小声で言い返す。コイツなんなの、恋バナとか興味あるヤツだったか?元貴の意図が分からず、涼ちゃんが起きないか心配でもあり、ソワソワする。
「なんで、お前そんな奥手だったっけ?据え膳あったら喰っちゃうタイプでしょ」
言い返せず、思わず黙る。過去のあれやこれや、色んなことがバレちゃってんのがダルい。
「……オマエ涼ちゃんにいらんこと言うなよ?」
「どっち?お前の気持ち?過去の悪事?」
「どっちもに決まってる…ってか悪事って何だよ、そんな悪い事なんかなんもしてねーわ!」
また元貴が机に突っ伏して笑っている。ほんと何なんだ?忙しいだろうしもう帰ればいいのにと思ってしまう。
俺ははぁ、とため息をつき、手に持っていたコーラを流し込む。元貴に揶揄われるだけの時間なら俺は涼ちゃんの寝顔を眺めていたいわ。
うんざりした俺の様子にようやく気づいてくれたのか、元貴がニヤニヤを引っ込めて少し真面目なトーンで話し出す。
「いや、俺はけっこう嬉しいのよ。親友にガチで好きな人ができたってのもだし、あれだけりょうちゃん苦手だったお前がそこまで心許したか〜って。りょうちゃんいい人だったでしょ?」
「まぁ…元貴のおかげで涼ちゃんのこと良く知る機会もらったからね、それは感謝してるよ」
元貴が得意げな顔で笑う。
「俺はお前とりょうちゃん、相性いいと思ってたんだよね。お前と暮らし始めてからりょうちゃんメンタル落ちにくくなってっし。けっこういい感じなんじゃないの?」
元貴の言葉に僅かに浮き上がる気持ちを抑え、苦笑する。確かに仲は良くなった。でもそんな簡単なもんじゃないのよ。
「涼ちゃんは俺のこと絶対そんな目で見てないでしょ。そもそもさ、普通は男に…しかも一緒の家に住んでる男に告白されるのとかさ、めっちゃ恐怖じゃない?俺は涼ちゃんにそんな思いさせたくねーのよ」
「まーね、一緒に住んでて告ってダメだったらお互い地獄だよなー」
ふむ、と元貴が何か考える素振りを見せる。
「…そろそろ活動再開のこと考えようか?りょうちゃんも普段元気そうにしてるけどさ、誕生日祝ってもらっただけであんな泣いちゃうとかちょっとヤバいのかも」
「え。………………マジ?」
突然の言葉に、喜びや安堵より混乱が襲いかかる。色々な思いが交差して言葉が出ない。
「すぐには無理だけど、…来年くらいかな。再開が決まったら同居も解消になるだろね。そしたら若井も動きやすくなるじゃん」
いいことばっかりだなーと、なんでもないような軽い調子で話す元貴を呆然と見ながら、俺は頭の中が真っ白になっていた。
この生活が、涼ちゃんとの日々が、終わる………?
コメント
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若様、心の中が忙しそうだな〜🤭 同居してたら告白できないけど、同居をやめるのも寂しいのね…可愛すぎる🥰
私も💛ちゃんに抱きつかれた時の💙様の顔見たいです❣️👀笑 シャツをかけてあげたり、同棲してるから告白して気まずいの避けたいとか、💙様の💛ちゃんファーストが素敵過ぎます🤭💕 でも昨日の配信の💙様、良い感じにぶっ飛びキャラで面白かったですよね🤣❣️ きぃさんのスパダリな💙様とのギャップにひとりニヤニヤでした🤣笑